抵当権と根抵当権はなにが違う?登記・抹消方法や不動産投資での注意点を解説
- 更新:
- 2023/06/19

不動産投資について調べているうちに「抵当権」「根抵当権」という言葉を目にする機会が多いのではないでしょうか。実は、抵当権と根抵当権は、似た言葉でありながら意味が異なります。特に、根抵当権が設定されている不動産を売買するときは、通常以上に注意が必要です。
本記事では、不動産投資を検討中の方に向けて、抵当権と根抵当権の違いをわかりやすく解説します。合わせて、登記・抹消方法や不動産投資における根抵当権つき物件の注意点も紹介します。本記事が、抵当権と根抵当権の違いを理解する助けとなりましたら幸いです。
- 目次
- 抵当権・根抵当権とは
- 抵当権と根抵当権の4つの違い
- 抵当権・根抵当権のメリット
- 抵当権・根抵当権のデメリット
- 抵当権・根抵当権の登記方法
- 抵当権・根抵当権の抹消方法
- 不動産投資における根抵当権つき物件の注意点
- まとめ
抵当権・根抵当権とは
抵当権と根抵当権は似た言葉ですが、全く違う意味合いです。ここでは、抵当権・根抵当権それぞれの意味と、不動産投資ではどう使われるかについて解説します。
抵当権とは
抵当権とは、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利です。民法369条1項に規定されています。わかりやすく言うと、債務者が住宅ローンの支払ができなくなった場合、住居に住んだままで(= 占有を移転しないで)債権者に返済ができる権利です。
抵当権を行使する債権者を「抵当権者」、不動産を担保として差し出した債務者を「抵当権設定者」と呼びます。
不動産投資では、投資用の不動産に抵当権が設定されるケースがほとんどです。抵当権とは、返済が滞ったときに不動産を売却し、売却額により抵当権者が債権を回収する権利です。不動産に抵当権が設定されることで、抵当権者は不動産を競売にかけて、返済が滞った債権を回収できるようになります。
根抵当権とは
根抵当権とは、根抵当権を設定した不動産の価値を基準に、設定された上限金額(極度額)の範囲内で、何回でも融資を担保する権利です。民法398条の2に規定されている権利で、抵当権の一種であるとも言えます。借入の度に契約を締結する必要がないため、事業用の借入でよく設定される権利です。
一度根抵当権を設定すると、極度額の範囲内で複数回借入ができます。極度額は、根抵当権が設定された不動産価値の120%程度となることがほとんどです。
不動産投資においては、根抵当権を設定しておくことで、再投資する際の資本借入の手続きが簡略化できます。
抵当とは担保の一種
ここまで「抵当」「担保」と、似た単語が出てきました。抵当と担保は、不動産投資用で融資を受ける際も、よく出てくる言葉です。抵当と担保の違いを簡単に説明します。
担保とは、債務者が債務を弁済できない場合に債権者の損害を補うために設定される権利です。担保には、人が債務を弁済する「人的担保」と物で債務を弁済する「物的担保」の2種類があります。不動産の売却額で債務を弁済する抵当権は、物的担保の一種です。
抵当権と根抵当権の4つの違い
抵当権と根抵当権の大きな違いとして、次の4点が挙げられます。
- 対象債権
- 権利の譲渡・抹消
- 連帯債務者の設定
- 借入額(元本)
4つの項目について、解説します。
違い①:対象債権
抵当権と根抵当権の違いは、以下の2点です。
- 対象となる債権
- 借入総額と返済期日が事前に決まっているか
抵当権の場合、借入総額や返済期日は決まっています。対象となる債権も「マンションの○○号室一室」「住宅一棟」のように、明確です。
根抵当権の場合、返済額を明確にするときに初めて借入総額と期限が決まります。対象債権の範囲も、同様です。債権者と債務者双方の話し合いで初めて決まります。対象債権には、投資対象物件だけでなく家賃収入も含めることも可能です。
違い②:権利の譲渡・抹消
抵当権と根抵当権は、権利の譲渡や抹消についても大きく違います。
抵当権は、権利を譲渡する際に債権者の許可は不要です。債務者の意思で、自由に抵当権の譲渡や抹消ができます。
根抵当権の場合、返済期限や額を債権者・債務者双方の話し合いで決める必要があります。したがって、権利の譲渡や抹消には債権者の許可が必要です。
