不動産特定共同事業法(不特法)の改正による影響は?改正後に増えた商品についても解説!
- 更新:
- 2024/05/17

不動産特定共同事業法(不特法)とは、出資を受けて行う不動産取引事業の仕組みを定めた法律です。不特法にはさまざまな規制があり、不動産投資に参加できる業者が限られていました。しかし、2017年の法改正によって規制が緩和され、不動産投資に参入できる企業が大幅に増えました。
本記事では、不特法改正のポイントや背景について解説。そして、改正により不動産投資家が受けた影響や、改正後に増えた商品である「不動産小口化商品」についても解説します。本記事を読むことで、不特法の改正内容や改正後の影響が理解できるでしょう。通常の不動産投資と不動産小口化商品との違いを知りたい方、不特法とは何か、どう改正されたのかを知りたい方は、最後までご一読ください。
- 目次
- 不動産特定共同事業法(不特法)とは
- 不動産特定共同事業法(不特法)の改正ポイント
- 不動産特定共同事業法(不特法)が改正された3つの背景
- 不動産特定共同事業法(不特法)改正による不動産投資家への影響
- 法改正により増加した「不動産小口化商品」とは?
- まとめ
不動産特定共同事業法(不特法)とは
不動産特定共同事業法(不特法)は、不動産特定共同事業の健全性と透明性を確保するために1994年に制定、公布されました。不動産特定共同事業とは、複数の投資家が共同事業として不動産に出資する事業形態のこと。投資により得られた利益は、分配金として投資家に配分される形態です。
不特法が制定された背景には、1980年代後半のバブル経済があります。当時は、バブル経済により不動産価格が急激に高騰。個人投資家でも共同で不動産投資ができるように、不特法が制定されました。
不特法では、不動産特定共同事業の健全性と透明性を確保するため、事業が許可制にされました。事業の許可者は、主務大臣(国土交通大臣)または都道府県知事です。
2013年の不特法改正内容
不動産特定共同事業法(不特法)は、2013年にも改正されました。2013年には、一定の要件を満たした特別目的会社(SPC)は、許可を受けなくても届出だけで不動産特定共同事業を実施する仕組み(特例事業)が制定されます。
特別目的会社(SPC)とは、特定の事業を行うために設立された会社です。SPCは、許可を受けた不動産特定共同事業者に不動産取引に関する業務と不動産特定共同事業契約の勧誘に関する業務を委託することにより、不動産特定共同事業を営めるようになりました。
2013年改正の問題点
2013年の不特法改正では、特別目的会社(SPC)が不動産特定共同事業者に許可されるには、原則的に不動産特定共同事業者への業務委託が必要でした。SPCが特定共同事業者に許可されるのは事実上困難であることから、規制緩和はあまり活用されませんでした。不動産特定共同事業への参入障壁の高さからさらなる規制緩和が期待され、2017年の不特法改正につながったのです。
不動産特定共同事業法(不特法)の改正ポイント
2017年の不動産特定共同事業法(不特法)改正のポイントは、以下4点。
適格特例投資家限定事業の創設による規制緩和 小規模不動産特定共同事業の創設 クラウドファンディングの制度整備 特例事業における事業参加者の範囲拡大最大のポイントは、不動産投資の知識や経験を有する投資家が不動産特定共同事業を実施できる「適格特例投資家限定事業」制度の創設です。1つずつ順に見ていきましょう。
ポイント①:適格特例投資家限定事業の創設による規制緩和
不動産特定共同事業法(不特法)改正により「適格特例投資家限定事業」が創設され、中小企業の参入が可能となりました。
適格特例投資家限定事業とは、不動産投資の知識や経験を有している投資家のみで構成される事業です。適格特例投資家限定事業として認められると、特別目的会社(SPC)を対象とした特例事業と同じく不動産特定共同事業の許可が不要になり、届出だけで十分になります。
2017年の法改正以前は、不動産特定共同事業を営む場合は「資本金が1億円以上」と厳しい条件が定められ、SPCは不動産特定共同事業を実施することができませんでした。
