半導体メーカー「ラピダス」が北海道千歳市に新工場建設を決定!その理由や世間の反応を解説!
- 更新:
- 2023/09/20
2022年に設立された半導体メーカー「ラピダス」が先日、北海道千歳市に新工場を建設すると発表しました。国内最先端の半導体製造工場となることが期待される中、世間では「なぜ北海道?」という声も飛び交っています。
今回はラピダスの新工場建設の概要と、北海道千歳市が建設予定地に選ばれた理由を解説します。また世間でラピダスの今回の動きに対して、どんな反応があるかもいくつか見てみましょう。
※2023年4月25日に、政府より新たに2,600億円の追加支援が行われることが発表されました。
「ラピダス」が北海道千歳市に新工場建設を決定
国内最先端の2nm半導体の開発と量産を目指す「ラピダス」は2023年2月28日、総額5兆円を投資し北海道千歳市に新工場を建設すると発表しました。代表取締役社長の小池氏は「世界最高水準の工場を造る」と意気込みを語っています。
新工場では、半導体チップ製作の基礎となる「ウエハー」を処理する前工程と、実際の半導体チップを製作する後工程を一貫して行う体制を確保する予定です。工場内での量産を可能とし、安定した半導体製品の大量供給が期待されるでしょう。
ラピダスとは
そもそもラピダス株式会社とは、東京都千代田区に本社を置く半導体メーカーです。国内大手企業のトヨタ自動車、三菱UFJ銀行、NTT、NEC、ソニー、デンソー、キオクシア、ソフトバンクの8社が総額73億円を出資し、2022年8月10日に設立されました。代表取締役社長にはウエスタンデジタル元社長の小池淳義氏が、取締役会長には東京エレクトロン前社長の東哲郎氏が就任しています。
ラピダス設立の背景にあったのは、アメリカの最大手IoT事業者「IBM」からの「2nmプロセス半導体製品の製造のための構造技術を提供したい」という打診です。米中の摩擦貿易が起きている中、アメリカは中国以外の国から、半導体を安定して調達できるルートを確保する必要がありました。
地政学的な側面から、アメリカは半導体の調達ルートに日本を選択。しかし、日本にはこのIBMの打診を受け入れられる企業がいませんでした。多くの国内半導体メーカーは、最終的な成果物であるチップの製作を外部に委託していたり、新たな工場を設立するだけの資金がなかったりするのが現状です。
そこで国内最先端の半導体技術の担い手として、大手企業の資金と技術を集約し「ラピダス」を設立。さまざまな課題は残るものの、2nmプロセス半導体の量産化が期待されています。
建設予定地は新千歳空港そばの工業団地
新工場の建設予定地は、新千歳空港のすぐ東部にある「千歳美々ワールド」の一画です。現時点では東京ドーム約14個分にあたる、約65ヘクタールの敷地を確保しています。敷地内に工場と研究施設を併設する予定です。
千歳美々ワールドは新千歳空港に隣接し、苫小牧市の港へも30分以内の好立地となっています。また今後増築となった場合も、周辺の土地を約35ヘクタール取得可能です。最終的な敷地面積は100ヘクタールを想定しており、国内最大規模の半導体生産工場となるでしょう。
2027年には「2nmプロセス以下の次世代半導体」量産化が目標
ラピダスが今回の北海道千歳市の工場を中心に実現しようとしているのは、米IBMから打診された「2nmプロセス以下の次世代半導体」の量産化です。2nmプロセス製品は主にスーパーコンピューターや自動運転技術、AIの分野に活用されます。
この2nmプロセス製品の量産化を、2027年に実現するのがラピダスの目標です。2025年には試作ラインを完成させ、安定化が実現した段階で工場用地を広げ、さらなる量産体制に入るとみられています。
しかし現時点で国内主流となっているのは、7nmプロセス以上の半導体製品です。先端技術を持つとされる「TSMC」でも、5nmプロセスの半導体製品を流通しています。ラピダスには大きな期待が高まる一方、「今の日本の技術で本当に作れるのか?」という疑念も出てきています。今後のラピダスの動向が気になるところです。
日本政府は初年度700億円の出資を決定
ラピダスによる次世代半導体の量産化を図るために、日本政府も国を挙げた動きを見せています。日本政府は2022年11月11日に、ラピダスに対し700億円の補助金支給を決定しました。
しかし装置やIBMに支払うライセンス料、社員の人件費などを加味すると、700億円で不足することは明白です。2023年2月には追加で3,000億円を出資する方向で調整に入っていますが、それでも不足しています。
例えばアメリカでは、2022年8月に「半導体産業支援法」が成立し、今後5年間で半導体メーカーに約7兆3,150億円を投入する予定です。日本政府のラピダスへの出資額とは、明らかに規模感が異なるでしょう。
「その出資額で本当に成功するのか」という懸念も関係者から噴出しており、今後の日本政府の「本気度」も注目のポイントです。
ラピダスが北海道千歳市を選んだ理由とは?
