どんなメリットがあるの!?IT重説が不動産投資に与える影響とは!
- 更新:
- 2022/11/21
IT重説、と聞いて、皆さんはどのようなイメージをお持ちになるでしょうか?「ニュースで聞いたことがあるな」という方もいれば、「なんだか難しそう」という印象を持たれる方もいらっしゃるかも知れません。
実はこのIT重説、賃貸取引での運用自体は2017年より開始されていましたが、いよいよ2021年4月より、売買取引においても本格的に運用されることとなりました。
これまでの不動産取引のあり方を一変してしまうほどの影響力を秘めたこのIT重説ですが、世間での認知度はそれほど高くありません。そこで本記事では、「そもそもIT重説とは何なのか」という基本的な事項を解説しつつ、不動産投資ひいては不動産業界全体にどのような影響を与えうるのかについても触れていきたいと思います。
IT重説とは何か?
IT重説とは、テレビ電話やパソコン、スマートフォンなどのITツールを活用して行われる重要事項説明のことを指します。これらのITツールを活用することにより、これまで対面で行われてきた重要事項説明が、自宅等に居ながら受けられることとなりました。
ではそもそも、重要事項説明とは一体どのようなものだったでしょうか。おさらいをしていきたいと思います。
重要事項説明について
重要事項説明とは、宅建業法第35条に定められた事項であり、不動産の賃貸借や売買取引に先立って、宅建業者より契約両当事者へ、取引対象となる不動産に関する重要事項の説明を行うことを指します。この際、有資格者である宅地建物取引士(以下、宅建士)が説明書に記名押印をすることが義務付けられており、宅建士自身が口頭で説明を行う必要がありました。
確かに、この重要事項説明(以下、重説)が不動産取引において最も重要なプロセスの一つであることは、多くの方が認めることだと思います。というのも、不動産取引というのは一回の取引金額が他の取引と比較しても非常に大きく、何かミスがあった際に契約者が被る損害の大きさが甚大であることから、事前に対象不動産に関する事項をクリアにしておくことは、両当事者の権利を保護する観点から必要不可欠であるからです。
しかしながら、この重要事項説明は、「宅建士の対面による口頭説明」が必要条件であったことから、不動産取引の当事者が物理的に移動をし、時間を確保する必要があり、多忙なサラリーマンや、足腰の悪い高齢者にとって大きな負担となっていました。
賃貸契約におけるIT重説
上記のような物理的な負担を軽減するべく、2017年10月に、対面ではなくパソコンなどの端末を介した「IT重説」が解禁されることとなりました。しかしながら、このIT重説は当初賃貸物件の取引のみに適用されることとなり、売買取引については解禁されることはありませんでした。
とはいえ、これまで対面での宅建士による口頭説明が必須であった重要事項説明が、ITを介して行われることになったメリットは非常に大きく、当時IT重説を実際に体験した人への国交省によるアンケート結果でも、「今後IT重説を利用したくない」と回答した割合は僅か6%に留まり、逆に53%もの人が「利用したい」と前向きな回答をしています。
売買契約においても運用開始!
上記のような流れを経て、個人間の不動産売買契約にもIT重説を取り入れようという機運が高まってゆき、そして2019年10月より国交省の主導により売買契約におけるIT重説の取り扱い実験が実施されることとなりました。
この社会実験は、最終的に国交省に登録された宅建業者854社によって、約2,300件程実施されましたが、結論から言うと、この実験は大きなトラブル等なく無事に終了し、2021年4月より、本格的な運用がスタートすることとなりました。
この社会実験のアンケート結果を見ると、機器等のトラブルが無かったと回答した割合は約9割に達し、概ね良好な運用がなされたことが見て取れます。尚、残りの1割のトラブルの内訳としては、音声トラブルや映像トラブル、ネットの回線トラブル等があったようです。
上記のアンケート結果からも分かるように、売買契約におけるIT重説は、特に一部音声や映像のトラブル等があったものの、概ね順調に運用できたとの報告がなされています。
では次に、このIT重説にはどのようなメリットがあるかについて解説をしていきたいと思います。
IT重説のメリットとは?
