契約不適合責任とは?不動産に関わる新たな民法をわかりやすく解説!
- 更新:
- 2023/07/12

2020年4月1日に民法が改正され、瑕疵担保責任が契約不適合責任という名前に変わり、新たに定められました。
全体的に不動産の買主(買い手)を守る変更となっており、買主側に2つの権利を新たに与え、より売主(売り手)側に注意を促す内容となっています。不動産の売買の際は、買主・売主双方が契約不適合責任について理解しておく必要があります。
この記事では、瑕疵担保責任から契約不適合責任への変更点や買主がもつ権利について、具体例を交えながらご紹介します。契約不適合責任に関する理解を深め、不動産の売買にお役立てください。
契約不適合責任とは
まずは契約不適合責任についての概要をご説明します。瑕疵担保責任との違いを含め、全体像をご確認ください。
契約不適合責任の概要
契約不適合責任とは、引き渡しが行われた商品が契約内容に不適合だった場合、売主が買主に減額や賠償といった責任を負うことを指します。
不動産のような高額な商品が売買される際、基本的に買主と売主(または仲介者・請負人)の間で契約書が交わされます。不動産の契約書の中には、売主が買主に引き渡す物件に関する以下の内容が記載されます。
項目 | 内容 |
---|---|
商品の種類 | 不動産の種類(戸建て・マンション)や1室の間取り、設備など |
商品の数量 | 不動産の室数や1室の床面積、設備の数など |
商品の品質 | 不動産の建材や板材、塗料など |
これらの項目が契約書に記載されますが、実際に引き渡された不動産が記載内容と異なるケースがあります。例えば「浴室乾燥機付き」といった記載がありながら機能が不十分だったり、フッ素塗料と記載された外壁塗装材がシリコン塗料だったりといった事例です。
設備に故障があれば修理費用が掛かり、塗料や板材の変化は物件の耐用年数に影響します。資産価値や維持管理費に影響するため、契約内容と実物が異なることは買主にとって大きな損失に繋がります。
このような買主への被害を防ぐため、また契約不適合が起きた際に買主が権利を主張できるようにするため、買主を保護する形で制定されているのが契約不適合責任です。
売主側の対応としては、売却する不動産についての種類・数量・品質(上記の項目)を把握し、契約書類に正しく記載されているかを確認することです。自身で把握できない項目については、不動産の管理会社や売買の仲介会社と連絡を取りながら、物件についての情報を漏れなく理解しましょう。
また、契約不適合責任は任意規定(契約に定めても定めなくてもよい)であるため、契約不適合責任の一部または全てを免責することも可能です。買主側は、契約不適合責任に関する規定自体を忘れずに確認しましょう。
瑕疵担保責任との違い
2020年4月以前は、契約不適合責任にあたる項目は「瑕疵担保責任」と呼ばれていました。瑕疵担保責任とは、商品についての確認の不備(瑕疵)があった場合に、その責任を売主が負う(担保する)ことを定めたルールです。
瑕疵担保責任は不動産に関する隠れた不備や欠陥についての規定であるため、その適用は買主側が瑕疵の存在に気づかなかったことが条件になります。この「気づかない」という事象を善意無過失と呼び、瑕疵担保責任を売主に要求するためには、買主の善意無過失を証明する必要がありました。
参考法律用語の善意・悪意とは?不動産売買におけるケース別の判断基準などを解説!
