日本橋で再開発!?その全貌を徹底解説!
- 更新:
- 2023/06/20
近年、数多くの都市で再開発が行われており、昭和から続いてきた旧型のインフラを刷新し、新たな時代の都市構想に即した街づくりの流れが生まれています。
そのような流れの中で、最近特に、日本橋エリアの再開発が大きく注目されているのはご存じでしょうか。
東京駅に近接し、成田空港や羽田空港へのアクセスに優れた日本橋地区は、ビジネスの主要地として日本の商業・金融の中心地である一方で、江戸時代から連綿と続く歴史と伝統を受け継ぐ「文化の街」としても知られています。
同地区が属する東京都中央区は、日本橋エリアが有する様々な面をより発展させるための取り組みとして、中央区基本計画2013において「江戸以来の歴史と伝統が息づく文化と最先端の都市活動を融合し、集いとにぎわいがあふれるまち」の実現を掲げ、その後約10年間にわたってその推進を行ってきたという経緯があります。
このような流れの中で、中央区は昨年新たにビジョン2021を策定し、まちづくりのコンセプトを設定するとともに、実現化に向けた具体的な取り組みを纏めました。
実際、この具体的な取り組みの第一弾として、昨年12月に三井不動産と野村不動産による共同プロジェクトである「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」の着工が発表されました。
再開発プロジェクトのイメージ図
そこで本記事では、日本の重要な文化都市である日本橋の再開発プロジェクトについて、中央区が策定したビジョン2021を中心に、その具体的な内容を見ていきたいと思います。
日本橋エリアの現状分析と課題
それではまず、冒頭で述べた中央区による「ビジョン2021」について解説をしていきたいと思います。本ビジョンの正式名称は「日本橋川沿いエリアのまちづくりビジョン2021」であり、日本橋エリアを3つの側面から分析し、課題を抽出するところから始まっています。その側面とは即ち、
- ①まちの営み(機能)
- ②まちの構造
- ③交通インフラ
の3点です。
側面①:まちの営み(機能)
まず①まちの営み(機能)に着目すると、同エリアは古くから、日本の交通・商業・金融・文化・情報等の中心地として発展し、全国から人やものが集まる、時代の変化に対応してきたエリアであるという特性を有しています。
そのような特性を有しているからこそ、機能面の課題として、近年国際金融・業務拠点の形成や観光エリアの形成が求められている中で、地域全体として適切な都市機能の更新を図る必要があるという問題を抱えているのです。
側面②:まちの構造
また次に②まちの構造について着目すると、同エリアは江戸期に発展した町割りを受け継いでおり、特に多くの水路や橋の集積が見られることから、海と内陸を繋ぐ場所という特性を有しています。構造面での課題として、河川空間に沿った街区形成がなされているにも関わらず、コンクリート製の直立防波堤などのように、川に対するまちの顔づくりが不足しているという問題があります。
側面③:交通インフラ
3つ目の側面である③交通インフラに着目すると、同エリアは東京駅・日本橋駅・三越前駅という、乗降客数が非常に多い主要駅に隣接し、かつ南北方向に3つ、東西方向に2つの幹線道路が整備されているという特性を有しています。一方課題としては、日本橋上空の高架橋の存在のように、来街者を迎え入れ、エリア内を回遊させる動線・空間が不足しているという点が挙げられています。
このように、ビジョン2021は日本橋エリアの課題として「都市機能の更新」「川に対するまちの顔づくり」「まち歩きを楽しむ空間形成」の3点を挙げ、これらの解決に向けて、以下に述べる5つの行動指針を定めています。
まちづくりの5つの行動指針
上述の3つの課題の解決に取り組むため、ビジョン2021は次の5つの行動指針を挙げています。即ち
- ①多様な活動が生まれるまち
- ②歩いて楽しめるまち
- ③川に開かれたまち
- ④環境にやさしいまち
- ⑤安全・安心のまち
の5つです。それぞれ簡単に内容を見ていきましょう。
