代理とはどんな制度?不動産取引との関連性を徹底解説!ポイントを押さえてトラブルを回避しよう
- 更新:
- 2023/06/19

「代理」という制度は、不動産取引に密接に関係しています。「法定代理人」「任意代理人」といった言葉は聞いたことがあるけど、詳しくはよく分かっていないという方が多いのではないでしょうか。不動産取引において「代理」の仕組みを理解していないと、売買などでトラブルが起きる可能性があるので注意が必要です。
この記事では民法上の「代理」の基本から、代理人による不動産取引のポイントと注意点を解説します。これから不動産の購入・売却を検討している方は、ぜひこの記事を読んで「代理」について詳しく押さえておきましょう。
民法上の「代理」とは?
民法における「代理」とは、本人以外の人が意思表示を行い、意思表示の効果が本人に帰属することを指します。「代理」における意思表示とは、一般に下記のような「法律行為」に該当する行為を要求することです。
- 契約(売買契約、賃貸借契約など)
- 単独行為(遺言、債務免除など)
- 合同行為(複数人での法人の設立など)
代理の効力が発生するのは、民法によって規定された形で「代理権」を得た場合のみです。たとえば代理権を得た人が本人に代わってものを売り買いし、売買契約書を締結した場合には本人に契約書の効果が発生します。
不動産取引では売買契約や賃貸借契約が頻繁に発生するので、多くのケースで代理の考え方が密接に関わってきます。不動産取引に関係する「代理」の種類は、主に下記の4つです。
代理の種類 | 概要 |
---|---|
法定代理 | ・本人や代理人の意思に関係なく、法律の規定にもとづいて代理権が発生すること ・一部を除き、本人の不動産取引を代行できる |
任意代理 | ・契約等を行う本人の意思に基づき、18歳以上の他人に代理権を発生させること ・本人の不動産取引を代行できる |
無権代理 | ・委任契約を結んでおらず、代理権を得ていない状態のこと ・無権代理人が行った不動産取引は無効 |
表見代理 | ・特定の条件に合致していた場合に、無権代理であっても契約を有効とみなす制度のこと |
まずは、このうち基本となる「法定代理」と「任意代理」について見ていきましょう。
法定代理
法定代理とは、本人や代理人の意思に関係なく、法律の規定にもとづいて代理権が発生することです。法定代理により代理権を得た人は「法定代理人」といいます。法定代理人となる人は、下記のように本人の年齢や状態によって変わります。
本人の年齢・状態 | 法定代理人となる人 |
---|---|
18歳未満 | 親権者(両親、または養子縁組をした場合の祖父母) |
18歳未満で、親権者がいない | 未成年後見人(ケースにより異なるが、一般に祖父母など) |
成年被後見人(※)に該当する | 成年後見人(親族、司法書士、弁護士など) |
※成年被後見人:18歳以上で、精神障がいや認知症により判断能力がないと家庭裁判所に認められた人のこと。
親権者と未成年後見人は、単独で売買契約などの法律行為を行えます。対して成年後見人の場合は単独で法律行為を行えず、家庭裁判所などで手続きを踏む必要があるので押さえておきましょう。
任意代理
任意代理とは、契約等を行う本人の意思に基づき、18歳以上の他人に代理権を発生させることです。法定代理では民法にのっとり自動的に代理権が発生しますが、任意代理の場合は本人が指名して初めて代理権が発生します。なお、任意代理により代理権を得た人は「任意代理人」といいます。
任意代理人となる人に代理権を与えるためには、本人と代理人とで委任状・委任契約書を取り交わし、委任契約を結ぶ必要があります。口頭で契約しただけの任意代理人には、代理権が発生しません。
代理権が消滅するタイミング
代理権が消滅するのは、下記の4つのいずれかに該当する場合です。
- 本人が死亡した
- 代理人が死亡した
- 代理人が破産手続きを開始した
- 代理人が後見開始の審判を受けた
後見開始の審判とは、成年被後見人に該当するかどうか判断する家庭裁判所の手続きのことです。代理権の消滅はめったに起きないので、「消えることもある」程度で押さえておきましょう。
代理人による不動産取引のポイント
代理人による不動産取引の場合は、下記4つのポイントを押さえておきましょう。
- 法定代理の場合は「復代理人」をいつでも選任できる
- 任意代理の場合は委任状に記載する代理権の範囲を明確にする
- 本人が認知症・精神障がいの場合は代理人による売買ができない
- 「双方代理」は原則禁止
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
法定代理の場合は「復代理人」をいつでも選任できる
