不動産テックとは!?その最新事例と、不動産業界の問題を徹底解説!
- 更新:
- 2022/06/06
本記事では、近年様々な業界でIT化が普及している中で、不動産業界がその波に乗り遅れている理由として
- ①小規模企業の多さ
- ②個人プレー
- ③情報に対する考え方の違い
という3点について解説するとともに、新たに業界に風穴を開けようとする不動産テックと呼ばれる取り組みについて、
- ①IoT
- ②物件可視化・査定
- ③スペースシェアリング
の3点をご紹介していきます。
読者の皆さんにも共感いただけることと思いますが、不動産業界というのは、日本で最もIT化が遅れている業界の一つであるといっても過言ではありません。何しろ、メールやSNSでのコミュニケーションが当たり前の現代でも、FAXでのやり取りや飛び込み営業など、何十年も前から行われているアナログな手法が当然のように横行しているからです。
このように、業界全体のIT化が遅れていることの弊害として、不動産会社に問い合わせしても一向に返答が無かったり、物件情報の鮮度が低いために、既に取引が終了したはずの物件情報がいつまでもWeb上に残ってしまったりといった問題が指摘されています。
IT化の普及によって、家にいながら食事の注文が出来たり、リアルタイムで複数の人々と意思疎通が容易に取れるようになった現代において、なぜ不動産業界だけが、デジタル化の波から取り残され、未だに古いやり方に固執してしまうのでしょうか。
この問題を深く分析すると、そこには不動産業界特有の構造的な問題や、そこで働く人々に根付く精神論的な考え方など、複数の問題が垣間見えてきます。「何が不動産業界のIT化を妨げているのか」。この問題を知ることは、業界全体の底上げを図るにあたって重要となるでしょう。
一方で、近年このような不動産業界のあり方を危惧し、業界を一新しようとする試みが注目され始めています。様々な分野に跨るこの取り組みは、「不動産テック」として、業界のみならず日本経済の発展に不可欠な動きとして認知されるようになっているのです。
そこで本記事では、まずIT化の波に乗り遅れてしまった不動産業界に巣食う大きな問題について解説をするとともに、業界全体のデジタル化を推し進めるための取り組みとして知られる「不動産テック」について、具体的な事例も含めてご紹介していきたいと思います。
不動産業界のIT化はなぜ遅れているのか
本章では、不動産業界が他の業界と比較して、圧倒的にIT化が遅れている理由について、見ていきたいと思います。ズバリ結論から申し上げると、
- ①小規模企業の多さ
- ②個人プレー
- ③情報に対する考え方の違い
の3点です。それぞれ詳しく見ていくことにしましょう。
IT化が遅れる理由①:小規模企業の多さ
不動産業界のIT化が、他産業と比べて圧倒的に遅れている一つ目の理由は、小規模な事業所の数があまりに多いということにあります。公益社団法人不動産流通センターが公表している不動産統計集によると、令和元年度の不動産業の法人数は約35万社(正確には347,791社)で、その数は全産業の法人数の12.3%をも占めていることが示されています。
この数は、かなり衝撃的であると言えます。というのも、日本フランチャイズチェーン協会の発表によると、日本のコンビニの店舗数は、2022年4月の段階で55,922店であることから、不動産会社の数は、コンビニの店舗数の6倍以上も存在していることになるからです。
更に、これだけ存在している不動産会社のほとんどを占めるのは、従業員数が1〜4名の小規模企業です。やや古いデータですが、前述の不動産流通センターによる調査では、平成26年7月1日時点での従業員数1〜4名の不動産会社の割合は、全体の86%にも上るとのデータが示されています。同時期の全産業における平均値が57%であることからも、いかに不動産業界に占める小規模企業数の割合が大きいかということがお分かり頂けるのではないでしょうか。
ではなぜ、不動産業界では小規模企業がこれだけ多く存在しているのでしょうか。おそらくその理由は、不動産会社が取り扱う商品である「不動産」の性質に起因しているものと考えられます。