行動指針①:多様な活動が生まれるまち
まず1つ目の行動指針である「多様な活動が生まれるまち」について見ていきましょう。日本橋エリアにおける人々の様々な形での交流を促し、新たな「創造」が生み出されるための場を構築するべく、以下の4機能の導入を提唱しています。即ち
- ①都市観光・交流促進機能
- ②地域コミュニティ機能
- ③地域活性・新事業創出機能
- ④交通拠点機能
の4つです。
これらの機能を日本橋エリアに導入することで、人々の交流を活発化し、同エリアに多様な機能を集積していく、というのがこの行動指針の狙いです。
4機能の導入イメージ
行動指針②:歩いて楽しめるまち
2つ目の行動指針である「歩いて楽しめるまち」では、特に日本橋エリアのバリアフリー化と、歩行者中心の街づくりが念頭に置かれています。具体的には、幹線道路が複雑に入り組む同エリアにおいて、土地の集約化や街区再編を行うことによって、地上の歩道空間の拡充やデッキレベルのネットワーク化を構築することなどです。
日本橋エリアは、どうしても車通りが激しい、歩きにくいといったイメージがありますが、これらのネガティブなイメージを払拭し、快適な歩行者空間を形成する、というのが、本行動指針の目的であるようです。
行動指針③:川に開かれたまち
行動指針の3つ目は、日本橋エリアにおける「世界に誇る日本の魅力的な水辺景観の形成」を主な目的としています。
そのための取り組みとして、親水性の高いヒューマンスケールなオープンスペースの展開が標ぼうされており、川沿いだけでなく建物の壁面を含めた立体的な緑化の実現がイメージされています。
行動指針④:環境にやさしいまち
行動指針の4つ目においては、その言葉通り環境に配慮した空間の形成を目指す旨が記載されています。
近年重要性が高まっている低炭素社会の実現に向けて、例えば建物の被覆対策や、再生可能エネルギー利用の効率化など、現時点で取りうる環境対策に向けた取り組みを包括的に検討していくことが示されています。
行動指針⑤:安全・安心のまち
行動指針の最後の項目は、「安全・安心のまち」を目指すというものであり、建物内外や川沿いのオープンスペースににぎわいの場を形成することにより、人の気配を感じることのできる防犯性の高いまちづくりが想定されています。
また、防災性の強化を図るべく、災害対策に資する空間の確保を徹底するほか、地域における自立・分散型のエネルギーシステムを構築することで、まちの機能の安全性・信頼性の確立を目指すことが述べられています。
このように、中央区はビジョン2021において、上記5つの行動指針を策定し、前章で述べた3つの課題解決のための柱としました。
それでは、実際にこれらの指針をもとに、具体的にどのような取り組みが行われているかというのを見ていくことにしましょう。その中には、首都高速道路の日本橋区間における地下化事業や、冒頭でも述べた三井不動産と野村不動産共同での再開発プロジェクトなどがあります。
日本橋再開発における具体的取り組みについて
本章では、前章で挙げた5つの行動指針のもとで、実際にどのような取り組みが行われているのかについて具体例を見ていきたいと思います。以下、「首都高地下化事業」と三井不動産・野村不動産による「日本橋一丁目中地区市街地再開発事業」について解説します。
高速道路地下化事業について
まず1つ目の取り組みは、日本橋区間における首都高速道路の地下化事業です。令和2年4月の都市計画事業の認可に伴い、当該事業に首都高速道路株式会社が着手したのが始まりです。
そもそも、現在日本橋川の上空を通る都心環状線は、1963年に開通したものであり、既に開通後50年以上が経過しています。日々膨大な数の自動車が行き来する中で損傷が進んでおり、当エリアの安全確保及び景観の向上の観点からも、首都高の地下への移設を望む声が多く上がっていました。
現在工事が予定されている対象範囲は、都心環状線の神田橋ジャンクション~江戸川橋ジャンクション間の約1.8kmで、まずは呉服橋・江戸川橋出入り口の撤去工事や地下埋設物の移設工事が行われる予定です。その後、令和17年に地下ルートが開通し、そして令和22年には今存在する高架橋が撤去されることが計画されています。
