不動産所得がある場合のふるさと納税上限額は?計算方法やワンストップ特例の注意点を解説!
- 更新:
- 2025/01/12
ふるさと納税は、自分で選んだ自治体に寄附をすることで、2千円の自己負担額を引いたうち、一定額の税金が還付または控除される制度です。寄附をした自治体から返礼品をもらえることから、大変人気となっています。個人で気軽に利用できるお得な制度として利用者数は増え続けており、すでにふるさと納税をされている方も少なくないでしょう。
ただし、ふるさと納税をする際には、事前に知っておくべき注意点がいくつか存在します。不動産投資を行っている方にとっては、特に以下の点が気になるのではないでしょうか。
- 不動産所得でふるさと納税の控除上限額は変わるのか
- ワンストップ特例は使えるのか
この記事では、不動産投資の所得がふるさと納税に与える影響や、シミュレーションによる控除上限額の計算方法、ワンストップ特例など確定申告に関する注意点を解説します。不動産投資とふるさと納税の関係を知りたい方は、ご一読ください。
ふるさと納税の特徴
ふるさと納税とは、任意の自治体を選んで寄附を行うことで、一定の寄付額が税金から寄付額の還付・控除される制度です。総務省の調査によると、ふるさと納税の実績は、2014(平成26)年から順調に上昇中。2023(令和5年)度のふるさと納税受入額は、12,000億円=1.2兆円にも及びました。
ここでは、寄附の流れに沿ってふるさと納税の特徴を解説します。
好きな自治体に寄附できる
ふるさと納税の最たる特徴は、好きな自治体を選んで寄付できることです。「ふるさと」と名前が付いていますが、住所地や出身地から選ぶ必要はありません。寄付先としては、個人的に応援したい自治体や、欲しい返礼品を用意している自治体が多く選ばれます。
ふるさと納税を扱うWebサイトから寄附を行うと、自治体から寄附を証明する「受領書」が発行されます。受領書は確定申告に必要となるため、大切に保管しておきましょう。
返礼品がもらえる
返礼品がもらえることがふるさと納税の大きな特徴でもあり、お得といわれる理由でもあります。一定の金額以下であれば、実質2千円の自己負担で負担金以上の価値がある返礼品の受け取りが可能です。
返礼品とは、寄附を受けた自治体から「お礼」としてもらえる品物のこと。返礼品は肉や海鮮、フルーツなどの食品や家電といった品物だけでなく、体験チケットやクラウドファンディングなど多岐にわたります。品物の返礼品は、寄付先が定めた時期に送られてくるのが一般的です。
なお、ふるさと納税開始から、各自治体が返礼品をどんどん豪華にすることで寄付を集める競争が激化。返礼品の豪華さを基準に、寄付先が選ばれる傾向が強まっていきました。2019(令和元)年6月からのふるさと納税においては、ふるさと納税の本筋から逸れた状況を是正する目的で、総務大臣によって次の指定が下されています。
- 返礼品の返礼割合を3割以下とすること
- 返礼品を地場産品とすること
返礼品の返礼割合を定めた指定により、「前の返礼品と比べると、ふるさと納税のメリットが少なくなった」という声もあります。総務大臣による指定以降、返礼品の割合は下がりました。とはいえ、それでも2千円の自己負担額で数々の返礼品を受け取れている事実を考慮すると、今から取り組んでも損はない制度です。
税金が還付・控除される
ふるさと納税を行うと、所得税や住民税が還付、もしくは控除されます。実質2千円の自己負担でふるさと納税ができるのは、寄附した金額から2千円を引いた額が、所得税や住民税から還付または控除されるからです。
確定申告を行う基本的なふるさと納税の場合は、寄附をした年の所得税から、ふるさと納税で納付した額を一部控除。さらに寄附をした翌年の住民税からも、税金が控除されます。源泉徴収などで所得税を支払い済みである場合は、ふるさと納税をすることで払いすぎた所得税が還付されることもあります。
なお、寄附をすればするほど税金が控除されるわけではありません。控除される税金の上限額は、課税所得に応じて定められています。上限を超えて寄附した分は控除の対象外です。自己負担を2千円に抑えるには、自分の控除上限額をシミュレーションしておくことが欠かせません。
不動産所得がふるさと納税に与える影響
