プラチナバンド割り当てでどう変わる?!メリットと不動産投資への影響について解説
- 更新:
- 2023/07/12
総務省により、以前から携帯電話用周波数の再割当てが検討されているのはご存じでしょうか?
2023年4月18日の記者会見で、総務大臣により700MHz帯、いわゆる「プラチナバンド」の免許割り当てについて「情報通信審議会で割り当て可能との結論が出たら、今秋頃の割り当てを目指す」と発表されました。
割り当てについては元々「従来の使用帯域の再割り当て」の方向性でしたが、現在は「未利用帯域の割り当て」の方向で検討が進められています。大手携帯会社間での調整の難易度が下がるため、実現までの道のりがようやく見えてきました。
総務省の「移動系通信の契約数の推移調査」によると、2022年12月時点で携帯電話の契約数は2億を超えています。かつてTVがアナログ放送から地上デジタル放送に変わったように、携帯電話の電波も時代の進化により使用する周波数帯の有効利用の重要性がますます高まっています。
本記事では、プラチナバンドの免許再割り当てによって今後の携帯電話事情はどう変化するのか、そして不動産投資にどのような影響を与える可能性があるのかについて解説します。
プラチナバンド割り当ての概要
そもそも「プラチナバンド」とはどういうものなのでしょうか。ここでは周波数の基本からプラチナバンドの概要について見ていきましょう。
プラチナバンドとは?
周波数とは電波の大きさの単位であり、1秒間に繰り返される波の数をヘルツ(Hz)で表します。
周波数が高いほど送れるデータ量が多いため、音声や動画などの大量のデータ通信を行う携帯電話には300MHz〜3GHzの極超短波(UHF)の周波数帯の一部が使用されています。また、アンテナの長さは使用する電波の波長に比例するため、波長の短い極超短波は使用するアンテナが短くて済むことも携帯電話での利用に適している点です。
現在携帯電話には700〜900MHz台の帯域が使用されていますが、その中でも特に700MHz帯は高周波数帯でありながら電波が建物などを回り込む性質も持っています。そのため、「つながりやすく広いエリアカバーが可能な貴重な周波数帯=プラチナバンド」と呼ばれています。
プラチナバンドの未利用帯域とは?
上の図は携帯電話で使用している周波数帯が含まれる470MHz〜960MHzの現在の使用状況です。
この図の中の白い部分が未利用帯域です。利用エリア拡大を目指す携帯各社にとってつながりやすいプラチナバンドは重要であり、できるなら未利用帯域も使いたいところです。しかし、TV放送・特定ラジオマイク、MCA(マルチチャンネルアクセス、複数のユーザーが共同で利用する無線)などを使用している隣接帯域と干渉して使用に支障が出ることを懸念して今までは使用していなかった部分にあたります。
政府は当初現状使用している帯域での再割り当てを検討していましたが、今回総務省から発表されたのはこの「未利用帯域」を割り当てるプランです。
プラチナバンド未利用帯域割り当ての背景
ではなぜ政府は干渉のリスクを取ってまで未利用帯域を割り当てる方針に転換したのでしょうか。
「プラチナ」バンドはその名称の通り周波数の中でも携帯電話各社にとって貴重な帯域であり、今回の割り当て方針決定に至るまでにはさまざまな経緯がありました。
周波数の帯域確保の重要性
現在移動通信システムの主流となっている4G、そして近年サービスが開始されエリア拡大を目指している5G。
Gは「ジェネレーション(世代)」の略であり、5Gは4Gと比べ「高速」「低遅延」「多数同時接続」の特徴を持ちます。デジタル化だけでなくそれに伴うIoT(Internet of Things = モノのインターネット化)により家庭内などで多数のインターネット端末の同時接続が当たり前になった現在には欠かせない通信技術です。
総務省によると現在の5Gの人口カバー率は93.2%(2022年3月末)。携帯会社各社も政府も5Gの普及が急務となっています。
それだけではなく、政府は国家戦略であるデジタル化に向けてBeyond 5G(6G)の構想を進めています。
総務省の情報審議委員会「Beyond 5Gに向けた情報通信技術戦略の在り方」 によると2025年の大阪関西万博から実装開始、2030年には6Gの本格的な全国展開を目指します。