違い③:連帯債務者の設定
抵当権と根抵当権では連帯債務者をつけられるかについても違いがあります。連帯債務者とは、債務者とともに債務弁済の責任を負うべき人物です。連帯債務者は主たる債務者となる申込者と連名で住宅ローンを契約し、申込者と同じ債務を負うことになります。
抵当権では連帯債務者の設定が可能です。根抵当権は、返済時期や返済額が決まっていない段階で連帯債務者をつけることが認められていません。
違い④:借入額
抵当権と根抵当権では、借入額の設定も違います。
抵当権では、借入額があらかじめ決まっています。根抵当権は、設定された金額の中で何回でも借入できることから、1回の借入額は決まっていません。
抵当権・根抵当権のメリット
債務者(融資利用者)から見た抵当権・根抵当権のメリットを紹介します。
抵当権のメリットは、完済後に融資先を自由に追加できることです。根抵当権のメリットは、一度設定すると抵当権設定登記が不要となることが挙げられます。
抵当権を複数設定する場合は都度抵当権登記が必要です。しかし、根抵当権を設定することで、極度額内で何度も融資を受けられるようになります。抵当権を複数設定しなくていいため借入がしやすくなることも、根抵当権を設定するメリットと言えるでしょう。
抵当権・根抵当権のデメリット
抵当権や根抵当権には、デメリットも存在します。抵当権のデメリットは、ローンの返済が滞った場合に不動産の所有権を失う可能性があることです。
根抵当権のデメリットは2点あります。1点目は、極度額が大きくなると、他の金融機関から融資を受けられなくなることです。2点目は、根抵当権を締結した金融機関を変える際に、金融機関の許可が必要となることが挙げられます。
根抵当権をつけている債務者は、金融機関にとっては長くたくさん融資を受けてくれる「上顧客」です。金融機関は顧客を手放したくないため、根抵当権の抹消にすぐ合意しないケースもあります。金融機関が許可しないと権利を抹消できない点も、根抵当権のデメリットと言えるでしょう。
抵当権・根抵当権の登記方法
抵当権・根抵当権とも登記の流れはほぼ同じで、次の順に進めます。
- 書類を揃える
- 抵当権設定登記を申請する
- 抵当権設定後の登記事項証明書を提出する
最初に、必要書類を揃えましょう。必要書類は、以下のとおりです。
- 抵当権設定契約書
- 不動産の権利証(登記原因証明情報)
- 印鑑証明書
- 本人確認書類
- 会社(法人)の場合、法人の登記事項証明書
この他に実印も必要です。忘れずに準備しておきましょう。
次に、法務局で抵当権設定登記を申請します。提出場所は、対象となる不動産が登記されている法務局です。必要書類と登記申請書、委任状を添えて、窓口もしくはオンラインで提出します。登記申請書や委任状のひな型を法務局ホームページよりダウンロードすると、書類作成がスムーズです。
登記が完了したら、抵当権設定後の登記事項証明書を抵当権者である金融機関に提出しましょう。登記事項証明書は、法務局の窓口か登記情報提供サービスで取得可能です。
抵当権・根抵当権の抹消方法
抵当権・根抵当権の抹消方法を、それぞれ解説します。
根抵当権を抹消する場合は、債権者兼根抵当権者である金融機関の合意が必要です。そのため、抵当権の抹消と比べると、手続きが少し多くなります。
抵当権抹消の方法
抵当権を抹消するには、金融機関に抵当権抹消を申し出て、抵当権抹消に必要な書類を取得します。必要書類は次の3種類です。
- 登記識別情報/登記済証
- 登記原因証明情報
- 代理権限証明情報(委任状)
金融機関の法人番号も必要です。金融機関に問い合わせて、法人番号を聞いておきましょう。
登記事項証明書に記載されている住所や氏名が変わった場合、変更後の住民票や戸籍謄本が別途必要になります。証明書記載の住所から複数回転居している場合は、転居の履歴がわかる書類として、住民票の除票か戸籍の附票を取得することが必要です。住民票の除票は当時住んでいた市区町村役場で、戸籍の附票は本籍地の市区町村役場で発行できます。
書類を揃えたら、作成した登記申請書と一緒に法務局へ提出します。司法書士に依頼する場合は、委任状も一緒に提出しましょう。1週間から10日ほどで、法務局より登記完了証が発行されます。登記完了証の発行により、抵当権抹消登記は完了です。