法定代理人となっている人は、本人の代理権を別の人にも与える「復代理」の制度をいつでも利用可能です。なお、復代理人を選出したからといって、法定代理人の代理権はなくなりません。つまり復代理人を選任すると、本人の代理権を得た人が複数人いる状態になります。
なお任意代理人は本人の許可を得た場合や、やむを得ない事由がある場合のみ復代理人を選任できます。法定代理人とは異なり、勝手に復代理はできないので注意しましょう。
任意代理の場合は委任状に記載する代理権の範囲を明確にする
任意代理の場合、代理人ができることは委任状・委任契約書に記載された内容に帰属します。代理人が行える権限は法律により定められている法定代理の場合とは異なり、委任状などに記載する代理権の範囲を明確にしないと、万が一想定外の取引を行われても代理人に文句を言えないのです。
そのため委任状・委任契約書には、下記のような売却条件を詳細に明記しましょう。
- 売買の下限・上限金額
- 手付金の金額
- 解除期限
- 移動した金銭の取り扱い
- 引き渡し予定日
このとき、「売買契約書記載の通り」「一切の件」という表現を使ってはいけません。売買契約書の内容に変更があった場合に、代理権の範囲まで変わってしまいます。トラブルの原因となるので、委任状・委任契約書を記載する際は面倒でも一つひとつの条件を明記するようにしてください。
本人が認知症・精神障がいの場合は代理人による売買ができない
本人が認知症・精神障がいであり、成年被後見人に該当する場合は代理人による売買が行えません。成年被後見人がもし任意代理人をたてていた場合でも、委任契約は無効です。成年被後見人の場合は法定代理人も契約行為ができないので、認知症・精神障がいがある人の代理人とはそもそも契約できないと覚えておきましょう。
「双方代理」は原則禁止
同一の人が契約の当事者それぞれの代理人となり、契約を行う「双方代理」は原則禁止です。買主のAさん、売主のBさんが、それぞれ代理人としてCさんをたててしまった場合が「双方代理」にあたります。
なお双方代理であったと判明しても、後から当事者がそれぞれ合意すれば契約は成立します。またCさんが個人ではなく不動産売買・賃貸の媒介業者だった場合は、双方代理にはあたりません。
不動産取引では「無権代理」に注意
不動産取引では、代理権を持っていない「無権代理」の状態での取引に注意しましょう。そもそも委任状を取り交わしていない場合はもちろん、委任範囲を超えた場合にも無権代理として扱われます。
取引の際は、委任状の有無について確認が必要です。また、無権代理での取引が善意で行われたか、悪意を持っていたかで扱いが変わります。それぞれのケースを見ていきましょう。
善意による無権代理となるケース
第三者が売主・買主にとって良かれと思って独断で交渉してしまった場合などは、「善意による無権代理」に該当します。委任したつもりで単に委任契約を結んでいなかった場合も、ほとんどは善意による無権代理として扱われるので覚えておきましょう。
悪意による無権代理となるケース
第三者が売主・買主に虚偽の報告を行ったり、不当な手数料の請求や適当な説明を行ったりしていた場合などは、「悪意による無権代理」に該当します。悪意による無権代理人が行った取引は「詐欺罪」にあたるので、刑罰の対象です。
無権代理人が行った不動産取引はどうなる?
ここからは、無権代理人が行った不動産取引の扱いについて見ていきましょう。
基本的には無効
無権代理人が行った不動産取引の効果は、本人に帰属しません。つまり基本的には善意・悪意を問わず、無権代理人が行った不動産取引はすべて無効となります。場合によっては、無権代理人に対し損害賠償請求をすることも可能です。
例外的に契約が有効となるケースも
無権代理人による取引とわかった後でも、本人が合意した場合にはそのまま契約は有効となります。また「表見代理」が適用されるケースだった場合には、無権代理人による契約であっても本人に効果が生じます。表見代理について詳しく見ていきましょう。
表見代理とは
表見代理とは、特定の条件に合致していた場合に、無権代理であっても契約を有効とみなす制度のことです。つまり表見代理の適用ケースと判断された場合は、無権代理人による契約でも本人に契約の効果が生じます。
詳しい表見代理の適用条件や、実際に適用されるケースについて見ていきましょう。
表見代理の適用条件
民法第109条・110条の内容を要約すると、下記2つの条件に該当する場合には、表見代理が適用され契約が有効となります。
- 本人に落ち度がある
- 相手方に過失がない
相手に問題があり、自分に過失がない場合に保護してもらうために表見代理があります。とはいえこれだけでは分かりにくいので、具体的な3つの適用ケースを見ていきましょう。
表見代理が適用される主な3つのケース
表見代理が適用されるケースは、主に下記の3つです。
- 実際には代理権を与えていないのに「代理権を与えた」と本人が言っていたケース