増え続ける携帯端末によるインターネット通信量への対応と、5Gで後れを取っている国際的な次世代通信競争への参入を進めるためにも周波数の帯域確保が重要となっています。
電波法の改正
プラチナバンドの再割り当てには電波法の改正も関わっています。総務省の「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース報告書(案)」によると、現行の認定制度は既存の免許人に有利であり、新規事業者の参入ができないという問題がありました。
そのため、2022年6月に施行された電波法の一部改正では、電波の公平かつ能率的な利用を促進するために「携帯電話等の周波数の再割当制度の創設」が改正内容のひとつとなりました。
現行使用帯域の再割り当ての難航
現行使用している周波数帯の再割り当てという流れに際し、名乗りを上げたのがかねてよりプラチナバンドへの参入を要望していた楽天モバイルです。
上の図の通り、楽天モバイルはドコモ・KDDI・ソフトバンクの大手3社に続く携帯電話業界シェア第4位にもかかわらずプラチナバンドの割り当てがありません。このことが大手3社との競争において不公平であると主張する楽天モバイルは、下の図のように既存事業者から5MHz ✕ 2幅ずつ、合計15MHz ✕ 2幅の再割当てを要望しました。
しかし大手3社からすれば、使用している帯域を楽天モバイルに分ける上に再割り当てに伴う設備変更にかかる費用も負担するというメリットのない提案のため調整は難航しました。
この事態が進展したのは2022年11月です。NTTドコモが「700MHz帯への狭帯域4Gシステム導入の提案」において、700MHz帯の携帯電話用周波数と隣接システムとの間にある未利用の周波数帯の使用可能性について提案したことにより、未利用周波数帯を使用する方向で話が進みました。
未利用帯域の割り当てによるメリットと課題
未利用帯域を利用する方向性でようやく政府と携帯電話各社の意見が一致しました。未利用帯域の割り当てとそれに伴う新規事業者の参入にはメリットがある反面、実現への課題もあります。
未利用帯域の割り当てによるメリット
未利用帯域の割り当てによる主なメリットは、新規事業者の参入と高速通信エリアの拡大の2つです。
メリット①:新規事業者のプラチナバンド参入による利便性の向上
楽天モバイルなどの新規事業者のプラチナバンド参入により、競争を通じて利用者の利便性の向上が期待されています。
総務省の資料内で、NTTドコモが契約数と帯域幅から試算した結果によると、今回割り当ての対象予定である未利用帯域には約1,100万契約のキャパシティーがあるとされています。
この新しく利用できるプラチナバンドに楽天モバイルなどの新規事業者が参入することで政府の目的である携帯各社の公平な競争が起き、価格競争や新サービスの開始といったプラスの効果が考えられます。
メリット②:使用可能な帯域の拡大による高速通信の普及
利用可能な帯域が増えるメリットは新規事業者の参入だけではありません。
政府のデジタル田園都市国家インフラ整備(ロードマップ)によると、2023年度末までに全市区町村に5G基地局の整備を完了させ人口カバー率を全国95%に、2030年度までには全国・各都道府県ともに99%のカバー率を目指すとあります。それに伴い携帯各社が進めているのが現在4Gで使用している帯域を5Gで利用する「4Gバンドの5G化」です。
しかしそれにより4G周波数が減少し利用に影響が出る可能性をNTTドコモが総務省「移動通信システムの周波数利用に関する調査の結果」内で言及しています。NTTドコモは5Gの普及と4G利用者への影響を緩和するためにもプラチナバンドで利用できる帯域を増やす必要性があると同調査内で述べています。
利用可能な帯域の増加で5Gが利用できるエリアが増え、5Gの持つ高速通信が普及するという点がもうひとつのメリットです。
未利用帯域の割り当てによる課題
未利用帯域の割り当てへの具体的な道筋ができたところで、問題となるのが「費用」と「期間」です。
課題①:多額の費用負担
未利用帯域の使用と5Gの普及のためには隣接帯域との干渉対策のほかにも必要な対策や基地局の設置などさまざまな整備が必要であり、携帯電話各社にも多額の費用負担が想定されます。
