東証プライム上場不動産会社の元社長が暴力団と関係を持っていた!?事件の全容と過去にあった業界の不祥事まとめ
- 更新:
- 2023/06/26
2023年6月20日、東証プライム上場の不動産会社「三栄建築設計」の元社長が暴力団に資金供与をしていたとして、同社は都暴力団排除条例(以下、暴排条例)に基づく勧告を受けました。上場企業が暴力団と関係をもち、暴排勧告を受けたのは異例の事態として業界に衝撃を与えています。
今回は本記事を執筆した同年6月23日時点で分かっている本事件の全容を解説するほか、過去にあった不動産会社が暴力団とかかわっていた不祥事をまとめました。今回の事件について詳しく知りたい方、過去の事例をチェックしたい方はぜひ最後まで読んでみてください。
東証プライム上場の不動産会社「三栄建築設計」の元社長が暴力団と関与!
事件が公になったのは2023年6月20日。東証プライム上場の不動産会社「三栄建築設計」の元社長である小池信三氏が暴力団と関与しており勧告を受けたとして、同社が文書を公開しています。
参考三栄建築設計「当社に対する東京都公安委員会からの勧告及び代表取締役社長その他取締役の異動について」
三栄建築設計は1993年に小池氏が設立した、分譲・注文住宅の生産や販売を行っている不動産会社です。2012年には東証プライム上場を果たしています。なお、小池氏は2022年9月の時点ですでに暴力団との関与を疑われており、同年11月に社長を辞任しました。
それでは、今回の事件について詳しく見ていきましょう。
住吉会系暴力団幹部へ189万円の小切手を供与
三栄建築設計社は2023年6月20日、元社長の小池氏が指定暴力団「住吉会」系の暴力団幹部へ189万円の小切手を渡したとして、東京都暴力団排除条例第27条の規定による勧告を受けました。小切手のやり取りは、小池氏在任中の2021年3月25日に行われていたようです。
この暴力団幹部と小池氏は以前からの知人で、飲食をともにする関係であったとのこと。しかし、警視庁による任意聴取では「暴力団員という認識はなかった」と話しています。
参考毎日新聞
解体工事を暴力団が指定した会社に受注させ、工事代金を水増しした疑い
気になるのが、189万円もの小切手をどのように不自然なく暴力団へ渡したかという点です。小池氏は三栄建築設計社が発注した解体工事を、暴力団が指定した会社に受注させ、水増しした工事代金を請求させていました。つまり、三栄建築設計社が暴力団の指定企業に対して本来の工事代金 + 189万円を支払ってしまい、損害を受けた格好です。なお小池氏については、これ以外の解体工事にも暴力団を関与させようとしていた事実が後から発覚しています。
参考三栄建築設計「当社に対する東京都公安委員会からの勧告及び代表取締役社長その他取締役の異動について」
小切手による暴力団への資金供与と、工事代金の水増しが判明したきっかけは、小池氏とやり取りしていた暴力団幹部が逮捕されてしまったことです。同暴力団幹部は工事を受注した建設会社の元社員に対し「工事を早くしろよ。ぶっ殺してそこの庭に穴掘って埋めちまうぞ」などと脅迫したとして、暴力行為等処罰法違反容疑で警視庁に逮捕されています。そこから徐々に今回の事件が明るみに出始めました。
上場企業への暴排条例に基づく勧告は異例の事態
先述したように東京都公安委員会は2023年6月20日、都暴力団排除条例に基づき、三栄建築設計に暴力団への利益供与をしないよう勧告しました。捜査関係者によれば、東証プライム上場企業が暴力団への利益供与で暴排勧告を受けるのは異例の事態とのことです。
暴力団排除条例(通称:暴排条例)とは、文字通り暴力団をはじめとする反社会的勢力を排除するために規定された条例。自治体・住民・事業者の責務・役割などを定めるとともに、暴力団排除の措置について規定しています。
暴排条例に基づき、事業者は反社会的勢力とのつながりを持たないよう求められています。とりわけ上場企業は、上場審査の際に反社会的勢力への対策を明らかにしなければいけません。つまり上場企業が裏で暴力団とつながること自体が非常に難しいため、今回の勧告が「異例」といわれたのでしょう。
新社長には常務取締役の千葉理恵氏が就任
新社長には、常務取締役であった千葉理恵氏が就任しました。千葉氏はこれまでに3社の社長を経験しているやり手。現在も子会社である「㈱三栄クラフター」の代表取締役社長を兼任しています。今回の不祥事を受けて失った信頼を取り戻せるのか、千葉氏の手腕が問われるでしょう。
なお旧代表取締役の小池学氏と旧取締役副社長の吉野満氏も、今回の事件を受けて辞任しました。両社とも事件への関与はないものの、元社長との関係や経営への影響を考慮し、辞任の決断に至ったとしています。
参考三栄建築設計「当社に対する東京都公安委員会からの勧告及び代表取締役社長その他取締役の異動について」
今後の同社の再発防止対策は?