- 委任状に記載された代理権の範囲外の取引をしたケース
- 代理権が消滅しているのを知らないで取引したケース
それぞれ見ていきましょう。
実際には代理権を与えていないのに「代理権を与えた」と本人が言っていたケース
実際には代理権を与えていないのに「代理権を与えた」と本人がウソをついていた場合には表見代理が適用されます。本人(売主)のAさんが、ウソの代理人Bさんをたてて、買主のCさんと居住用の不動産を契約した場合を見てみましょう。
売主のAさんは、買主のCさんに対し「Bさんを代理人にしたから、Bさんと取引して」と伝えました。しかしAさんとBさんの間で、委任契約は結ばれていません。CさんはBさんが正式な代理人ではないと知らないまま、売買契約が行われてしまいます。
通常であれば、Bさんは無権代理人なので取引は無効です。しかしCさんが取引したのは居住用の不動産。すでに旧宅を引き払っており、居住地を失う可能性があります。何も知らないCさんを保護するため表見代理が適用され、売買契約は有効となり、Cさんは予定通りに居住用の不動産が手に入るのです。
委任状に記載された代理権の範囲外の取引をしたケース
委任状に記載されていた代理権の範囲を超えて取引した場合に、表見代理が適用される可能性があります。たとえば本人(買主)のAさんが、Bさんを任意代理し土地を購入させた場合を見てみましょう。
AさんとBさんの取り交わした委任状には、「購入価格の上限は2,500万円まで」と記載があります。しかしBさんは、Aさんに無断で3,000万円の売買契約を行ってしまいました。しかし土地を売ったCさんは、Aさんの予算が2,500万円だったとは知りません。
このケースでは買主のAさんにもほとんど落ち度がありませんが、それ以上になにも知らない売主のCさんが保護されるべきとされています。そのため表見代理が適用され、3,000万円での売買契約が有効となります。
代理権が消滅しているのを知らないで取引したケース
代理人と名乗る第三者の代理権が消滅しているのを知らないで取引した場合も、表見代理が適用されます。本人(売主)のAさん、代理人と名乗るBさん、買主のCさんの間での土地の売買について見てみましょう。
Aさんは以前、Bさんを任意代理人とし、土地の売却を行わせようとした経緯がありました。しかし最終的に土地の売却は行われず、口頭でBさんとの委任契約を解除します。
委任契約が解除されすでに無権代理人であったにもかかわらず、Bさんは土地を購入したいというCさんに当時の委任状を見せ、代理人であると見せかけて売買契約を結びました。
委任状には、契約期間について「当該土地の引き渡しが完了するまで」という記載があります。当然、CさんはBさんに代理権があるものとして取引を行っているため、実際にはBさんが無権代理人だと知る由もありません。
Cさんには一切の落ち度がないので、表見代理が適用されこの土地の売買契約は有効となります。そのため委任契約を解除した場合は、目の前で委任状を破棄させるなどの対応が必要です。
なお上記のケースで、AさんがBさんに委任状を破棄させたにもかかわらず、複製・偽造した委任状を使ってCさんと契約していた場合は、刑法159条により私文書偽造罪でBさんが罪に問われます。AさんはBさんに損害賠償請求が可能です。
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まとめ
不動産取引における民法上の「代理」とは、一般に本人以外の人(代理人)が売買契約や賃貸借契約を行い、その結果が本人に帰属することを指します。法律に則って決められた代理人は「法定代理人」で、本人が選定した代理人は「任意代理人」です。
基本的に代理人としての権利、代理権を得ていない「無権代理人」が行った契約は無効となります。しかし相手に問題があり、自分に過失がない場合には「表見代理」が適用され、契約が有効となる可能性がある点は押さえておきましょう。
不動産取引における「代理権」に関連するトラブルは、しっかりと不動産業者の仲介をはさめば起きません。不動産業者を仲介すれば、必ず正しい形で内容に問題のない委任状を取り交わせるからです。不動産取引を検討している方は、ぜひ一度当社にご相談ください。

この記事の執筆: 及川颯
プロフィール:不動産・副業・IT・買取など、幅広いジャンルを得意とする専業Webライター。大谷翔平と同じ岩手県奥州市出身。累計900本以上の執筆実績を誇り、大手クラウドソーシングサイトでは契約金額で個人ライターTOPを記録するなど、著しい活躍を見せる大人気ライター。元IT企業の営業マンという経歴から来るユーザー目線の執筆力と、綿密なリサーチ力に定評がある。保有資格はMOS Specialist、ビジネス英語検定など。
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