不動産所得は、ふるさと納税の上限額にも少なからず影響を与えます。特にサラリーマンと兼業で不動産投資をしている場合、所得が増えれば総所得が増えるため控除限度額も増加。給与所得だけのときに比べると、多くふるさと納税ができます。
ここからは、不動産投資が黒字の場合と赤字の場合それぞれで、ふるさと納税の上限がどのように変わるのかを見ていきましょう。
なお、この項目で取り上げるのは、住宅ローン控除や医療費控除等、他の控除を受けていない給与所得者のケースです。事業所得者や他の控除を受けている方は、計算方法が変わります。
ふるさと納税の限度額は所得により変わる
ふるさと納税の限度額は、給与収入や家族構成に応じていくつかの段階にわけられています。以下は、総務省がまとめたふるさと納税額の一覧表から、収入額と上限額の一部をピックアップした表です。
(単位/円)
納税者本人の給与収入 | 子どもなし | 子どもあり | |||
---|---|---|---|---|---|
独身 夫婦共働き |
配偶者に収入なし | 共働き 高校生の子1名 |
配偶者に収入なし 高校生の子1名 |
共働き 高校生と大学生の子各1名 |
|
300万円 | 28,000 | 19,000 | 19,000 | 11,000 | 7,000 |
400万円 | 42,000 | 33,000 | 33,000 | 25,000 | 21,000 |
500万円 | 61,000 | 49,000 | 49,000 | 40,000 | 36,000 |
600万円 | 77,000 | 69,000 | 69,000 | 60,000 | 57,000 |
700万円 | 108,000 | 86,000 | 86,000 | 78,000 | 75,000 |
800万円 | 129,000 | 120,000 | 120,000 | 110,000 | 107,000 |
900万円 | 152,000 | 143,000 | 141,000 | 132,000 | 128,000 |
1千万円 | 180,000 | 171,000 | 166,000 | 157,000 | 153,000 |
参考全額(※)控除されるふるさと納税額(年間上限)の目安 (※) 2,000円を除く|総務省
上表は「給与収入」なので、不動産投資の収入は含まれていません。給与収入が増えると納税額の上限が増えることから、不動産投資の収入が増えても納税額が上がると考えられます。
ここからは、不動産投資の所得が黒字の場合と赤字の場合、それぞれで限度額がどう変わるか見ていきましょう。
不動産所得が黒字の場合
不動産所得が黒字の場合、総収入額が増えて課税所得が増加。結果、多くのケースでふるさと納税の控除上限額(限度額)も高くなることが想定されます。
課税所得は、給与所得や事業所得に不動産所得などすべての所得を合計した金額をもとに、以下の式で計算されます。
- 課税所得=給与所得 + 事業所得 + 不動産所得 + その他すべての所得 - 各種控除
各種控除として挙げられるのは、扶養控除や生命保険料控除などです。同じ年に不動産の売却などにより譲渡所得が発生した場合は、譲渡所得も含めて計算しましょう。
不動産所得が赤字の場合
不動産投資が赤字の場合は課税所得が減るため、ふるさと納税の控除上限額(限度額)が低くなる可能性が出てきます。
不動産投資で赤字が出た場合の課税所得は、給与所得から不動産所得の赤字分を差し引いて計算。従って、不動産所得の赤字幅が大きいほど課税所得が低くなります。課税所得が低くなると所得税や住民税は減少。反面、ふるさと納税の控除限度額が下がる可能性も発生します。
特に不動産投資を行った初年度は、初期費用により不動産所得が赤字になるかもしれません。加えて確定申告の青色申告特別控除などを利用すると、実際に手元に入る金額よりも不動産所得が減少。その結果、ふるさと納税の上限額(限度額)が低くなる可能性が出てきます。
不動産投資をしつつふるさと納税を行う際は、その年の不動産所得や譲渡所得の目安がわかるまで、ふるさと納税は控えめにしておくことがおすすめです。
参考家賃収入の確定申告は不要?やり方や申告しないとどうなるか解説します!