不特法改正で中小企業でも条件を満たしやすくなり、適格特例投資家限定事業者として認定されるケースが増加。国土交通省が2021年に出した「不動産特定共同事業(FTK)の多様な活用手法検討会 中間とりまとめ(案)」の調査結果を見ても、不動産特定共同事業の件数は、法改正があった2017年以降増加。不動産特定共同事業に参入する事業が一気に増えたことがわかります。
ポイント②:小規模不動産特定共同事業の創設
不動産特定共同事業法(不特法)改正のポイント2点目は、小規模不動産特定共同事業の創設です。小規模不動産特定共同事業とは、資本金の要件や個人投資家の出資総額を一定規模以下に抑えた事業を指します。
不特法では、不動産特定共同事業者を、役割ごとに第1号事業者〜第4号事業者までの4種類に分類。不動産特定共同事業を行う事業者を第1種、特例事業にて不動産特定共同事業を行う事業者を第3種事業者と規定しました。第1号事業者の資本金は1億円、第3号事業者でも5千万円と、中小企業には参入しづらい条件が付されていた状況です。
今回の不特法改正では、「小規模不動産特定共同事業者」の規定が設けられ、資本金要件が1千万円に引き下げられました。地方創生や地域活性のために、幅広い事業者を不動産特定共同事業に参入させることが狙いです。同時に、小規模不動産特定共同事業者においては、個人投資家の出資額上限が100万円とされました。
ポイント③:クラウドファンディングの制度整備
不特法改正のポイント3点目は、クラウドファンディングに向けた改正です。クラウドファンディングとは、新規事業や投資のためにインターネットを介してたくさんの人から集金する仕組みのこと。銀行や投資家からではなく不特定多数の人から集金するのが特徴で、幅広く資金を集められることから近年急速に広がっています。
クラウドファンディングは、支援者へのリターンがあるかないかで「寄付型」と「投資型」の2種類に分けられます。寄付型はリターンがなく、投資型はリターンがある形態です。日本におけるクラウドファンディングはほとんどが投資型で、不動産特定共同事業におけるクラウドファンディングも、投資型となります。
種類 | 支援者へのリターン有無 |
---|---|
寄付型 | なし |
投資型 | あり |
従来の不動産特定共同事業法では、書面の取引しか想定していませんでした。今回の不特法改正で、クラウドファンディングに対応して取引を電子化できるよう法整備を実施。契約書面の電子交付や、クラウドファンディング業者が不動産特定共同事業へ参入できるよう整備されたのです。
2019年にはクラウドファンディングの活用促進を図る施策が実施
2019年3月、不動産クラウドファンディングの活用促進を図るために以下5つの施策が公表、同年4月より実施されました。
- 「不動産特定共同事業法の電子取引業務ガイドライン」の策定
- 不動産特定共同事業法施行規則の改正
- 不動産特定共同事業への新設法人の参入要件の見直し
- 不動産流通税の特例措置の延長・拡充
- 特例事業者の宅地建物取引業保証協会への加入解禁
上記の施策で実施されたのは、以下の項目です。
- 不動産投資クラウドファンディングを実施予定の業者が備えるべき業務管理体制や審査体制、情報開示項目の明確化
- 個人等による長期・安定的な不動産クラウドファンディングへの参加促進
- 不動産クラウドファンディングを行う新設法人について、不動産特定共同事業への参入要件が緩和
ポイント④:特例事業における事業参加者の範囲拡大
不動産特定共同事業法(不特法)改正においては、特例事業において事業参加者の範囲が拡大されたことも外せません。
2013年の改正では、届出だけで不動産特定共同事業を実施できる「特例事業」の制度が創設。ところが、特例事業に参加できるのは、特別目的会社(SPC)に限定されていました。
2017年の改正により、不動産投資の知識や経験を有している特例投資家のみで構成された場合のみ、特例事業の範囲を「一定の金額を超える宅地の造成や建物の建築に関する工事などを行なう場合」に限定。他の特例事業については一般投資家も事業に参加できるようになり、特例事業の参加者が拡大されました。