一方で、契約不適合責任は「契約内容と引き渡された実物に違いがあった場合」に適用されるため、より具体的かつ広範囲で売主への責任を追及できるようになったと言えます。
また詳しくは後述しますが、契約不適合責任には「追完請求権」と「代金減額請求権」という2つの権利が追加されており、瑕疵担保責任よりも買主側が取れる行動が増えています。
さらに、買主側が実際に被った損失(信頼利益)だけでなく、不動産経営やさらなる売買によって将来的に得られていたであろう損失(履行利益)も請求の範囲となりました。賠償請求できる金額が増えたことも、買主側に有利な法改正と言えるでしょう。
瑕疵担保責任 | 契約不適合責任 | |
---|---|---|
適用条件 | 買主の善意無過失 | 契約内容と実物の相違 |
買主の権利 | 賠償請求・契約解除 | 賠償請求・契約解除・追完請求・代金減額請求 |
賠償請求の範囲 | 信頼利益 | 信頼利益・履行利益 |
賠償請求の条件 | 無過失責任 | 過失責任 |
過失責任および無過失責任については、損害賠償請求権の項目にて解説します。
契約不適合があった際の買主の権利
引き渡された不動産に契約不適合が発見された場合、買主は売主に損害賠償や代金減額などを請求できます。ここでは契約不適合責任に定められている買主の権利をご紹介します。
追完請求権
買主が売主に完全なものを追って引き渡すように請求することを「追完請求」と呼びます。
例えば浴室乾燥機に不備があった場合は機能する浴室乾燥機の整備を、フッ素塗料と記載されていた塗材がシリコン塗料だった場合は塗料の塗り替えを請求できます。契約内容の通りに物件を引き渡すように求めるのが追完請求です。
さらに、契約書に記載されていない内容であっても、例えばベランダ床のヒビ割れや天井からの雨漏りなど、商品となる不動産としての前提が満たされていない場合は追完請求を行うことができます。
ただし、例えば雨漏りについての記載が契約書類になかった上で、築50年の物件の引き渡し後に雨漏りが発覚したとします。この場合、築年数や物件の内見から雨漏りすることが想定できるため、契約不適合責任を問うことができません。
買主は追完請求の適用条件を踏まえながら、契約書類と相違ない形で物件が引き渡されるよう追完請求権を主張しましょう。
代金減額請求権
物件に不備があった上で追完が行われなかった場合、買主は売主に対して売買価格の減額を請求できます。この請求を「代金減額請求」と呼びます。
売買価格が減額されたとしても、買主は自身で不備を補填する必要があります。投資用不動産として購入した場合、物件の耐用年数は投資戦略に大きく影響するため、物件の損傷具合や建材・塗材などで耐用年数がズレることは大きな損失に繋がります。そのため、代金減額請求が通った場合は自費での修繕・改修を余儀なくされます。
費用だけでなく手間も掛かることを考えると、基本的には追完請求したほうが結果的に得になります。まずは追完請求を行い、請求が通らなかった場合に代金減額請求を行うようにしましょう。
損害賠償請求権
引き渡された不動産の不備によって買主に不利益が生じた場合、損失を補填するための「損害賠償請求」を行うことができます。
先述のように、信頼利益(買主側が実際に被る損失)だけでなく、履行利益(将来的に得られたはずの損失)も請求の範囲となります。
ただし、契約不適合責任の損害賠償請求は、売主の故意または過失が証明された場合のみ請求が通ることに注意が必要です。故意は「わざと」、過失は「不注意」を指すため、「わざとでも不注意でもない場合」というのは想像が難しいかもしれません。ここでは、「売主が最大限の注意を払っていた場合」を故意でも過失でもない状態と解釈されます。
すなわち、引き渡された不動産に契約書と異なる不備があったが、売主は最大限の注意を払っていたことが証明された場合、損害賠償請求は通らないことになります。
例えば物件の柱の内部で傷みが進んでいたものの、引き渡し前の時点では損傷の兆候が一切発見されていなかった場合。このケースでは、売主がその損傷を発見することは原理的に不可能なため、損害賠償請求は通りません。
この損害賠償請求の適用条件を「過失責任」と呼びます。瑕疵担保責任から契約不適合責任に改正された際に、損害賠償請求の条件が無過失責任から過失責任に変更されました。そのため、この点は売主を保護する変更点と言えます。
契約解除権
売主が追完請求に応じなかった場合、契約自体を解除する「催告解除権」が買主に与えられています。また、売主が債務を履行できないと判断された場合、契約自体を解除する「無催告解除権」を買主は持ちます。