不動産業界ではよく、「世界に同じ不動産は1つもない」という言葉を目にします。それは、「不動」という名前からも分かるように、どれだけ構造や外観が似ていようとも、同じ土地には1つの建物しか建てることができないため、その立地やアクセスによって資産価値が微妙に異なってくるからです。
このことから、どれだけ小さい不動産会社であっても、ある地域に根ざし続けることで、その地域を誰よりも熟知し、大手が決して敵わないような人的ネットワークを張り巡らせることが出来るからです。言い換えれば、不動産業界では「その地域ならでは」という点が大きな強みとなることが、小規模企業が数多く生き残っている大きな理由であると言えるでしょう。
このことは、同じ商品を取り扱うことの出来る製造業や小売業とは全く異なる文化であると言えます。ECサイトの発達によって全国各地の商品を購入することが出来るようになった現在では、「どの工場で作ったか」という点は、よほどの名産品でない限り問題にされることは少ないでしょう。
例えば、同じ規格のハンガーを製造している北海道の工場Aと沖縄の工場Bについて考えてみましょう。この場合、AとBは、全く異なる地域に存在していながら、「いかに安く製造するか」という点で競合関係にあると言えるでしょう。もしA社が革新的な生産方法を確立して、圧倒的な廉価で製造することが出来たとするならば、そのハンガーを仕入れる業者はBからの購入を取りやめ、全てのハンガーをA社から購入することとなるでしょう。
このような、エリアを問わない競合関係というのは、地域に存在する小規模な不動産業者では起こりえません。なぜなら、異なる地域に存在する不動産というのは、そもそも比較対象とならず、結果として各地の小規模な不動産会社同士で競合関係となることは決してないからです。
このように、「不動な資産」という商品を取り扱っている不動産業界だからこそ、業界の多くを占める小規模な不動産会社同士が競合関係に置かれることもなく、特にIT化を進めなくても、現状維持のままでも十分生き残れてしまうのです。
IT化が遅れる理由②:個人プレー
不動産業界でIT化が進まない理由の2つ目は、業界全体に個人プレーが根付いてしまっているためです。これは不動産業界が、ほかの業界と比べて非常に属人的であるという点に由来しています。
「属人的」というのは、具体的にはどのようなことを指すのでしょうか。このことは、「属人的でない」他業界と比較すると明らかになります。例えば物流業界の場合、トラックの運転手の能力によってそこまで業績に大きな変化が上がることは想定されていません。最低限、事故を起こさずに目的地までたどり着くというタスクを全うすることで、売上に貢献しているのです。これはコンビニでも同様です。店員の性格や性別によって多少の変動はあるかもしれませんが、ほとんどの場合は取り扱う商品の量や立地の良さなどが業績を大きく決定づけています。
このように「属人的でない」業界においては、どれだけ効率的にモノを仕入れ、販売するかを追及していくことが、業績を挙げるための大きなカギとなります。先述の物流会社の場合には、いかに無駄のないようにトラックに荷物を詰めていくかや、目的地までの最短ルートの計算など、ITを駆使した徹底的な効率化によって、生産性を上げていくわけです。
一方で、地域に根付く小規模な不動産会社の場合、営業マンの能力によって業績は大きく左右されます。1人で数億円売り上げるような天才営業マンもいれば、一件も売ることが出来ない営業マンもいるわけです。このように、人の能力によって業績が大きく変動することを、属人的であると表現します。
こういった属人的な企業の場合、IT化によって会社の業績が上がることは、そこまで期待できないでしょう。なぜなら、どれだけアナログな方法を使い続けていたとしても、1人の優秀な営業マンが物件を売りさえすれば、難なく生き残ることが出来るからです。今の方法で生き残ることが出来るのであれば、わざわざ高額なIT導入費を支払って、IT化を推し進める必要もありません。
こういった不動産業界ならではの個人プレーの存在が、IT化を妨げる大きな原因となってしまっているのです。
