名古屋市が導入するSRTとは?不動産投資への影響も解説します!
- 更新:
- 2023/06/19
令和5年3月、名古屋市にて「名古屋交通計画2030」の策定が発表されました。同計画には、「SRT」と命名された新路面公共交通システムを早急に導入することが書かれています。
このSRTは、名古屋駅から栄までの他、名古屋市 - 大須 - 名古屋城 - 栄を周回するコースで走行予定です。令和4年9月には、名古屋市の中心部である名古屋駅から栄までの区間にて、SRT導入の社会実験が行われました。
本記事では、SRTの概要や既存交通機関との関係について解説します。SRTが不動産投資へ与えるであろう影響についても解説。本記事を読むことで、SRTとは何か、不動産投資へはどのような影響が想定されるのかが理解できるでしょう。少しでもご関心をお持ちの方は、ぜひ最後までご一読ください。
SRTとは
SRTとは、「今までにない新しい移動手段」として導入される名古屋市独自の新たな路面公共交通システムです。新しさの特性を表す概念である「Smart Roadway Transit」の頭文字を取って「SRT」と命名されました。
名古屋市では、次のコンセプトで作られる交通システムを「SRT」と呼んでいます。
- みちの再生による都心の魅力向上
- 地区間の連携を強化する基幹公共交通
- まちを訪れる人に新しい移動価値を提供
「Smart Roadway Transit」の具体的な内容は以下のとおりです。
要素名 | 具体的な内容 |
---|---|
Smart | 技術の先進性による快適な乗り心地やスムーズな乗降 洗練されたデザインなどのスマート(Smart)さ |
Roadway | 路面(Roadway)を走ることでまちの回遊性や賑わいを生み出す |
Transit | 今までにない新しい移動手段(Transit) |
参考名古屋市「SRT Smart Roadway Transit構想 新たな路面交通システムの実現を目指して」
SRTの概要
名古屋市では、令和5年3月に「名古屋交通計画2030」が策定されました。
「名古屋交通計画2030」とは、2030年(令和12年)度までに、既存交通機関と先進技術を活用し、誰もが快適に移動できる「最先端モビリティ都市」の実現を目指す計画です。同計画内でも、早急に実施すべき重点的な取組としてSRTを取り上げています。
ここからは、SRT導入に至った背景や具体的な導入ルートなど、SRTの概要を解説します。
参考『「名古屋交通計画2030」ー最先端モビリティ都市の実現に向けてー』
SRT導入の背景
SRT導入背景の筆頭として、大須や名古屋城といった、名古屋市内の主要観光地への導線確保が挙げられます。名古屋駅から地下鉄で大須や名古屋城へ行く場合、乗り換えが必須です。バスも走っていますが、観光客にはわかりにくい路線となっています。そこで、名古屋駅から大須や名古屋城へ乗り換えなしで行けるように、SRTのルートを制定しました。
2027年、品川から名古屋までリニア中央新幹線が開業予定です。リニア新幹線開業により、名古屋市内への来訪者数の増加が期待されています。来訪者が増えた際に主要観光地をつなぐ交通機関を設定したい考えから、SRTの導入が計画されました。
SRTの規格
SRTの導入に際しては、存在感やシンボル性があり、誰もが安心して快適に乗車できる先進的な車両を新たに開発する予定です。現段階で名古屋市がイメージする車両は、下記のとおり。
- 乗りたくなるような車体デザイン
- 前方の景色を楽しめる空間
- 車窓からの景色が見渡せる座席
- 開放感のある大きな窓
などがポイントとなっています。
令和4年9月には、存在感やシンボル性のある車両として、栄 - 名古屋駅間で赤い連節バスを走行させる社会実験を行いました。走行空間についても、走行レーンの着色や路面標示によりわかりやすくする予定です。
導入予定ルート
SRTは、2ルートで導入が予定されています。最初に導入されるのは、栄 - 名古屋駅間の「東西ルート」です。
2026年に名古屋市で開催されるアジア・アジアパラ競技大会までには、名古屋駅 - 大須 - 栄 - 名古屋城を周回する「周回ルート」の導入が予定されています。
