不動産投資の契約後に購入をキャンセルする方法とは?
- 更新:
- 2023/04/11
本記事は動画コンテンツでご視聴いただけます。
私が普段営業マンとして、不動産投資を行っていらっしゃる大家さんや、これから不動産投資を行おうとしている会社員の方々にお会いする中で、時々あるご相談を頂くことがあります。それは、「ほかの不動産会社さんで物件購入の契約をしたんだけど、キャンセル出来ませんか」「無理やり物件を購入させられそうなのですが、どうしたら良いでしょうか?」といったご相談です。
中でも特に私にとって印象深かったのは、「昨日、ある不動産営業マンから無理やり迫られて、喫茶店で契約書にサインをしてしまいました。しかし、妻には当初から不動産投資を反対されていて、もし契約のことが知られたらどうなってしまうか分かりません。何とかキャンセルをしたいのですが、どうしたら良いのでしょうか」と途方に暮れていた会社員のAさんです。
この方は、当初担当の営業マンに、契約を取り消したい旨メールで連絡をしたところ、そこから携帯に怒涛の着信が入ってしまい、怖くなって私に相談いただいたとのことでした。
結果的に、この方はクーリング・オフ制度をうまく活用して難を逃れられたのですが、「法律のことを詳しく知らなかったので、一歩間違えればこのまま契約させられてしまうところでした」と自分の至らなさに大変落ち込んでいたのが印象的でした。
勿論、読者の皆様は既に十分ご存じのことかとは思いますが、念のために申し上げると、不動産投資というのは本来非常に安定的で、手をかけずに長期的な資産を形成することのできる優れた投資です。しかしながら、悲しいことに世間では、上記の例のように悪徳な不動産会社や営業マンに無理やり購入を迫られたり、脅迫じみたやり方で契約をしてしまったりと、本来の不動産投資のあるべき姿とは全く異なる形で困っていらっしゃる方々が多くいるのもまた事実です。
そこで本記事では、そういった「望まない」形で物件の契約をしてしまった方々に向けて、どのように購入のキャンセル行えば良いのかについて、具体的なケースをもとにいくつかご紹介したいと思います。
契約のキャンセルについて
それでは、既に不動産の契約を終えてしまった場合における契約のキャンセルの方法について見ていきたいと思います。
まず最初に、既に不動産の売買契約を行っている場合、最もやってはいけないことがあります。それは、契約後に不動産会社との連絡を突然絶ったり、銀行との金銭消費貸借契約や決済日の日程が決まっているにもかかわらず、無断で欠席をしたりすることです。
もちろんこれは、社会人としてやってはいけないことであることは当然ですが、それ以上に、契約書の取り決めに従って、違約金などの名目で損害賠償を請求されることに繋がります。一つの目安として、売買契約における違約金の相場は、概ね売買価格の10%程度と言われています。仮に不動産の価格が3,000万円であったとすると、違約金だけで300万円の計算になるわけですので、契約後のドタキャンや無断欠席は絶対にやめるようにしてください。
それでは、本題である契約のキャンセルにおける2つの方法について見ていくことにしましょう。
契約キャンセルの方法①:手付金放棄
まず1つ目の契約キャンセルの方法は、手付金の放棄を行うことです。手付金とは、売買契約を締結する際に、売買代金の一部を前もって買い手から売主へ支払う金額のことで、相場は物件価格の概ね5%前後であることが多いです。時々、不動産会社が売主の物件であると、手付金10万円といったキャンペーンを行っているところもありますが、一般的に仲介取引の場合には、上記のような相場で支払われることが多いです。
実はこの手付金というのは、買い手からの「購入への本気度」を示す意味での金額という面以外に、契約の取り消しを行う上での重要なファクターとしての側面も有しています。それは、手付金を放棄することによって契約をキャンセルすることができるという点です。
手付金のこうした面については、民法第557条1項で以下のように定められています。
「買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後はこの限りでない。」
この条文からも分かるように、例えばある物件に対して100万円の手付金が支払われたケースを考えると、買い手は支払った100万円の放棄を宣言することで、売り手は既に受け取った100万円と、追加の100万円の計200万円を買い手に提供することにより、契約の解除を行うことが出来ます。
確かに、特に資産の移動が発生していないにも関わらず手付金分を失うことは痛いものの、無断欠席や契約違反による違約金と比較すると、金額的にも当事者間の信頼関係の点からみても、現実的な選択肢であるのではないでしょうか。
契約キャンセルの方法②:クーリングオフ制度の活用
売買契約の締結後にキャンセルをするための2つ目の方法は、クーリングオフ制度を活用する手段です。クーリングオフというと、訪問販売で購入した商品の返還において活用されるというイメージが一般的に普及していますが、実は不動産取引においても利用が可能です。
しかも、先ほどの手付金放棄とは異なり、支払った手付金を取り戻すことが出来ますので、より強力なキャンセル方法であると言えるでしょう。
但し、これだけ買い手にとってメリットの多い制度である分、クーリングオフを使用するにあたってはいくつかの条件を充足する必要があります。
その条件とは、①売主が宅建業者であること、②買主が宅建業者以外であること、③代金の支払い又は物件の引き渡しのいずれかが完了していないこと、④申し込み場所が事務所等以外であること、⑤クーリングオフの説明を受けてから8日以内に申し出ること、の5点です。
この中で、特に注意をすべきなのは、①売主が宅建業者であること及び④申し込み場所が事務所等以外であることの2つです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