根抵当権抹消の方法
根抵当権の抹消方法は、次の順番で手続きを進めていきます。
- ローンの残金と売却価額の相場を比較する
- 金融機関と相談し「元本確定」を行う
- 法務局で根抵当権抹消登記を行う
根抵当権を抹消するときは、最初にローンの残金と売却価額の相場を比較することが重要です。売却価額でローンを完済できる場合は、問題なく根抵当権を抹消できます。売却価額でローンが返済できそうであれば、金融機関と相談して返済額を明確にする「元本確定」を行います。元本確定を行ってから、根抵当権の抹消登記に進みましょう。
根抵当権の抹消登記に必要な書類等は、以下4種類です。いずれも、金融機関に依頼します。
- 登記識別情報/登記済証
- 登記原因証明情報
- 代理権限証明情報(委任状)
- 法人番号がわかる書類(根抵当権者の代表者事項証明書(資格証明書)/登記事項証明書など)
売却価額を充当しても債務が残る「オーバーローン」の状態となると、金融機関は根抵当権の抹消に合意しません。オーバーローンとならないよう、売却時のローン残高には十分注意しましょう。
根抵当権は抹消しづらい
根抵当権を抹消する場合は、債権者・債務者双方の合意が必要です。複数物件にまたがって根抵当権を設定していると、抹消できないケースもあります。
金融機関の都合で、根抵当権を抹消してもらえない場合もあります。不動産売却で根抵当権が抹消されると、借入期間の短縮により利息収入が減ってしまうからです。利息収入の減少を避けたい金融機関は、根抵当権の抹消に応じない場合もある点にも留意しましょう。
不動産投資における根抵当権つき物件の注意点
根抵当権は抹消しづらいことから、根抵当権付きの物件を取引する際には注意が必要です。不動産投資において、根抵当権付き物件の購入時、売却時それぞれの注意点を解説します。
購入時の注意点
根抵当権がついている物件を購入するときは、根抵当権の抹消に応じてもらえるか事前にしっかり確認しましょう。根抵当権が残ったまま物件を購入してしまうと、先の根抵当権が優先される(劣後する)ことになるからです。
根抵当権が劣後すると、自分の根抵当権分として返済したお金が、前の持ち主の債務返済に充てられてしまいます。根抵当権が劣後することによる損害を被らないためにも、根抵当権を抹消できることを確認してから物件を購入しましょう。
売却時の注意点
根抵当権をつけた物件を売却する際は、ローン残高が売却価格を上回る「オーバーローン」に注意が必要です。オーバーローンとなった場合、抵当権・根抵当権を解除できないため、本来は売却できません。オーバーローンとなった物件の抵当権や根抵当権を抹消するには、金融機関の合意を得た「任意売却」の手続が必要です。
任意売却は、通常の売却と異なり債務整理の要素があります。そのため、個人信用情報機関に延滞情報が登録される、連帯保証人に残債が請求されるといったデメリットが発生します。
まとめ
投資用不動産を購入した際は、抵当権が設定されるケースがほとんどです。不動産投資において、抵当権と根抵当権の意味は全く違います。言葉の意味を理解しないまま根抵当権を設定してしまうと、売却時に解除できず大変な思いをしてしまうかもしれません。
当社の無料相談では、不動産投資対象物件の抵当権・根抵当権についての相談を随時受け付けています。他社で相談していて、セカンドオピニオンとして意見を聞きたい場合も大歓迎です。抵当権や根抵当権の設定で困ったことがあったら、いつでもご相談ください。経験豊富なコンサルタントが、問題解決に向けてお力添えいたします。

この記事の執筆: 堀乃けいか
プロフィール:法律・ビジネスジャンルを得意とする元教員ライター。現役作家noteの構成・原案の担当や、長野県木曽おんたけ観光局認定「#キソリポーター」として現地の魅力を発信するなど、その活躍は多岐に亘る。大学および大学院で法律や経営学を専攻した経験(経済学部経営法学科出身)から、根拠に基づいた正確性の高いライティングと、ユーザーのニーズに的確に応えるきめ細やかさを強みとしている。保有資格は日商簿記検定2級、日商ワープロ検定(日本語文書処理技能検定)1級、FP2級など。
ブログ等:堀乃けいか