ラピダスはなぜ新工場の建設地に「北海道千歳市」を選択したのでしょうか。代表取締役社長の小池氏は「大自然に囲まれた広大な工場用地で、われわれの工場、研究、人材育成を大きな意味を持って推進できると確信した。」と述べています。
この北海道千歳市が、半導体製造の新たな拠点として選ばれた理由を深掘りしてみましょう。
水資源が豊富
千歳市付近に広がる「石狩平野」は、広大な地下水盆を形成しています。そのため半導体製造に欠かせない、大量の「水」を安価に確保できるのです。
もちろん、半導体製造にはくみ上げた地下水をそのまま使うわけではありません。最終的には飲用水の約1,000倍の純度まで浄化する必要があります。しかし地下水は表流水よりも水質が安定する傾向があるので、浄化にかかるコストは少なくなります。
ほぼ枯渇しない水源を安価に確保できる千歳市は、半導体製造に適したエリアと言えるでしょう。
再生可能エネルギーによる発電コストの抑制が可能
北海道はもともと太陽光と風力をはじめとする「再生可能エネルギー」による発電が充実しているため、直接の給電ルートを持つことで発電コストの抑制が可能です。特に石狩湾沖の「洋上風力」による発電は、ここ数年で大幅な増加傾向にありました。
さらに2023年2月22日には、関西電力が石狩湾沖にさらなる大規模洋上風力発電所の建設計画を進めていると発表。その最大出力は178.5万Kwと試算されており、これは道内最大の苫東厚真火力発電所の165万Kwをもしのぐ規模です。
さらには昨今の電気料金の値上げ抑制のために、北海道では2012年から稼働を停止している泊原発の再稼働も計画中です。しかし泊原発の再稼働と石狩湾沖の洋上風力発電建設がともに実現されれば、電力の供給過剰が起きる可能性も指摘されています。
そんな中発表されたラピダスの建設計画は「政府の誘導では?」とうわさされている一面もあります。真相は定かではありませんが、北海道千歳市で安価かつ安定した電力供給を受けられるのは間違いないでしょう。
高等教育機関からの人材確保の優位性
北海道千歳市は、道内でも技術的人材確保の面において優位性があるとされています。まず目につくのが、建設予定地すぐそばにある「公立千歳科学技術大学」です。同校には「電気電子工学科」や「応用物理学科」など、半導体に関連する分野の学科が充実しています。
また北海道の中心、札幌市は千歳市から1時間程度の距離にあります。札幌市には北海道最大の「北海道大学」をはじめ多数の大学があるので、優秀な人材の獲得が容易です。高等教育機関が充実した千歳市周辺は、最先端の半導体製造技術を担うにふさわしい人材を集結させられるといえるでしょう。
交通インフラの確保
製造した半導体の流通には、交通インフラの確保が必須条件です。その点建設予定地の付近には「新千歳空港」があり、南北には「苫小牧港」と「石狩港」があります。空、海の2ルートが充実する千歳市は、製造した半導体を流通するのに最適なエリアです。
半導体供給先の充実
安定した経営を継続するためには、近隣に供給先が充実していることも必要です。建設予定地の周辺には、「トヨタ」をはじめとする自動車産業や、電子機器関連の工場が集中しています。
さらに今回の建設に伴い、供給先となる企業や半導体関連産業を同工業団地に誘致する見込みです。今後ラピダスの新工場建設にとどまらない、さらなる半導体産業の発達が期待できるでしょう。
増設のための土地確保が容易
建設予定地となっている「千歳美々ワールド」は、全体で147.5haの広大な面積をもつ工業団地です。ラピダスは、すでにこのうち65haの面積を確保しています。
最終的には100haもの敷地面積を想定していますが、千歳美々ワールドの面積なら実現可能です。ほかの条件をクリアしつつ、これだけの大規模工場を建てられる面積を確保できたのはここ千歳市の「千歳美々ワールド」だからこそでしょう。
災害時のリスク分散
半導体に限った話ではありませんが、大規模製造業は災害時のリスク分散を検討しないと、万が一の有事の際に大打撃を受けてしまいます。その点、まだ半導体製造の分野に長けているとは言えない北海道は最適でした。
過去の日本国内の例をみると、東日本大震災時に大手半導体メーカー「ルネサスエレクトロニクス」のクリーンルームが倒壊し、さらには停電の影響で製造が完全にストップしています。同社は自動車産業への半導体供給の大部分を担っていたため、国内産業に大打撃を与えました。
今回、新たに北海道を拠点とすることで、大規模災害が発生してもストップするリスクなく半導体供給が可能になるでしょう。
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ラピダスの北海道進出に対する世間の反応
ラピダスの北海道千歳市への新工場建設に関して、Twitterを中心として世間からさまざまな反応が飛び交っています。いくつか特徴的なものを見てみましょう。
気象条件への不安
ラピダス 北海道千歳市に工場建設決定。
断熱、積雪荷重 建設コストが割高になるね。
国策の次世代半導体を、なぜ地政学的リスクの高いロシアに近い場所に造るのか?