政府はかねてより改正電気通信事業法の施行など携帯電話大手3社の寡占状態の解消と通信料金値下げに動いています。この状況下でプラチナバンド割り当てで大きなメリットがあるとはいえない上に楽天モバイルへの顧客流入のリスクもある大手3社、また近年モバイル事業の業績が悪化している楽天モバイルが設備投資により経営を圧迫される懸念もあります。
課題②:実現までの期間
費用以外にも、未利用帯域の利用には「干渉」と「周波数の幅」という技術的問題があります。
懸念となっていた隣接帯域との電波の干渉の可能性については、すでに携帯電話事業者と隣接帯域の事業者を含めた「700MHz帯等移動通信システムアドホックグループ」にて検討がされており、第5回の報告案によると干渉への対策として「基地局を稠密(※密集している様子)に開設することで、端末と基地局間の伝搬ロスを小さくし、端末の送信電力を下げることが可能」としています。
また、今回割り当てられる700MHz帯の未利用帯域は周波数の幅が3MHzという狭さであり、「狭帯域」と呼ばれています。現状この狭帯域では高速通信を行うために必要なキャリアアグリゲーション(複数の周波数帯を束ねて高速化する)と5Gの運用に対応していないという問題もあります。
これらの課題に対しては解決の目途はついているものの具体的な実現時期については未定です。しかし、KDDIが発表した「移動通信システムの周波数利用に関する調査の結果」によると基地局整備には5年程度時間がかかる見込みです。
未利用帯域の割り当てが不動産投資に与える影響
未利用帯域の割り当てにより今より高速で安定した通信が普及した場合に、不動産投資にどのような影響を与える可能性があるでしょうか。
影響①:高速通信の普及によりIoT対応物件が増える可能性
まず考えられるのがIoT対応物件、いわゆるスマートハウスの増加です。IoTにより今までインターネットに接続していなかったような家電や設備がインターネットに接続することで自動操作や遠隔操作が可能になります。
具体的にはスマートフォンや音声で鍵の開け閉め(スマートロック)・エアコン・お風呂の湯はり・セキュリティカメラなどを操作できるといった機能が挙げられます。将来的に高速通信が安定すれば、競合との差別化として今後分譲物件だけでなく賃貸物件へのIoT導入が進む可能性があります。
影響②:通信の広域化による人気エリア拡大の可能性
もうひとつの可能性が、賃貸住宅の人気エリア拡大です。
近年でリモートワークが一気に普及し会社への通勤回数が減った結果、都市部の駅に近い物件から家賃が比較的安い郊外部へ引っ越す人も増えました。
高速で安定した通信ができるエリアが増えれば家でも快適にリモートワークができるため、郊外部の物件の人気がさらに上がる可能性もあります。またそれに合わせて、遮音性が高くワークスペースとして使える部屋があるリモートワークに適している物件の需要が増える可能性もあるでしょう。
高速で安定した通信の恩恵はリモートワークだけではありません。将来的には遠隔医療などのテクノロジーの発達により、通院が増えがちな高齢世代でも安心して住めるような郊外部のインフラ整備にも期待が寄せられます。
まとめ
今回発表されたプラチナバンドの割り当ては政府が推進している、デジタルの力で地方の個性を活かしながら社会課題の解決と魅力の向上を目指す「デジタル田園都市国家構想」を支える社会基盤の一端でもあります。
従来、不動産の需要に変化を与える要素といえば都市開発や新路線の開業などが中心でしたが、暮らしのデジタル化により、交通網だけでなく通信網の進化によっても不動産の需要に変化が起こる可能性が出てきました。
ますますの情報通信インフラの進化で暮らしや住まいも一層便利になっていくことが期待されます。
この記事の執筆: ひらかわまつり
プロフィール:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士資格を有するママさんライター。親族が保有するマンションの管理業務経験を有するなど、理論・実務の両面から不動産分野に高い知見を持つ。また、自身でも日本株・米国株や積立NISAなどを行っていることから、副業や投資系ジャンルの執筆も得意としている。解像度の高い分析力と温かみのある読みやすい文章に定評がある。不動産関連資格以外にも、FP2級、日商簿記検定2級、建築CAD検定3級、TOEIC815点、MOSエキスパートなど多くの専門資格を持つ。
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