催告とは、相手に履行をあらかじめ伝え、一定期間相手に行動の猶予を与えることを指します。催告解除権は催告を行った上での契約解除となり、無催告解除権は催告をしない契約解除となります。
催告解除権と無催告解除権を合わせて「契約解除権」と呼びます。契約解除権が通るかは、猶予期間における売主の履行具合や、売主の債務履行の可能性によって左右されます。専門的な見解を要するため、契約解除を請求する場合は仲介した不動産会社か、専門の弁護士に相談して進めるようにしましょう。
契約不適合責任の通知期間
不動産の売買契約では一般的に、契約不適合責任を請求できる期間が定められています。
理由としては、引き渡しから時間が経つごとに「引き渡し時点での不備であること」を証明するのが困難になるためです。また、仮に契約不適合責任の通知期間が20年だったとすると、物件の持ち主が二転三転している場合があり、遡って民法上の責任を追及することが困難になるのも理由のひとつです。
期間外で契約不適合責任を追及することは不可能となるため、特に買主は契約不適合責任の適用期間を確認しましょう。また、売主は一般的な通知期間を確認し、契約書に記載する期間を一般の範疇で定めるようにしましょう。
売主が個人の場合と不動産業者の場合で通知期間が異なるため、それぞれをご紹介します。
個人が売主の場合
売主が個人(専門的な事業者以外)の場合、宅地建物取引業法の規定がないため、引き渡しから数ヶ月(3ヶ月程度が一般的)が通知期間となります。
ただし、その期間で合意するかどうかは買主側の判断となるため、買主側の主張のもと通知期間が変更になる場合もあります。双方の合意のもと、通知期間を確定しましょう。
不動産業者が売主の場合
宅地建物取引業法によって定められる不動産業者(宅地建物取引業者)が売主となる場合、同法の第40条により、引き渡しから2年以上が通知期間となります。
また、宅地建物取引業者以外の企業・事業主が売主となり、個人が買主となるケースもたまにあります。この場合は消費者契約法が適用され、引き渡しから1年以上が通知期間となります。
売主 | 通知期間 |
---|---|
個人 | 数ヶ月(3ヶ月程度) |
宅地建物取引業者 | 2年以上 |
宅地建物取引業者以外の事業者かつ、買主が個人 | 1年以上 |
具体的な事例
ここでは、民法が改正される前の瑕疵担保責任に関する判例をご紹介します。
瑕疵が認められた事例
土地と借地権を更地で渡すという条件のもと売買が成立したものの、解体の残骸や地下室が地中に残されていた事例があります。買主は売主と工事の請負業者に対し、撤去と処分費用の支払いを請求しました。
土地売買の契約書の中に地下室が解体撤去の対象として明記されていたことが主な理由として、買主の請求は妥当なものと認められました。
この事例からは、土地の売買の際に売主は地中の状況も最低限把握しておく必要があること、契約書との相違点は判決を定める決定打になることがわかります。
瑕疵が認められなかった事例
買主が3階建ての建物の建築を目的に土地を購入したものの、地中から不法投棄された大量の廃棄物が発見された事例があります。建物の建築ができなかったとして、買主は売主に売買契約の解除および損害賠償の請求を行いました。
主張自体は正当性が見込まれたものの、契約書に記載されていた瑕疵担保責任の期間が3ヶ月であり、期間を経過した後の請求であったことから買主の請求は棄却されました。
この事例からは、主張に正当性があっても通知期間を過ぎた請求は通らないということが分かります。特に更地を購入した後に建物を建てる場合、引き渡しから工事開始まで間が空くことがあるため、通知期間内に土地の状況が分かるようにスケジュールを組むことを推奨します。
まとめ
この記事では契約不適合責任について、買主の権利や通知期間を含めてご紹介しました。
全体的に買主側にとって有利な改正となっていますが、過失責任など一個人では追及が難しい変更点もあるため、買主が常々保護されるとは限らない点にご注意ください。また、売主は無過失責任ではなくなったとはいえ、引き渡し前には可能な限り物件についての情報を精査するようにしましょう。
また、買主・売主双方とも、契約不適合責任について契約書に明記されていること、契約不適合責任についての説明が行われたことを確認しましょう。双方が注意をもって契約不適合責任の記載を確認することで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。専門的な会社が間に立つことも、トラブル回避に繋がります。
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