家族信託とは?仕組みやメリット・デメリットをわかりやすく解説!不動産投資との関係も紹介
- 公開:
- 2024/07/01

家族信託は「認知症による資産凍結」の対策手法として注目を集めています。2006年に始まった制度でまだ浸透しきっていませんが、深刻化する高齢化社会に向けて知っておくべき手法のひとつです。
そこで今回は家族信託の仕組みやメリット・デメリットをわかりやすく解説します。また家族信託が特に役立つ「不動産投資をしているケース」についても解説。この記事を読んで家族信託を理解すれば、ご自身やご家族の老後の心配ごとをひとつなくせるでしょう。
家族信託とは「老後の財産管理の手法」のひとつ
家族信託は「老後の財産を管理する手法」のひとつです。詳しく見ていきましょう。
認知症になってしまった場合に家族が財産を管理する
家族信託は、主に親が認知症になってしまった場合を想定して、家族(子ども)が財産を管理するために活用される手法です。通常、認知症になり判断能力が低下すると資産が凍結されてしまい、下記の問題が生じます。
- お金を引き出せなくなる
- 不動産が売れなくなる
- 生前贈与ができなくなる
そこで財産を持つ人が認知症になる前に家族信託を行っておけば、家族が裁量をもって親の財産を管理できます。「資産が凍結されて、介護医療費や生活費が足りなくなってしまった……」といったトラブルを未然に防ぐことが可能です。
家族信託の基本的な仕組み
家族信託は下記の3者間で行います。
- 委託者:財産をもともと持つ人
- 受託者:財産を管理・運用する人(財産の名義は受託者になる)
- 受益者:財産による利益を受ける人
「委託者」が財産の名義を「受託者」に渡して管理運用してもらい、それによる恩恵・利益を「委託者」が受ける、という仕組みです。通常は「委託者」と「受益者」が同じ人になります。たとえば委託者が持つ不動産を受託者が売った場合、売却金額は委託者(=受益者)のものになる、というわけです。
家族信託の手続き方法
家族信託は信託の内容や委託者・受託者・受益者などの取り決めを記載した「信託契約書」を作成すれば成立します。
ただし契約書の効力を確実なものにしたい場合は、最寄りの公証役場で信託契約書を「公正証書」にしてもらいましょう。また委託者の財産と受託者の資産を明確に分けて管理するために、家族信託専用の口座(信託口口座)が必要になるため、金融機関に行って開設してください。
なお財産に不動産が含まれている場合は、委託者から受託者へ名義を変更する必要があります。名義変更は書類をそろえて法務局へ行けば自分でも可能ではありますが、非常にややこしく専門知識が必要なため、司法書士などの専門家に依頼するのがおすすめです。
家族信託にかかる費用の目安
家族信託は信託契約書さえ作れば成立するので、特に費用はかかりません。ただし、信託契約書を公正証書にする場合や、財産に不動産が含まれる場合は下記の費用がかかります。
- 信託契約書を公正証書にする場合:1万円~5万円
- 財産に不動産が含まれる場合(名義変更の登録免許税):土地の固定資産税評価額の0.3%および建物の固定資産税評価額の0.4%
なお信託契約書の内容を司法書士などの専門家に確認してもらう場合にも、別途依頼費用がかかるので注意しましょう。全体で財産の1~2%ほどの費用がかかると思っておくのが無難です。
家族信託の5つのメリット
家族信託のメリットは下記の5つです。
- 事前に認知症などのリスクに備えられる
- 「成年後見制度」よりも広い裁量が与えられる
- 相続時の遺産分割協議が省略できる
- 二次相続以上の資産承継先を決められる
- 不動産の共同相続トラブルを回避できる
主に「認知症対策」や「相続」の面でメリットがあります。詳しく見ていきましょう。
事前に認知症などのリスクに備えられる
家族信託の最大のメリットといえるのが、事前に認知症などのリスクに備えられる点です。もし家族信託を行わないまま認知症になり判断能力がないと診断されると、資産が凍結され家族であってもお金を引き出したり不動産を売ったりすることができません。そこで事前に家族信託を行っておけば、家族がある程度自由に金銭の管理や不動産の売買を行えるようになります。
内閣府の「平成29年度版高齢社会白書」によれば、2030年に高齢者の20.2%が認知症になると推測されています。人数にすると800万人であり、ほとんどの人にとって認知症は「他人事」ではありません。
特に不動産を持っている人は資産凍結されると非常に厄介なため、家族信託を早めに検討しましょう。
「成年後見制度」よりも広い裁量が与えられる