不動産特定共同事業法(不特法)が改正された3つの背景
2017年に不動産特定共同事業法(不特法)が改正されるにあたっては、以下3つの背景がありました。
- 空き家や空き店舗の増加に対する対策
- 大企業以外が不動産特定共同事業に参画できない点の改善
- クラウドファンディングへの対応
背景を知ることで、今回の改正内容がより深く理解できるでしょう。
背景①:空き家や空き店舗の増加に対する対策
不動産特定共同事業法(不特法)が改正された背景として、空き家や空き店舗の増加に対する対策が政策課題として残されている点が挙げられます。今回の不特法改正により、地方の中小企業が不動産特定共同事業に参加可能となりました。空き家や空き店舗といった小規模の不動産を投資商品とすることで、空き家や空き店舗の解消はもちろん、地域や不動産市場の活性化が期待されています。
背景②:大企業以外が不動産特定共同事業に参画できない点の改善
不特法改正の背景2つ目は、不動産特定共同事業に参画できるのは事実上大企業に限られていた点です。今回の不特法改正では、小規模不動産特定共同事業を創設。資本金の条件を下げることで不動産投資へ参入する中小企業が増加。結果、不動産小口化商品を扱う企業が急増し、不動産投資への間口が広がりました。
背景③:クラウドファンディングへの対応
不特法改正の背景として、クラウドファンディングのような新しい資金調達方法に対応する必要があった点も挙げられます。従来の不特法は電子取引に対応する制度が整っておらず、インターネットを介して実施するクラウドファンディングのような新しい取引には対応できませんでした。
今回の不特法改正で、不動産投資におけるクラウドファンディングの法制度が整備。クラウドファンディングの活用により、潜在的に不動産投資に関心がある人を集められることも期待できます。
不動産特定共同事業法(不特法)改正による不動産投資家への影響
不動産特定共同事業法(不特法)の改正は、不動産投資家にさまざまな影響を与えました。本記事では、不特法改正が不動産投資家に与えた影響を3点紹介します。
影響①:空き家や空き店舗再生に向けた投資機会の増加
不動産特定共同事業法(不特法)の改正によって、空き家や空き店舗の再生や有効活用に向けた小口での投資機会が増加しました。
京都にある古い町家(京町家)の例を紹介します。売りに出しても買い手がつかない京町家は、取り壊される運命にありました。不特法の改正によって、京町家再生に向けた複数の不動産小口化商品が販売開始。個人投資家の「少額で不動産投資をしたい」というニーズを叶えた商品を販売することで、町家再生にかかる資金の回収に成功。めでたく取り壊しが回避されたのです。
福井県敦賀市では、敦賀駅西口にあるビルを証券化し、投資家から出資を受けた商業施設「TSURUGA POLT SQUARE 「otta(オッタ)」」が2022年9月に開業。2024年3月に北陸新幹線が延伸され、敦賀駅が新幹線の終点となることを見据えたプロジェクトでした。本施設の事業運営会社は、不動産特定共同事業者でもある株式会社青山財産ネットワークスです。小口化不動産商品を販売した経験を活かし、地域の活性化に貢献した例といえるでしょう。
影響②:不動産小口化商品や不動産投資クラウドファンディングの増加
不動産特定共同事業法(不特法)の改正で、不動産投資に参入できる企業が増加。同時に少額で不動産投資ができる「不動産投資クラウドファンディング」や「不動産小口化商品」も増加しました。
不動産投資クラウドファンディングは、インターネットで不動産投資の資金を調達する仕組みになります。1口1万円程度から出資可能で、インターネットで完結が可能。投資用不動産だけでなく、学校や保育園、物流施設などに投資できる機会もある点が特徴です。不動産小口化商品は、1つの不動産の金額を小口に分割して売り出す仕組みとなります。次の章で、詳しく見ていきましょう。
法改正により増加した「不動産小口化商品」とは?