本末転倒な感じ。
引用Twitter
北海道での建設に対し、「断熱」「積雪」への対策の不安が高まっています。特に「断熱」の面は、半導体製造にとって非常に重要なポイント。半導体の基礎となる「シリコンウエハー」を製造するには、作業室(クリーンルーム)内の温度を22~24℃、湿度を45〜50%で維持する必要があるのです。
「極寒の北海道で建設して、断熱コストは大丈夫なのか?」と懸念されるのも無理はありません。千歳市は道内では比較的温暖ですが、それでも冬季の平均気温は氷点下となっています。どのように対策し、どのようにコストを抑えるのか今後に注目です。
「本気で2nm半導体を作る気があるのか?」という疑問
ラピダスが半導体開発エンジニアを月給27万1,000〜で募集。時給だと1,700円($12.50)。シアトルのレストランのウェイター・ウェイトレスの時給は、その倍の$25〜(+ チップ)。シアトルの看護士の最低賃金は、さらにその倍の$50。何かがおかしい。
引用Twitter
こちらはTwitterで数百人のユーザーに拡散され、波紋を呼んでいる投稿です。千歳市への新工場建設計画が発表されたのとほぼ同時期に、ラピダスが「月給27万1,000円」でエンジニアを募集しています。
よく求人を見てみると、本社のある東京での勤務ではなく、アメリカ・ニューヨークで最先端の半導体技術を学んでくるという内容となっています。ニューヨークの物価などを考慮すると、最低でも100万円程度の月給がなければ割に合わないでしょう。
このラピダスの業務内容に見合わない求人に、世間からは「本当に2nm半導体を作る気があるのか?」という意見が飛び交っています。
ラピダスは国内の半導体産業を牽引する存在となるのか、それとも米IBMの期待にも国民の期待にも応えられず失敗で終わるのか、今後の動向から目が離せません。
スケジュールへの懸念
千歳は支笏湖もあってイイところですが、上手くいくのかなぁ~と眉唾。
2025年に試作ラインを作ると言っていますが、あと2年無いのですが、大丈夫?
参考Twitter
ラピダスは千歳市の新工場で、2025年に試作ラインの稼働をスタートし、2027年に本格的な量産をスタートすると発表しています。しかし、現在はすでに2023年。試作ラインの稼働まで2年もない状況です。
本格稼働までの期間も4年と予定されていますが、政府の投資額が少ないことから「半導体製造技術の後れを取り戻せるのか?」という声も。今後のラピダスと政府のスピード感、そして本気度が注目されます。
まとめ
ラピダスが北海道千歳市を選んだことには、主に7つの合理的な理由がありました。今後、国内最先端の半導体産業の担い手となることが期待されます。
しかし世間の声からも読み取れるように、最先端の2nmプロセス半導体を量産するにはまだまだ課題が山積みです。一見多額に見える政府の投資額も、他国と比較すると圧倒的に不足しているといえるでしょう。
とはいえ建設計画はまだ始まったばかりです。一つひとつの課題をクリアし、ラピダスは国内産業を立て直す存在となるのでしょうか。今後も政府とラピダスの動きに注目です。
この記事の執筆: 及川颯
プロフィール:不動産・副業・IT・買取など、幅広いジャンルを得意とする専業Webライター。大谷翔平と同じ岩手県奥州市出身。累計900本以上の執筆実績を誇り、大手クラウドソーシングサイトでは契約金額で個人ライターTOPを記録するなど、著しい活躍を見せる大人気ライター。元IT企業の営業マンという経歴から来るユーザー目線の執筆力と、綿密なリサーチ力に定評がある。保有資格はMOS Specialist、ビジネス英語検定など。
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