同社は勧告を受け、再発防止策として「第三者委員会を設置し徹底的な事実関係の調査や原因究明を行う」とコメントしています。上場企業が暴力団と関与していたという、あってはならない異例の事態。今回の事件を受けて、今後は同社を含めた事業者のより徹底的な反社会的勢力への対策が求められていくでしょう。
過去にあった不動産会社が暴力団とかかわっていた不祥事まとめ
今回の三栄建築設計社のように不動産会社が暴力団とかかわっていた不祥事は、過去にもいくつかありました。特に目立つものを4つピックアップしたので、それぞれ見ていきましょう。
- 東証二部上場不動産会社による「地上げ屋」を経由した暴力団への資金供与
- 京都の中小不動産会社による暴力団幹部への資金供与
- 無免許ブローカーによる暴力団への住宅賃貸
- 東京の大手不動産会社による暴力団関係会社土地での駐車場運営
東証二部上場不動産会社による「地上げ屋」を経由した暴力団への資金供与
1つ目は2008年に東証二部上場の不動産会社(以下、A社)が、土地の買い付けなどを行う「地上げ屋」を経由し、暴力団へ資金供与していた事件です。A社はこの地上げ屋に対し、A社所有のとあるビルでの立ち退き交渉を依頼しました。しかし、この地上げ屋は指定暴力団である山口組と深いつながりがあったため、150億円にのぼる立ち退き費用の一部が暴力団へ流れてしまったのです。
この地上げ屋が立ち退き交渉の際に、お経を大音量で唱えるなどの非常に手荒な手法を取っていたこともあり、警察が介入。そこで地上げ屋が弁護士資格を持っていないにもかかわらず立ち退き交渉を行っていたと判明し、逮捕に至りました。
しかしこの背景を探ってみると「A社が地上げ屋に一旦形式上ビルを売却し、所有者であるかのように振舞わせた」という事実が判明します。それにもかかわらず、A社は「この地上げ屋を選んだのは過失であった」と強調していました。逮捕されたのはA社ではなく地上げ屋でしたが「問題なのは、明らかに暴力団と知って依頼したA社の方」として世間からの信用を完全に失ってしまい、同年に民事再生法の適用申請(事実上の破産)に至っています。
大阪の中小不動産会社による暴力団幹部への資金供与
2つ目は2022年に大阪の中小不動産会社が、山口組系暴力団幹部へ直接的な資金供与をしていた事件です。同社の経営者は「トラブルがあった時の後ろ盾になってほしかった」と話しており、暴力団であると分かったうえで計1億560万円を入金しています。また、この事件と同時に府の暴力団排除条例で禁止された暴力団へのマンション賃貸も行っていたため、不動産会社を含めた関係者全員が勧告を受けました。
埼玉の無免許ブローカーによる暴力団への住宅賃貸
3つ目は、埼玉県の無免許のブローカー(賃貸業者)が暴力団へ住宅を賃貸し逮捕された事件です。そもそも宅地建物取引業の免許を持たずに賃貸物件の仲介を行うのは、宅地建物取引業法に違反するとして罰せられます。さらに貸した先が暴力団ということもあり問題となりました。物件を暴力団関係者に賃貸する行為についても、現在「暴力団対策法」に基づく条例で禁止されています(詳しくはこの記事の後半で解説しています)。
逮捕された無免許ブローカーはその後、他にも複数の暴力団関係者への賃貸借契約を締結していたと判明しています。対策が厳しくなった現代では、まともな不動産会社は無免許ブローカーと取引しようと考えません。その背景もあり、正攻法をあきらめ「暴力団との取引」で稼ぐことに活路を見出したのでしょう。
東京の大手不動産会社による暴力団関係会社土地での駐車場運営
4つ目は2012年に東京の大手不動産会社が、暴力団関係者が経営に関与する不動産管理会社と賃貸借契約を結び、駐車場の運営を始めてしまった事件です。賃貸借契約によって支払われた代金の一部が、暴力団の活動資金として流れてしまったといわれています。同社は、この不動産管理会社の経営に暴力団関係者がかかわっていると察知できませんでした。