IT化が遅れる理由③:情報に対する考え方の違い
不動産業界でIT化が遅れている理由の3つ目は、他の業界と比べて情報に対する考え方が大きく異なっているためです。より具体的に言えば、不動産業界では、情報の偏在性を解消しようとするインセンティブが機能していないということです。
不動産業界における情報の偏在性という問題は、過去に幾度となく指摘され続けてきました。不動産業者だけが見ることのできる「レインズ」というサイトの存在から始まり、既に取引の終了した物件を意図的に掲載し続ける「おとり物件」など、業者と顧客との間には大きな情報の非対称性が存在しており、これが不動産業者にとって利益を生む構造となっているのです。情報の偏在性が利益を生み続ける以上、これを解消しようとするインセンティブは機能しません。これが不動産業界に蔓延る大きな病巣となってしまっているのです。
ここまで、不動産業界においてIT化が遅れている理由として3点を解説してきました。ここまで見ると、不動産業界には構造的な問題があり、IT化を進めるのは絶望的なのではないか、という印象を受けられることと思います。
しかし近年、ベンチャー企業を中心に、業界に風穴を開けようとする動きが広まりつつあります。次章では、近年勢いを増している「不動産テック」と呼ばれるこうした取り組みについて、見ていきたいと思います。
不動産テックの登場
本章では、不動産業界のIT化を推し進めるべく、近年ベンチャー企業を中心に熱心に取り組みが行われている「不動産テック」について、その概要や具体的な例をご紹介したいと思います。
不動産テックとは?
まず不動産テックという言葉は、「不動産」と「テクノロジー」の2語を掛け合わせた造語です。この「〇〇テック」という言葉は最近よく使われていて、農業✕ITを意味する「アグリテック」や、金融✕ITを意味する「フィンテック」など、各種サービスとテクノロジーを結びつけた革新的な動きを意味するワードとして注目されています。
2018年7月に発足した一般社団法人不動産テック協会による定義では、「不動産テックとは、不動産×テクノロジーの略であり、テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組みのこと」とされています。
このように、不動産テックは、不動産業界全体をテクノロジーによって変えようとする取り組み全体を指す、非常に幅広い概念であると言えます。この幅広い概念の中で、それぞれの目的に応じて、いくつかの種類分けがなされているのです。
不動産テックのカテゴリーと具体例
先述の不動産テック協会は、不動産テックを12のカテゴリーに分類しています。それぞれのカテゴリの定義や詳細については、同協会のHPをご参照頂ければと思いますが、本記事では、その中でも筆者が特に重要と考える3つのカテゴリーについて、その具体例も含めてご紹介していきます。それは、
- ①IoT
- ②物件可視化・査定
- ③スペースシェアリング
の3点です。
①IoTについて
不動産テックの12のカテゴリーの中で、ご紹介したい一つ目が「IoT」についてです。
既にご存じの方も多いかとは思いますが、IoTとは「Internet of Things」の略で、日本語では「モノのインターネット」と呼ばれます。この名の通り、センサーやカメラなどの機器を利用してモノとモノとを接続することによって、遠隔操作やデータ収集、モノの管理・制御を行うことが出来るようになります。
不動産のIoT化が進むと、エアコンや照明などの各種家電が遠隔操作できるだけでなく、玄関の鍵も自動で施錠できるようになります。このように、IoT化によって住居内の利便性が向上し、外部のサービスとの連携も可能な状態のことを「スマートホーム」と呼ぶこともあります。
このスマートホームでは、自身のスマートフォンをドアに近づけることによって自動でカギを開閉する「スマートロック」システムや、外出時の室内カメラの利用、居住者の生体データを検知し、緊急時に通報してくれるシステムなど、その機能は多岐にわたります。