運行本数
SRTの運行間隔は、10分程度が予定されています。早朝から夜間まで、通勤や観光など幅広い利用形態に対応することが狙いです。
SRTの運行に際しては、公共交通全体として最適なサービスが提供できるよう、路線バス等とも連携を図る予定となっています。
基幹バスとの競合はあるのか
現在、名古屋市内では多数の路線バスが運行中です。路線バスの中には、バス専用・優先走行車線が設けられている基幹バスがあります。
基幹バスの特徴は、一般車両の制限によるスムーズな運行です。基幹バスとSRTは似ているところがあるため、競合してしまうのではと気になる方も多いのではないでしょうか。
結論から申し上げると、SRTの予定ルートと基幹バスルートは重なっていないことから、基幹バスとSRTは共存可能と考えられます。
下表のとおり、SRTルートのすべてを通る基幹バスはありません。
路線名 | ルート | SRTル―ト内通行箇所 |
---|---|---|
基幹1号系統 | 栄ー鳴尾車庫 | 栄 |
基幹2号系統(名古屋市営バス) | 栄ー四軒家 | 栄、名古屋城 |
基幹2号系統(名古屋市営バス) | 名古屋駅ー猪高車庫 | 名古屋駅、名古屋城 |
基幹2号系統(名鉄バス) | 名鉄バスセンターー藤が丘 | 名古屋駅、栄、名古屋城 |
基幹バスとSRTはルートが重ならないことから、両者は共存できるのではないかと考えられます。
SRTとLRT・BRTとの違い
SRTと名前が似ている交通システムとして、LRTやBRTが挙げられます。
LRTは「Light Rail Transit」の頭文字で、低床式車両(LRV)を活用した路面電車システムです。次世代の軌道系交通システムとも言われています。一方、BRTは「Bus Rapid Transit」の略で、専用レーンやプラットフォームの設置により、電車と同等の輸送量を保つバス高速輸送システムです。名古屋市内大曽根駅から高蔵寺駅でガイドウェイバスを走らせる「ゆとりーとライン(志段味線)」はBRTとなります。
SRTは、BRTやLRTとは違う新しい交通システムです。名古屋市の定義では、「従来のLRTやBRTの優れた点をあわせ持ち、「わかりやすさ」「使いやすさ」「楽しさ」を備えた最先端で魅力的なタイヤベースシステム」となっています。
SRTの導入によるメリット
それでは、SRTを導入するメリットには何があるのでしょうか。名古屋市が掲げている導入メリットは、下記の3点です。
- 名古屋市中心部での回遊性の向上
- まちづくりによる賑わいの拡大
- 東山線の混雑緩和
それぞれ詳しく解説します。
メリット①:名古屋市中心部での回遊性の向上
先述のとおり、現在、名古屋市中心部を観光する際は地下鉄の乗り換えが必須です。市内中心部にSRTを走らせることで、市内の回遊性を向上させ、観光や買い物、通学が便利になるメリットがあります。
さらに、既存バス停をSRTと共用化する計画もあります。共用化により乗降場所や路線情報を集約し、バスの利便性が向上することも大きなメリットです。
メリット②:まちづくりによる賑わいの拡大
SRTの導入は、名古屋市内のまちづくりと一体化して実施されます。現在、栄にほど近い久屋大通の再編や、リニア中央新幹線開通に向けた名古屋駅の周辺整備が行われています。
SRT導入と同時に、道路空間の再生も計画中です。
- 歩道に休憩施設を作る
- デザイン性が高い上屋や待合用のベンチを整備する
上記のような再生計画により市内中心部に憩いや賑わいの空間ができることも、SRT導入によるメリットと言えるでしょう。
メリット③:地下鉄東山線の混雑緩和
SRTの導入により、名古屋駅と栄を結ぶ名古屋市営地下鉄東山線の混雑緩和も期待されています。
栄は名古屋の中心街であると同時に、オフィス街でもあります。通勤通学客に加えて観光客も利用することから、東山線の名古屋ー栄間は恒常的に混雑。名古屋市営交通が、名古屋駅から出ている桜通線への分散乗車を呼びかけるほど混雑する路線です。
名古屋駅 - 栄をSRTで結ぶことにより、東山線の混雑が緩和されることも、SRT導入のメリットと言えるでしょう。
SRT導入による不動産投資への影響