家族信託を行った場合、成年後見制度よりも広い裁量を与えられます。成年後見制度とは、被後見人(認知症になった人)に代わって財産を保護する後見人(主に弁護士や司法書士)を付ける制度のことです。家族信託と比較したとき、成年後見制度には下記のデメリットがあります。
- 被後見人のお金が必要最低限しか引き出せなくなる
- 被後見人の不動産を裁判所の許可なく売却できなくなる
- 被後見人の資産運用が原則できなくなる
成年後見制度の目的は「被後見人の財産の保護」であることから、お金が減る可能性のある行為ができません。お金・不動産の取引が自由にできなくなるのはもちろん、資産運用も制限されてしまいます。こうした取引には、その都度に家庭裁判所の許可が必要です。
一方で家族信託なら、お金を引き出すことも、不動産を売ることも、資産運用をすることもできます。特に収益不動産や証券がある場合は、成年後見制度により後見人をつけられる前に、家族信託を行っておくと良いでしょう。
相続時の遺産分割協議が省略できる
家族信託では、あらかじめ財産の承継者を決めておくことが可能です。これにより、相続時に財産を分割するために行う「遺産分割協議」が省略できます。なお家族信託による承継者の決定は、遺言と同じく法律上の効果を持ちます。
相続人同士の仲が良くても、いざ相続になると誰が何を相続するかで揉めがちです。家族信託を行っておけば、面倒な相続のトラブルが起きる心配はありません。
二次相続以上の資産承継先を決められる
家族信託では財産の次の承継者だけでなく、さらにその次の承継者を決めることも可能です。たとえば会社を経営していて、将来を考えると継がせたくない法定相続人がいる場合に使えます。遺言ではこの「二次相続」には対応できませんが、家族信託なら対応可能です。
不動産の共同相続トラブルを回避できる
相続において非常に厄介なのが、親が収益不動産を持っているパターンです。家賃収入を生み続ける収益物件は、言ってしまえば「金の成る木」のようなもの。もっとも「誰が相続するか」で揉める原因になります。
家族信託を行わない場合は「共同相続」という手法をとり、不動産の価値を等分して相続人全員を不動産の権利者とするケースがほとんどです(厳密には、共同相続では遺産を分割していない「仮の相続」の状態になります)。しかし、これには下記の問題点があります。
- 不動産の売却や修繕に全員の合意が必要になる
- 相続人が亡くなると次の代にも共同相続されてしまう可能性がある(最終的にだれが権利者か分からなくなってしまう)
そこで家族信託を活用すれば、管理や売買の権利は相続人の一人に渡るものの、収益や費用を平等に分配することが可能です。「売買できない」「相続者が増えていく」といったトラブルの心配なく、収益不動産を運用・管理できるでしょう。
家族信託の3つのデメリット
家族信託には下記3つのデメリットもあります。
- 受託者を全員がやりたがらない場合は使えない
- 祖父母・両親の合意を得づらい
- 相続税など税金の節税効果はない
それぞれ見ていきましょう。
受託者を全員がやりたがらない場合は使えない
万が一、家族が一人も受託者をやりたがらなかった場合には、家族信託そのものが使えません。受託者は財産の運用管理の手間や責任を負う一方で、相続までほとんどメリットがない問題点があります。家族信託を行いたいタイミングになって「誰もやりたくない」とならないよう、早めに対策を打っておくことが必要です。
祖父母・両親の合意を得づらい
家族信託は2006年に始まった比較的新しい制度であること、健康なうちに財産を他人に管理されることに抵抗がある人が多いことから、合意を得られないこともよくあります。特に「不動産名義が生きているうちに変わってしまう」のが、家族信託が理解されづらいポイントです。万が一認知症になってしまった場合に起こり得る「資産凍結」のリスクを説明し、納得してもらう必要があります。
相続税など税金の節税効果はない
家族信託では管理・運用の権利こそ受託者に移るものの、あくまで財産権は委託者(=受益者)のものです。相続時の評価額は変わらないため、亡くなった場合の相続税も通常の相続と同じくかかります。直接的な節税効果はない点に注意しましょう。
家族信託の3つの注意点
家族信託には下記3つの注意点もあるので押さえておきましょう。
- 委託者と受益者が違う場合は贈与税が発生する
- 農地をそのまま家族信託することはできない
- すでに認知症になっている場合は使えない
それぞれ解説します。
委託者と受益者が違う場合は贈与税が発生する