控除上限額の計算シミュレーション
ふるさと納税で控除される寄附金額の上限額(限度額)は、各人の課税所得によって異なります。基本的には、課税所得が高いほど控除の上限額も高くなる仕組みです。課税所得とは、収入から経費や控除などを引いた金額のこと。ふるさと納税の寄付上限額をシミュレーションするうえでは、前提として「収入」と「課税所得」が違うことを意識しておきましょう。
課税所得を計算する際に収入から控除される金額は、以下の条件により大きく変動します。
- 住宅ローン控除や医療費控除を利用しているか
- 各種保険金控除を利用しているか
- 配偶者や高校生以上の子どもを扶養しているか
なお、中学生以下の子どもは、控除の対象外です。
ふるさと納税の限度額は、所得税率や住民税所得割額などから自分で計算することも可能ですが、計算方法が複雑でミスをする恐れもあります。そのため、総務省の「ふるさと納税ポータルサイト」などで公開されている「ふるさと納税上限額の目安」や「計算シミュレーション」を利用するのがおすすめです。
以下の表は、総務省「ふるさと納税」ポータルサイトのシミュレーションを使い、次に定めた条件で計算した一例です。
- 納税者の給与収入額500万円(上限の目安は36,000円)
- 夫婦共働き
- 子ども2名(高校生と大学生)
寄付額 | 所得税と住民税の控除額 | 自己負担額 |
---|---|---|
10,000円 | 8,000円 | 2,000円 |
20,000円 | 18,000円 | 2,000円 |
30,000円 | 28,000円 | 2,000円 |
35,000円 | 33,000円 | 2,000円 |
36,000円 | 34,000円 | 2,000円 |
37,000円 | 34,817円 | 2,513円 |
40,000円 | 34,940円 | 5,060円 |
シミュレーションに必要な所得金額などの数字は、「源泉徴収票」や「確定申告書」、市区町村から配布される「特別徴収税額決定通知書」を参考にすると良いでしょう。上記の表は、あくまで一例です。個々のケースについては各自で計算されることをおすすめします。
そもそもふるさと納税は節税になるのか
ふるさと納税は節税手段として紹介されることも多い方法です。実際に所得税や住民税が控除されますが、厳密には税金が安くなる節税とはいえません。ここでは、ふるさと納税により所得税と住民税がどのように控除されるのかを見たうえで、ふるさと納税が節税にならない理由を解説します。
所得税:確定申告をした場合のみ控除される
確定申告をする場合は、前年の収入や控除などを翌年に自分で申告し、算出された税率に応じた所得税を支払います。サラリーマンでも、給与以外に不動産投資で20万円以上の所得がある場合は、ふるさと納税の有無にかかわらず確定申告が必要です。
確定申告をした場合は、ふるさと納税で支払った金額の一部は所得税からも控除されます。反対に、ふるさと納税でワンストップ特例を利用し、確定申告をしない場合は、所得税からの控除はありません。
住民税:翌年支払うべき住民税の金額から控除される
住民税は住民票のある地域に支払う地方税ですが、地域による税率にはそれほど大きな差はありません。
ふるさと納税として支払った金額のうち大部分は、翌年支払う住民税から控除されます。つまり、ふるさと納税をすれば翌年支払うべき住民税の金額が安くなるのです。
ワンストップ特例を利用した場合も、住民税が控除されます。そのため、所得税のように確定申告をすることで損をする心配はありません。
ふるさと納税は税金の先払いだが返礼品の分だけお得
ふるさと納税をすると、特に翌年の住民税からの控除を大きく感じやすいため、「税金が安くなって節税できた」と思われるかもしれません。
しかし実際には、控除された税金分は事前に寄附として支払っています。つまり、ふるさと納税は「税金の先払い」です。金銭的な面だけを考えれば、むしろ自己負担金分の2千円を多く寄附していることになります。
2千円の自己負担があってもふるさと納税が人気である理由は、返礼品がもらえるからです。税収に悩む地方を応援しながら、2千円の自己負担金で好きな返礼品を選べることが、ふるさと納税最大のメリットであり、お得だと感じられるポイントとなります。
不動産所得とふるさと納税の注意点
不動産投資を行っている方がふるさと納税をする場合、次に挙げる注意点があります。
知らないことで、損をしてしまうかもしれません。お得にふるさと納税を行うために、ひとつずつ見ていきましょう。
確定申告が必要だとワンストップ特例は利用不可
ワンストップ特例を使うと、確定申告をしなくても住民税の控除が可能です。ワンストップ特例が認められるのは、以下の条件です。
- もともと確定申告や住民税申告が必要ないこと
- ふるさと納税以外で確定申告や住民税申告が必要ないこと
- 年間の寄附先が5自治体以内であること