最近ではコンプライアンスの観点から、ほとんどの大手の会社がシステムを導入して「反社チェック」を行っているため、相手が暴力団関係者と知らずに取引をしてしまうケースは大幅に減りました。しかし当時はシステムを使った反社チェックの技術もそこまで発達していなかったため、すり抜けていた悪質な業者も少なくなかったのでしょう。
不動産業界における「暴力団排除」のルールとは
不動産業界は、とりわけ「暴力団排除」のルールが厳しい業界として知られています。暴力団関係業者による地上げ行為や直接的な資金提供、暴力団事務所利用のための賃貸借契約など、不動産業者と反社会的勢力との関係はバブル経済期には社会問題にまで発展しました。
「なぜ不動産業界なのか」というと、不動産取引は賃貸借や高額売買などで非常にお金が流れやすいのが最大の理由として挙げられます。そのため厳密にルールを定め、業界から暴力団を排除する動きが必要だったのです。そこで、不動産業界における暴力団排除の具体的なルールを2つ紹介します。
暴力団事務所利用のための売買・賃貸禁止
不動産会社が、暴力団の事務所に利用するのが目的の相手に対し、売買や賃貸を行うのは禁止です。暴力団対策法に基づき47都道府県でこれについて条例を定めていますが、それに付随し各種契約書に下記のような条項を記載するのが基本となっています。
- 借主(買主)が暴力団等反社会的勢力でない
- 暴力団等反社会的勢力に名義を貸した契約ではない
- 脅迫・暴力をしない
- 偽計・威力による業務妨害や信用毀損をしない
- 上記について違反があった場合、催告なしで契約解除できる
参考「不動産賃貸借契約における反社会的勢力排除のための条項例」
契約書に条項の記載があれば、万が一暴力団関係者と契約してしまった場合でも強制的に契約を解除できます。圧倒的に反社会的勢力にとって不利な契約が可能なため、未然にトラブルを防ぐことが可能です。
宅建業者による本人確認実施・疑わしい取引の届出義務
「犯罪収益移転防止法(通称:マネロン法)」により、宅地建物取引業者には顧客への本人確認や疑わしい取引の届出が義務化されています。賃貸・売買いずれの場合にも適用されるため、反社会的勢力との契約リスクを未然に軽減可能です。
2008年2月までは、本人確認・届出義務があったのは金融機関のみでした。同年3月にマネロン法が制定されて適用範囲が広がり、不動産業を含む46の事業者が対象となっています。
参考宅建協会「不動産業におけるマネー・ローンダリング対策(犯罪収益移転防止法)の推進」
まとめ
不動産会社「三栄建築設計」の元社長が暴力団と関与していた事件で、同社が東証一部上場企業ということもあり、業界は激震を受けました。過去に不動産会社と暴力団とで関係があった事件はいくつもありましたが、上場企業に対する暴排条例に基づく勧告は全国でも異例の事態となっています。
賃貸や売買で大きなお金が動きやすいという性質や、バブル期ごろに不動産業界において反社会的勢力とのつながりが多く見られた背景から、不動産業界では「暴力団排除」のルールが厳格。暴力団関係者への賃貸・売買行為はすべて禁止で、顧客への本人確認や疑わしい取引の届け出は必須です。
暴力団関係者が関与する不動産会社と意図せず取引してしまうケースは滅多にないことですが、念のため投資家も注意を払っておくべきでしょう。当社ではきちんと資格・免許を持った業者とだけ健全な取引を行っており、みなさまにもその点しっかりとご説明しますので、不安なくお気軽にご相談ください。
この記事の執筆: 及川颯
プロフィール:不動産・副業・IT・買取など、幅広いジャンルを得意とする専業Webライター。大谷翔平と同じ岩手県奥州市出身。累計900本以上の執筆実績を誇り、大手クラウドソーシングサイトでは契約金額で個人ライターTOPを記録するなど、著しい活躍を見せる大人気ライター。元IT企業の営業マンという経歴から来るユーザー目線の執筆力と、綿密なリサーチ力に定評がある。保有資格はMOS Specialist、ビジネス英語検定など。
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