ここまで、「IT重説とはどういったものなのか?また、どのような経緯で運用の開始がなされたのか?」といった観点で解説をしてきました。この章では、IT重説によるメリットについてお話していきたいと思います。
ズバリ、IT重説のメリットは大きく分けて以下の4つが挙げられます。
- ①移動等の負担が減る
- ②日程調整の幅が広がる
- ③対面と比べて、落ち着いて説明を受けることができる
- ④直接契約者本人に対して説明をすることができる
それぞれ一つずつ、詳しく見ていきましょう。
メリット①:移動等の負担が減る
冒頭でも述べたように、従来の重要事項説明においては、宅建士と対面しての状況だけが想定をされていたことから、契約当事者に移動等の時間的・費用的負担が発生するケースが多々ありました。例えば、地方の学生が、東京の大学に進学するにあたって現地で賃貸物件を探すような場合には、わざわざ東京まで再度訪問して重要事項説明を受ける必要が出てきます。
IT重説を利用することにより、こういった遠方との取引であっても、移動の時間と飛行機等の交通費を節約して、取引できるというメリットがあるのです。
メリット②:日程調整の幅が広がる
不動産取引の中でも、特に売買の経験をされた方であればお分かりになるかと思いますが、多数ある取引のフェーズの中でも、最も時間がかかり、かつ日程調整に手間取るのがこの重要事項説明だと言えるでしょう。
サラリーマンであれば、平日に十分な時間が取れずに重要事項説明のスケジュール調整が出来なかったり、子連れの場合には店舗まで赴くのが難しかったりなど、多くのハードルが存在していました。
そこでIT重説を利用することによって、在宅勤務の昼休みに重要事項説明を受けたり、子供を託児所に預けなくても、自宅で説明を受けられたり、といったメリットが得られるようになりました。
メリット③:対面と比べて、落ち着いて説明を受けることが出来る
重要事項説明は、人によっては「宅建士が難しい用語を早口言葉のように唱えている」と感じる方もいるかもしれません。また、多くの関係者が居合わすようなケースでは、緊張して頭が真っ白になってしまい、契約が終わって自宅に帰ってから質問したい事項が出てきた、といったケースも散見されます。
それに比べて、IT重説では周囲の環境が普段から見慣れた自宅であることから、対面と比べてリラックスして説明を受けることが出来るため、より納得して取引を行うことが出来るようになると期待されています。
また、不動産会社より、事前に契約当事者に対して重要事項説明書を送付する必要があることから、ある程度準備して本番に望むことが出来るといった点もメリットになるかと思います。
メリット④:直接契約者本人に対して説明をすることが出来る
最後のメリット、それは、契約者本人に対して説明をすることができる点です。このように言うと、「え?普通は本人に対して説明するものなんじゃないの?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかも知れません。おっしゃる通り、大半のケースでは本人に対して説明をすることができるのですが、例えばオーナーがかなりのご高齢であったり、自宅での介護を要するような場合には、契約者本人の代理人が、本人の代わりに説明を受けることとなります。
もちろん、対象物件について一番知っているのはオーナー本人であり、代理人はあくまで代理人に過ぎないわけですから、後々「言ってない」「聞いてない」といったトラブルが生じる可能性もゼロではありません。
そういった問題を解決する手段として、IT重説が非常に重要になると言われています。要介護者や足腰の悪い高齢者であっても、自宅でIT機器を通じて説明を受けることにより(もちろんご家族の協力は必要ですが)、高い納得度と理解度で取引に臨むことが出来るようになるのです。
以上の4つがIT重説の主なメリットでした。次章では、このようにメリットのあるIT重説が、不動産投資にどのような影響を与えるかについて見ていきたいと思います。
不動産投資への影響は?