まず、①売主が宅建業者であることについてです。既にご存じの方も多いとは思うのですが、不動産取引には大きく、仲介物件取引と売主物件取引の2タイプが存在しています。仲介物件取引とは、不動産会社が取引当事者の間に立って取引を進めている方式のことで、殆どの場合売主と買手の双方が個人での取引です。一方、売主物件取引とは、不動産会社が自社で保有している物件を個人に対して販売することをさしています。
上記の2タイプの取引の内、①売主が宅建業者であるという条件を満たすのは、売主物件取引になります。(例外として、売主が不動産会社であり、かつ仲介の不動産会社が存在しているパターンの仲介取引がありますが、こちらも①の条件を満たします)
したがって、不動産投資のための物件検索サイトで見かけるような仲介物件においては、クーリングオフ制度が利用できないという点は、しっかりと押さえておく必要があるでしょう。
次に、④申し込み場所が事務所等以外であるという条件について解説をしていきます。クーリングオフ制度の中でも、この条件が最も分かりにくいものであるため、いくつかの具体的なケースを交えながら、説明していきたいと思います。
まず、不動産の売買契約の締結はどのような場所で行われるでしょうか。おそらく殆どの方が、不動産会社の事務所や、自宅近くの喫茶店、場合によっては自宅で行っていると思います。実はこの契約締結の場所が、クーリングオフ適用の可否を決める非常に重要な要素であり、分かりにくいポイントでもあります。
それでは、クーリングオフ制度の適用条件を満たさない(= キャンセルが出来ない)場所を、いくつか箇条書き的にご紹介したいと思います。
- 不動産会社の事務所
- 住宅展示場内
- モデルルーム
- (買手が指定した場合の)自宅及び勤務先
これ以外の、例えば喫茶店であったり、ホテルのロビーなどでの契約は、クーリングオフ制度の適用対象となります。
それでは、これからAさん、Bさん、Cさんの3つのケースを見ていくことにしましょう。それぞれの契約場所がクーリングオフの適用対象となるかどうか、一緒に考えていただければと思います。
まず、Aさんのケースです。ある不動産会社からの物件の購入を決めたAさんは、契約を行う場所として、売り手である不動産会社のオフィスを、「Aさんの指定により」契約の締結場所として依頼しました。契約締結後、キャンセルをしたいと考えたAさんは、担当の営業マンにクーリングオフ制度の利用を行いたいと申し出ました。
次に、Bさんのケースです。長い時間にわたって投資を始めるかどうか悩んでいたBさんは、気に入った担当者からおススメされた物件の購入を決めました。契約の締結場所について、営業マンより「Bさんのご自宅にお伺いします」とのメールが入っており、そのまま自宅で契約手続きを行いました。しかし、契約締結後に心変わりしたBさんは、営業マンにクーリングオフ制度の利用を申し出ました。
最後に、Cさんのケースです。ある不動産会社のセミナーに参加したCさんは、そこで紹介された物件を気に入り、その場で購入を即決しました。その後契約を締結するにあたり、当初は自宅で行うことを予定していましたが、奥さんの突然の予定変更により、急遽自宅ではなく、自宅近くのファミリーレストランで契約を行ってもらうよう営業マンに伝え、そのままそこで契約の締結を行いました。しかし、その後奥さんから猛烈な反対を受けたCさんは、不動産会社にクーリングオフ制度の利用を申し出ました。
さて、上記の3つのケースでは、クーリングオフ制度の適用は出来るのでしょうか。早速解答を見ていくことにしましょう。
まず最初にAさんのケースでは、クーリングオフの適用対象外となります。不動産会社の事務所での契約は、買い手からの指定であるかどうかと関係なく、一律でクーリングオフの適用から除外されるためです。
次にBさんのケースでは、クーリングオフの適用対象内となり、物件購入のキャンセルが可能です。買い手の自宅・勤務先での契約は、買い手による指定の場合にはクーリングオフの適用から除外されますが、今回のケースでは営業マンからの指定によるものであるため、無事クーリングオフの利用が可能となります。
最後に、Cさんのケースですが、これもクーリングオフの適用対象内となり、物件購入のキャンセルが可能となります。もし当初の予定通り、Cさんが指定した自宅で契約が行われていれば、クーリングオフの適用対象外となるところでしたが、喫茶店やファミリーレストランでの契約は、買い手による指定の有無を問わずにクーリングオフの適用が可能となります。
いかがでしたでしょうか。クーリングオフの条件の中でも、場所の条件はかなり分かりづらいのですが、上記3つのケースを通じて、どのような場合にクーリングオフが適用できるのか、お分かりいただけたのではないかと思います。
まとめ
本記事では、投資用物件の契約締結後に、物件購入をキャンセルする方法について解説をしてきました。まず注意点として、契約後の無断欠席や、音信不通の状態となることは、道義的な問題だけでなく、法的な手段に則って損害賠償を請求される恐れがあるため、絶対に避ける必要があることをお伝えしました。
また、具体的に購入をキャンセルする手段として、①手付金放棄、②クーリングオフ制度の利用の2つがあることについて見ていきました。さらに、クーリングオフ制度は、手付金放棄と違ってキャンセル時の手出しがないことがメリットであるものの、いくつか細かい条件を満たす必要があることについても、お分かりいただけたかと思います。
これは言うまでもないことではありますが、そもそもの前提として、自身が納得しない状態で物件の購入をすることや、契約後にキャンセルをすることは出来る限り避ける必要があります。しかし一方で、どうしても営業マンに押し切られてしまったり、その場の雰囲気に流されて購入してしまった方が大勢いることも事実です。そういった方々に向けて、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。