不動産小口化商品とは、1つの不動産の金額を小口に分割して売り出す仕組みです。数千万円から数億円の商品を複数口に分割していることから、1棟もしくは1室を購入するより安価に不動産を購入できます。
2017年、2019年の不動産特定共同事業法(不特法)改正により、事業者の基準が緩和。不動産投資に参入する事業者が増加し、販売される小口化商品も増加しました。
メリットとデメリット
不動産小口化商品のメリットは、1棟や1室をまるごと購入するより安価であることです。1口が数万円〜数十万円であれば、1室を購入するより手軽に不動産投資ができる点も挙げられます。
不動産小口化商品は2種類。事業の主体により「匿名組合型」と「任意組合型」に分けられます。匿名組合型の場合、投資家は出資するのみで不動産を所有しません。任意組合型は、事業者とともに不動産を共有します。任意組合型の場合は不動産の共同所有者となることから、自分で不動産を購入したときと同様に節税対策も可能です。
一方デメリットは、安価=投資額が少ないことから大きな利益を上げることが難しい点が挙げられます。1棟に投資する不動産小口化商品の場合、配当額は1棟全体の家賃収入を投資比率で按分した額です。1棟に対する投資額の割合(保有口数)により、配当額も変動します。
配当額は1棟ごとの入居者数により変動。毎月安定した収入を得られるとは限りません。不動産小口化商品では複数の出資者がいることから、物件の入居者を増やしたくても行動できない点もデメリットといえるでしょう。
通常の不動産投資(現物不動産)との違い
最後に、不動産小口化商品と通常の不動産投資(現物不動産)との違いを見ていきましょう。
最大の違いは、利回りや利益の大きさです。利回りとは、不動産投資の出資総額に対する家賃収入の割合を指します。現物不動産として区分マンションを購入する場合、平均利回りは4〜8%前後となります。一方、不動産小口化商品の利回りは2〜7%。出資者の出資口数により物件全体の収益が按分されることから、不動産小口化商品は現物不動産よりも利回りや得られる利益が低くなりがちです。現物不動産の購入と近い額となる不動産小口化商品であっても、物件全体の収益を出資口数で按分した結果、現物不動産に投資した場合よりも利益が低くなる可能性があります。
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一方、不動産小口化商品には、現物不動産よりもリスクが低い側面もあります。リスクが低い理由は「優先劣後システム」が採用されているからです。「優先劣後システム」とは、投資家が優先して配当金を受け取れる仕組みです。利益の配分は投資家が優先される(=企業が劣後される)ため、家賃収入の下落が一定率に達するまでは、投資家の利益が守られる特徴があります。とはいえ、一定以上の下落率となった場合は、収入も減少。必ず一定額の利益を得ることが保障されているわけではありません。
まとめ
不動産特定共同事業法(不特法)の改正によって、大企業のみであった不動産投資に、個人投資家が参加できるようになりました。クラウドファンディングを利用して、潜在的に不動産投資に関心のある人を集められることも大きなメリットです。また、空き家や空き店舗対策には社会貢献の側面もあり、今回の改正には大きな意義があったといえるでしょう。
不特法改正により、不動産投資の幅が広がりました。しかし、不動産投資は、1棟あるいは1室を購入してこそメリットを最大限に享受できる性質があります。ローンを使うことで、自己資本が少なくてもレバレッジを効かせて大きな利益を生み出すことができるからです。
当社では、安価でかつ利回りが高い、東京23区や大阪市内の駅近中古物件を主に取り扱っています。「不動産投資をしたいけれど、現物不動産か不動産小口化商品か迷っている」「価格が同等でも、現物不動産を持つのが心配」など不動産投資について気になる点があれば、一度無料相談にてお話を聞かせてください。経験豊富なコンサルタントが、中立の目線でアドバイスいたします。

この記事の執筆: 堀乃けいか
プロフィール:法律・ビジネスジャンルを得意とする元教員ライター。現役作家noteの構成・原案の担当や、長野県木曽おんたけ観光局認定「#キソリポーター」として現地の魅力を発信するなど、その活躍は多岐に亘る。大学および大学院で法律や経営学を専攻した経験(経済学部経営法学科出身)から、根拠に基づいた正確性の高いライティングと、ユーザーのニーズに的確に応えるきめ細やかさを強みとしている。保有資格は日商簿記検定2級、日商ワープロ検定(日本語文書処理技能検定)1級、FP2級など。
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