もしこの地下化事業が実現すると、これまで日本橋で上空を見上げた際に、視界の多くを占めていた高架橋が無くなり、再び青空を見ることが出来るようになります。首都高速道路株式会社によって公表されたイメージ図(下図)を見ると、こうした将来が現実となりつつあることに、大きな期待を抱かざるを得ません。
三井不動産と野村不動産による共同プロジェクト
2021年12月、三井不動産と野村不動産は、共同で日本橋川沿いの再開発プロジェクトに着手することを発表しました。「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」と呼ばれる本プロジェクトは、中央区が策定したビジョン2021における再開発計画の第一弾として、大きな注目を集めています。
このプロジェクトは、A~Cの3つの街区で構成されています。それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。
まずA街区では、現存する中央区指定有形文化財である「日本橋野村ビル旧館」の外観を保存活用する計画が立てられています。同物件は、1930年に建築家の安井武雄氏により竣工され、現在も貴重な近代建築物としての風格を有しています。
本プロジェクトでは、名建築として都民から親しまれてきたこの日本橋野村ビル旧館の外壁等を保存することにより、日本橋の伝統と文化を受け継ぎつつ、地域全体のさらなる賑わい形成を図るとのことです。
では次に、B街区について見ていきましょう。このB街区では、前述のA街区との一体感ある景観を醸成するべく、商業施設及び約50戸の住居から成る7階建てビルの建築が予定されています。
本プロジェクトの目玉でもあるC街区とは地上3階レベルでデッキ接続し、高い利便性のある空間となることが期待されています。
それでは次に、本プロジェクトにおけるメインタワーが位置するC街区について見ていきましょう。
C街区には、地上52階建、高さ約284mの超高層棟の建設が予定されており、その用途はオフィス・ホテル・居住施設・商業・MICE・ビジネス支援施設の6つにより構成されています。
まず、地下1階~4階には、近隣住民やオフィスワーカーを迎える大規模な商業施設ゾーンが入ることが想定されており、その上の5~8階には都心最大規模を誇るMICE施設(※イベントや会議を主な目的とする複合施設)の導入が計画されていて、国際的な会議や大規模プレゼンテーション会場としての利用が計画されています。
次に、10階~20階は低層オフィスが、22階~38階には高層オフィスが入る予定で、エリア最大級のフロアプレートとハイグレードなオフィス空間の実現が予定されています。
オフィスの上の39~47階には、ヒルトンが運営する最上級ラグジュアリーブランド「ウォルドーフ・アストリア東京日本橋」が2026年に開業予定となっており、全197室の客室に加えて3つのレストランや屋内プール、スパ、チャペルなどを備えることが計画されています。
そしてその上の48階~51階には、コンシェルジュサービスを備えた約100戸の居住施設が予定されており、都心を一望する最高の景色と、高い利便性を享受できるハイグレードな生活環境が提供されることは間違いないでしょう。
まとめ
本記事では、最近特に注目されている日本橋再開発計画について、その根本にある同エリアにおける3つの課題と、それに対する5つの行動指針、そして実際に行われている具体的な2つの取り組みについて見ていきました。
通勤時やプライベートなどで、普段何気なく通るこの日本橋エリアが、水面下で大きく動こうとしていることに、大きな衝撃を受けられたのではないでしょうか。特に、首都高の地下化プロジェクトとそれに伴う高架橋の撤去計画は、日本橋の空が大きく広がるプロジェクトとして、都民のみならず全国民から、大きな期待が寄せられることでしょう。
中央区が策定したビジョン2021の今後の進展に、目が離せません。