本章では、IT重説が不動産投資にどのような影響を与えるのかについて、見ていきたいと思います。おそらく、読者の方々の中には、「IT重説がすごいのは分かったけど、不動産投資と何か関係があるの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし実は、IT重説と不動産投資というのは密接に関わっています。というのも、前述の国交省によるIT重説運用の社会実験において、全売買取引のうち、なんと64.1%が、投資目的での物件取引だったのです。さらに言うと、取引対象となった物件の種別においては、92.3%が区分所有の物件であり、3,000万円未満の物件が全体の過半数を占めていました。
ここから分かることは、今後IT重説が普及した際には、まず最初に投資用の区分マンションの取引に適用される可能性が非常に高いということです。
では、実際IT重説を取り入れることにより、不動産投資にどのように影響するのでしょうか。大きく、2つの影響について解説したいと思います。
不動産投資への影響①:機動的な投資が可能となる
不動産投資において成功するための大きな要素の一つに、投資スピードの速さが挙げられることは、おそらく読者の皆さんもご納得いただけることと思います。実際、良い物件というのは売りに出たその日に申し込みが入ることも十分ありますし、すぐに見学をしてすぐに申し込みをする、というフットワークの軽さが武器になるでしょう。
一方で、いつでも申し込みや重要事項の説明を受けることの出来る専業大家ならともかく、普段正社員として働かれている会社員の方にとっては、時間をとって重要事項説明を受けるというのは、時間的にも精神的にも大きな障害となっています。
実際、早期の契約を希望する売主とのスケジュール調整がうまくいかず、希望物件が流れてしまったというケースもありました。そのような時、IT重説を上手く活用することにより、平日の仕事終わりや、休日自宅に居ながらでも、契約に臨むことが出来るのは、サラリーマン投資家にとって大きなメリットであると言えるでしょう。
このように、ITを駆使することにより、重説の録画・録音を行うことが出来るようになるというのが、IT重説の大きな影響だと言えそうです。
不動産投資への影響②:納得度の高い取引ができるようになる
IT重説が不動産投資に与える影響の2つ目は、より納得度の高い取引ができるようになる点です。というのも、IT重説を行うにあたっては、国交省によって定められたマニュアルを遵守する必要があり、その中で「重説の録画・録音」を行うよう求められているからです。
不動産投資に失敗してしまう原因の一つに、「よく分からないまま買ってしまった」ということが挙げられます。私も、そういった体験をしたお客様とお話をしたことがありますが、「質問をしてもはぐらかされてしまった」と当時を振り返って仰っていました。実際、これまでの対面による重要事項説明においては、特に録画や録音の義務も無いことから、悪徳な営業マンや不動産会社によっては、重説中に質問しにくい雰囲気を醸し出したり、質問をしても笑って誤魔化したりといったケースもあったようです。
参考もう騙されない!悪徳営業マンを見抜く4つのポイントとは?
しかしながら、IT重説においては、説明する宅建士も含めて録画対象であることから、これまで以上にしっかりと質問に回答をしなければならず、場合によっては説明不足である証拠となる可能性もあるわけです。したがって、これまで誤魔化したり、はぐらかしてきた悪徳な不動産会社も、今後は真摯な態度で重説に取り組む必要が出てくるでしょう。
このように、IT重説における録画・録音の義務が、投資家にとっての納得度の高い取引に繋がることが期待されています。
まとめ
ここまで、IT重説に関する基本的な説明と、IT重説の売買契約への適用までの歴史について解説をし、更に不動産投資にどのような影響があるのかについて見ていきました。
不動産業界というのは、日本の全業界の中でも、かなりIT化が遅れていると言われていますが、そのような状況の中で、IT重説が適用されることは、業界に非常に良い影響を与えることと思います。
本記事で解説したように、IT重説を活用することにより、不動産投資の成功確率を高めることも可能ですので、しっかりと上手く利用していってもらいたいと思います。