IoT技術の進歩によって今後スマートホームの流れが進めば、賃貸物件の見学の際に仲介会社の案内が無くても、スマートフォン1つで物件見学が出来るようになったり、投資用物件をスマートホーム化することで、資産価値を高めて高値で売却が出来るようになるかもしれません。
②物件可視化・査定について
不動産テックの中で、ご紹介したいカテゴリーの2つ目が、「物件可視化・査定」です。これは、前章で取り上げた不動産業界における情報の偏在性を解決するための手段として期待されています。
具体的には、過去に行われてきた膨大な量の不動産取引をビッグデータとして収集・分析することで、これまで勘と経験で行われてきた物件の値付けを透明化し、より公平な物件価格の査定を行うことを企図しています。
もし仮にこの取り組みが実現化すれば、不動産業界に蔓延る情報の非対称性は大きく改善され、業界全体の透明性の向上に大きく寄与することは間違いないでしょう。一方で、この取り組みはまだまだ道半ばであり、ハードルがあることは否めません。
特に大きなハードルとして挙げられるのは、過去に行われた取引データの収集です。これまでは、ある不動産を特定するための仕組みが業界内で統一されてこなかったために、住所の記載の方法も「A番地B」や「A-B」など業者ごとにバラバラになっていました。その結果、ビッグデータとして分析しようにも、蓄積された各取引データを、不動産一つ一つに紐づけることが出来なかったのです。
しかしながら、最近この問題を解決するための取り組みが公表されました。それが、不動産IDです。不動産IDとは、日本全国の土地と建物を、18桁の数字とアルファベットで識別できるようにする取り組みのことです。日本全国の不動産をこの18桁の文字列で表記することが出来るようになれば、全ての取引データをビッグデータとして収集・分析することが可能となります。
物件可視化・査定を推し進めるための取り組みとして、この不動産IDの導入は今後も注目していく必要があるでしょう。
③スペースシェアリングについて
不動産テックのカテゴリーの中で、ご紹介したい3つ目がこの「スペースシェアリング」です。このワードは、あまりお聞き馴染みのない方も多いのではないでしょうか。
そもそもスペースシェアリングとは、空きスペースといった遊休資産を、インターネット上のプラットフォームを通じて貸し出すことを言います。簡単に言えば、使っていない場所を、貸し出すサービスとも言えるでしょう。
スペースシェアリングの最も有名な例は、Airbnbなどで知名度が上昇した民泊サービスです。自身が保有する空き家を、インバウンド向けの民泊として活用するというこのサービスは、一時期非常に人気を博しました。但し、民泊を行う場合には住宅宿泊事業法の届出を行う必要があるなど、かなり手間が掛かってしまっていました。
一方で、昨今注目されているスペースシェアリングとしては、パーティルームや貸会議室などの用途があります。企業や個人が保有するスペースを、これらの用途として一定時間貸し出すというモデルは、プラットフォームの登場もあって多く活用されるようになりました。
特に、2019年に上場した株式会社スペースマーケットは、スマートフォン1つで手軽にスペースを貸し借りできるプラットフォームとして注目されており、現在では全国で約19,000件(2022年4月時点)のスペース数を誇っています。
参考株式会社スペースマーケット | 場所のチカラで あなたにエール (spacemarket.co.jp)
まとめ
本記事では、IT化の遅れが指摘されている不動産業界について、その構造的な理由を解説するとともに、近年ベンチャー企業を中心に、業界のデジタル化を推進する取り組みとして注目を集める「不動産テック」について、その概要や具体例をお伝えしました。
冒頭でも述べたように、不動産業界では未だにFAXや飛び込みなどのアナログな手法が蔓延っており、不動産会社と顧客との情報の非対称性が大きな問題となっています。
このような状況を打開し、業界の透明性を高めるための取り組みとして、今回ご紹介した不動産テックは、今後ますますその重要性を増していくことでしょう。
テクノロジーの力を利用したこの取り組みが今後どのような未来を創っていくのか、目が離せません。