SRTの駅近くとなった地区では、不動産の価格が上がることが想定されます。ここからは、SRT導入で想定される不動産投資への影響を4点解説します。
- 名古屋市全体における不動産価値の上昇
- 伏見にある商店街の活性化と東山線沿線の価格上昇
- 大須を通る鶴舞線と名鉄豊田線沿線の価格上昇
- パークアンドライド推進による近隣市の価格上昇
影響①:名古屋市全体における不動産価値の上昇
名古屋市は交通網が発達している一方で、住むなら車が必須と言われています。SRTの導入により中心部の交通網が広がり、車がない世帯や単身者の暮らしやすさが上昇。名古屋市全体で不動産価格が変動する可能性も想定されます。
影響②:伏見にある商店街の活性化と東山線沿線の価格上昇
SRTルートにある伏見は、栄の隣でありながら「シャッター街」となった小さい商店街が多数存在しています。しかし、SRTの開通により、伏見の商店街が活性化する可能性が浮上。商店街の活性化で、伏見に通いやすい東山線沿線の不動産価格が上がる可能性があります。
東山線の覚王山・藤が丘などは、もともと住宅街として人気が高い地域です。同じく東山線の星ヶ丘は高級住宅地としてそれぞれ人気があります。SRTの影響で伏見や栄が盛り上がることにより、もともと人気のある東山線沿線の人気がさらに上がるかもしれません。
影響③:大須を通る鶴舞線と名鉄各線沿線の価格上昇
SRTルートの拠点となっている大須は、大須観音の最寄り駅です。大須観音近隣には商店街もあり、観光客も多く訪れます。SRT導入により、大須や伏見まで1本で通える鶴舞線沿線地域の不動産価格が上昇する可能性があります。
名鉄豊田線と犬山線は、鶴舞線と相互乗り入れしている路線です。大須まで通いやすいことから、名鉄豊田線や犬山線も連動して価値が上がることも予測されます。
影響④:パークアンドライド推進による近隣市の価格上昇
「パークアンドライド」とは、自宅から最寄りや近隣のバス停や駅まで車で行き、駐車場に車を止めて交通機関で通勤・通学するという考え方です。名古屋市でもパークアンドライド(以下P&Rと記載)を推進。SRT導入により、P&Rをさらに推進する可能性があります。
現在、名古屋市は、名古屋市東部の他、次の6市町村にP&R用駐車場設置を許可しています。
- 尾張旭市
- 瀬戸市
- 日進市
- 豊田市の西部
- 長久手市
- 東郷町
上記市町は、名古屋市のベッドタウンとして位置づけられています。SRT導入によりP&Rがさらに推進された場合、P&Rが利用しやすい場所にある不動産も価格が上昇する可能性があります。
まとめ
令和4年9月に、名古屋駅ー栄間に連節バスを走らせるSRT社会実験が実施されました。事後アンケートではおおむね好評でしたが、実際に導入するのは連節バスではなく、別の車体です。STRは名古屋市独自の交通システムであることから、現状での導入効果は未知数となっています。
カーボンニュートラルへ向かっている今日では、名古屋市のように環境に配慮した独自の交通網が各地で導入される可能性があります。そうなると、沿線地域での不動産投資にも影響が出るでしょう。
SRTではありませんが、東京でも地下鉄有楽町線の延伸計画が発表されました。同時に沿線の整備も公表されたので、沿線や近隣の不動産価格が変化する可能性が浮上しています。
交通機関の延伸や新設は、不動産投資へも影響を与えることが考えられます。SRTが不動産投資へ与える影響が気になる際は、ぜひ当社にご相談ください。
この記事の執筆: 堀乃けいか
プロフィール:法律・ビジネスジャンルを得意とする元教員ライター。現役作家noteの構成・原案の担当や、長野県木曽おんたけ観光局認定「#キソリポーター」として現地の魅力を発信するなど、その活躍は多岐に亘る。大学および大学院で法律や経営学を専攻した経験(経済学部経営法学科出身)から、根拠に基づいた正確性の高いライティングと、ユーザーのニーズに的確に応えるきめ細やかさを強みとしている。保有資格は日商簿記検定2級、日商ワープロ検定(日本語文書処理技能検定)1級、FP2級など。
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