サラリーマンがふるさと納税をする場合、ワンストップ特例を利用することで簡単に住民税の控除が受けられます。不動産投資をしていても、所得が年間20万円未満であれば、ワンストップ特例が利用できます。しかし、以下のケースでは確定申告が必須です。
- 不動産投資などの副業で年間20万円以上の所得がある
- 不動産売却などの譲渡所得がある
- 給与収入が2千万円を超えている
- 個人事業主である
- 住宅ローン控除を受けている
- 損益通算の特例などを利用する
不動産投資が赤字で損益通算を使う場合は確定申告が必須なので、ワンストップ特例は利用できません。条件を満たしていないのにワンストップ特例で申請した場合、控除の適用は不可。ふるさと納税分の控除を受けるために、確定申告のやり直しを行う必要があります。
不動産投資における確定申告については、以下の記事もあわせてお読みください。
6自治体以上に納税していると確定申告が必要
不動産所得が少なく確定申告が不要なケースでも、6自治体以上にふるさと納税をした場合は確定申告が必要です。
確定申告をする場合は、ワンストップ特例は利用できません。確定申告でふるさと納税についても申告し、寄附をした自治体から受け取った「受領書」を添付しましょう。
年金所得も合算が必要
不動産投資を行う年金受給者もふるさと納税を行うことができます。その場合は、不動産所得に年金の所得額を合算して、ふるさと納税の控除上限額(限度額)を計算しましょう。
公的年金と民間の個人年金では、収入から控除できる費用が異なります。
年金の種類 | 控除できる費用・控除額 | 年金所得の計算式 |
---|---|---|
公的年金 | 公的年金控除 | 公的年金収入-公的年金控除 |
民間の個人年金 | 必要経費(掛金、手数料など) | 年金収入-必要経費 |
ただし年金受給者は、他に大きな不動産所得などがない限り、そもそも所得税や住民税が免除されているケースも珍しくありません。その場合は控除するだけの税金がないため、ふるさと納税による控除は受けられない可能性があります。
控除を期待してふるさと納税を行っても、もともと支払うべき税金がなければ、ただ返礼品を頼んだだけになってしまいます。これでは、ふるさと納税をする意味がありません。不動産投資を行う年金受給者がふるさと納税をする場合も、事前に控除上限額を計算し、税額控除を受けられることを確認してから行うことが大切です。
50万円以上の返礼品は課税対象
ふるさと納税の控除上限額が高く、高額な返礼品を多く受け取った場合は、返礼品が一時所得として計算され、価値に応じた税金が課されることがあります。
一時所得は「一時所得のベースとなる収入 - 経費 - 特別控除」で計算。「一時所得のベースとなる収入」とは、返礼品の調達価格です。根拠は、返礼品の価値を算定する基準について判断した、国税不服審判所の裁決です。国税不服審判所は、2022(令和4)年の裁決で、返礼品の価値について「地方公共団体が謝礼(返礼品の調達・提供)のために支出した金額(返礼品調達価格)をその算定の基礎とする」と判断しました。
一時所得の特別控除は、最大50万円です。よって、50万円を超える価値のある返礼品を受け取った場合は税金がかかる可能性が高まるため、確定申告が必要となります。反対に、受け取った返礼品が合計50万円以下の価値であれば非課税となるため、確定申告をする必要はありません。
まとめ
この記事では、ふるさと納税とは何か、また、ふるさと納税と節税の関係性、不動産所得がある場合の控除上限額(限度額)などについて解説しました。
ふるさと納税の控除上限額をシミュレーションする際には、不動産所得や譲渡所得、年金の所得などを合計して計算する必要があります。ふるさと納税を行っても、納める税金は減りません。それでも、少ない自己負担金で多くの返礼品がもらえるふるさと納税は、利用価値の高い制度といえるでしょう。
ふるさと納税などの税制度と不動産投資との関連性や、節税効果の高い不動産投資について詳しく知りたい方は、ぜひ当社コンサルタントまでお気軽にご相談ください。経験豊富なコンサルタントが、個々の収入や投資状況に応じたアドバイスをいたします。
この記事の執筆: 堀乃けいか
プロフィール:法律・ビジネスジャンルを得意とする元教員ライター。現役作家noteの構成・原案の担当や、長野県木曽おんたけ観光局認定「#キソリポーター」として現地の魅力を発信するなど、その活躍は多岐に亘る。大学および大学院で法律や経営学を専攻した経験(経済学部経営法学科出身)から、根拠に基づいた正確性の高いライティングと、ユーザーのニーズに的確に応えるきめ細やかさを強みとしている。保有資格は日商簿記検定2級、日商ワープロ検定(日本語文書処理技能検定)1級、FP2級など。
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