一般的な家族信託では、委託者=受益者になるように取り決めます。この場合に贈与税などの税金は一切発生しません。一方で、下記のようなケースでは贈与税が発生してしまいます。
- 委託者:父親
- 受託者:子ども
- 受益者:母親
これは委託者と受益者が異なる場合、発生した利益が委託者から受益者への贈与とみなされるためです。こうしたトラブルを避けるために、委託者・受託者・受益者は正しく取り決める必要があります。不安なら司法書士などの専門家に相談しながら信託契約書を作成しましょう。
農地をそのまま家族信託することはできない
土地・建物などの不動産は家族信託が可能な一方で、例外として「農地」だけはそのまま家族信託ができません。これは農地法3条で定められています。
農地を宅地などに転用すれば家族信託は可能です。しかし手続きに数ヶ月の期間を要するため、より早い準備が必要になる点を押さえておきましょう。
すでに認知症になっている場合は使えない
家族信託はあくまで「これからの認知症に備えるための手法」です。すでに認知症になってしまい、資産凍結されている場合には使えません。親もしくはご自分が70代前後になり、認知症になるリスクが高くなった時点で早めに家族信託の準備を始めましょう。
家族信託と不動産投資との関係性
認知症になるリスクのある人が不動産投資をしているケースでは、家族信託で準備をしておくことが重要です。詳しく解説します。
後見制度では投資用の物件を運用管理できない!家族信託の制度を活用しよう
認知症になり資産が凍結した後に使われる「成年後見制度」では投資用の収益物件を運用管理することができません。入居者を増やすための大規模修繕などもできなくなってしまうため、最終的に入居者のいなくなってしまった空き部屋を持ち続けるだけのケースもあります。
そこで家族信託を使えば、受託者になった子どもなどが代わりに売却・修繕などを行うことが可能です。収益物件を積極的に運用して、大きな利益を生み出し続けることもできます。特に安定した収益を維持している場合には、早めに家族信託を検討すべきでしょう。
収益が落ちた物件の売却・処分も自由!後継者に負債を残す・残される心配はない
家族信託を行っておけば、万が一収益が急激に落ちた物件でも委託者の裁量で売却・処分が可能になります。つまり、自分の収益物件が子どもにとって負債になったり、反対に親から負債となる物件を残されたりする心配はありません。収益物件があるなら、リスク回避のためにも家族信託を行っておきましょう。
通常の不動産投資とは違い損益通算による節税ができないので注意
不動産投資においてメリットの大きい家族信託ですが、赤字が出た場合に損益通算による節税ができないデメリットもあります。通常の不動産投資では赤字の不動産所得を確定申告書に記載し、ほかの所得と差し引きして節税することが可能です。しかし家族信託で運用する不動産については、租税特別措置法第41条の4の2により損益通算が禁止されています。
特に注意したいのが、信託した収益物件が複数ある場合です。Aの物件で100万円の利益が出て、Bの物件で100万円の損失が出ていたとしても、Aの物件の利益の100万円にかかる税金のみが発生してしまいます。黒字・赤字の物件がそれぞれある場合は、家族信託のタイミングをギリギリまで待たないと損をすることもあるので注意しましょう。
まとめ
家族信託を活用すれば、認知症による資産凍結の対策ができます。資産凍結による生活費や介護医療費の不足に対応できるので、早めに家族信託の準備を進めましょう。
特に不動産投資用の収益物件を持っている場合は、資産凍結されると売却・修繕などの行為がほぼすべてできなくなるのが非常に厄介です。「成年後見制度」でも対応できないため、家族信託で対策することをおすすめします。
当社では将来の家族信託などを想定した不動産投資のご提案も可能です。不安な点があれば、当社の不動産コンサルタントが親身にお聞きしますので、お気軽にご相談ください。

この記事の執筆: 及川颯
プロフィール:不動産・副業・IT・買取など、幅広いジャンルを得意とする専業Webライター。大谷翔平と同じ岩手県奥州市出身。累計900本以上の執筆実績を誇り、大手クラウドソーシングサイトでは契約金額で個人ライターTOPを記録するなど、著しい活躍を見せる大人気ライター。元IT企業の営業マンという経歴から来るユーザー目線の執筆力と、綿密なリサーチ力に定評がある。保有資格はMOS Specialist、ビジネス英語検定など。
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