買主を守る仕組み!「自ら売主制限(8種制限)」について
- 更新:
- 2022/09/20
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不動産取引には、大きく2種類のパターンが存在します。それは、仲介取引と業者売主取引の2つです。まず、一般的にイメージされている不動産取引は「仲介」と呼ばれていて、個人の売主と個人の買主の間に不動産業者が入って取引を行うという形態です。
一方で、業者売主取引とは不動産業者が保有する物件を個人の買主に対して売却する取引形態のことを指し、仲介とは異なり業者と個人が直接の取引関係に立つこととなります。
この二つの取引には様々な違いがあり、例えば利用できる金融機関が変わってきたり、売主物件の場合には仲介手数料が不要であったり、といったところですが、その中でも最も重要なのが「売主の責任」という点です。取引後に物件に瑕疵(問題やトラブルのこと)があった場合、どこまで売主に責任を問えるのかという面で大きく違いが存在するのです。このことを法律用語で「瑕疵担保責任」と言います。
まず個人対個人の取引形態である「仲介取引」の場合には、当事者同士が不動産取引について素人であることが多いため、売主にそこまで責任を追求することはできません。例えば、「シロアリがいるのを知っているにも関わらず、買主に伝えなかった」など、売主が事前に知っている問題を買主に伝えなかった場合などには当然責任を追求することはできるものの、売主が知らなかった問題については、ほとんどの場合無責任か、責任を問えたとしても数カ月以内という期限があることがほとんどです。
逆に不動産会社売主の取引の場合には、仲介取引とは打って変わって業者に大きな売主責任が課せられています。例えば、瑕疵担保責任は最短でも2年間続き、この期間中は例え業者が気づかなかった問題であっても売主責任を追求することができます。(このことを無過失責任といいます)
というのも、売主である不動産業者が不動産のスペシャリストである一方で買主は個人の方であり、両者に圧倒的な知識量・情報量の差が存在しているからです。この差をカバーするためにも、「宅地建物取引業法(以下、宅建業法)」において不動産業者に大きな責任を課し、素人である買主を手厚く保護しようとしているのです。
このため、宅建業法では売主である不動産業者に対して8つの制限を課しています。これを「自ら売主制限」または「8種制限」と呼びます。内容は以下の通りです。
- 自己の所有に属しない宅地または建物の売買契約締結の制限
- クーリングオフの適用
- 損害賠償額の予定等の制限
- 手付額の制限等
- 瑕疵担保責任の特約の制限
- 手付金等の保全措置
- 割賦販売契約の解除等の制限
- 所有権の留保等の制限
本記事では、この8つの制限について解説をしていきたいと思います。やや難解な法律用語も存在していますが、これらは全て買主である個人の方を不動産業者から守るためのルールです。しっかりと理解するようにしましょう。
①自己の所有に属しない宅地または建物の売買契約締結の制限
自ら売主制限(8種制限)の一つ目は、自己の所有に属しない宅地建物について売買契約を結ぶことを制限する内容となっています。これは法律用語で「他人物売買」とも呼びます。
言葉が長く難しく聞こえるかもしれませんが、簡単に言うと「他の人のものを自分のものとして売ってはいけませんよ」という取り決めにすぎません。
「そんなこと、最初からできないのではないか」と思われるかもしれませんが、実は日本の民法では他人物売買を有効と定めていて、実際に条文にも記載されているのです。(民法第560条)この条文では、他人物売買を行った売主は、その権利を買主に移転する義務を負う旨が定められています。
とはいえ、金額が大きく多くの調査を要する不動産取引においてこの他人物売買を行うことは、何かトラブルに発展する可能性も十分あり得るわけです。したがって宅建業法では、事前に不動産業者に対して他人物売買を行うことを禁止しています。
ただし、一点例外があることは注意しておく必要があるでしょう。それは、例え他の人物であったとしても、売主となる不動産業者が売買契約や予約によって、当該土地建物を取得することが明らかな場合には、他人物取引は禁止されないということです。
つまり、不動産業者が今の所有者と契約を結んでいる場合には、所有権を移転する前であっても個人である買主と売買契約を締結することが可能ということです。とはいえ、他人物を取得することを目的とするこの売買契約になにかしらの条件がついている場合(融資特約など)には、この例外は適用されませんので覚えておいてください。
②クーリングオフの適用
次に二つ目の制限は、クーリングオフの適用です。不動産取引におけるクーリングオフとは、「売買契約締結後8日以内であれば、買主は無条件で当該契約を撤回することができる」という制度です。
クーリングオフには8日間という時間的な条件の他、「不動産業者の事務所で締結した契約は対象外になる」といった場所的な条件も存在します。こちらについては他の記事で詳しく解説を行っていますので、しっかりと理解しておいてください。
参考自分を守る仕組み「不動産取引におけるクーリングオフ」とは?
なお、仲介取引においてはクーリングオフの適用はできませんので、こちらも注意が必要です。
③損害賠償額の予定等の制限
8種制限の3つ目は、「損害賠償額の予定等の制限」です。これは、買主が契約において債務不履行をした際の損害賠償及び違約金の額について制限を課したもので、具体的にはこれらを合算した額が代金額の10分の2を超えてはいけません。そしてその制限を超えた分は無効となります。(全てが無効となるわけではありません)
具体例で考えてみましょう。A不動産会社と一般の買主であるBさんが、2,000万円の物件の売買契約を締結したとします。その時、債務不履行をした際の損害賠償額及び違約金の額の合計は、2,000万円の10分の2、すなわち400万円を超えてはいけないということです。
もし、売買契約書上違約金の額が1,000万円と定められていたとしても、債務不履行をしたBさんは上限である400万円のみを支払えば良いということになります。
この制限があることによって、契約上強い立場にある不動産業者がべらぼうに高い違約金を設定することを事前に防止し、個人である買主を保護しようとする目的があるのです。
④手付額の制限等
最後に4つ目は、「手付額の制限等」になります。具体的には、売主である不動産業者は代金額の10分の2を超える額の手付金を受領することができない、という取り決めです。
手付金とは、売買契約時に買主が支払う金額のことを意味していて、契約後に支払った手付金を放棄することで買主は契約を撤回することができます。もしこの制限がないと、不動産業者は買主に多額の手付金を要求し、手付の放棄による契約の撤回をしにくくするといった手段を取る可能性があります。
これを防ぐため、宅建業法は事前に手付金の額を代金額の10分の2以内と定めているのです。別の記事で手付金について詳しく解説をしているので、法律上どのような位置付けなのかといった観点からも読んでいただけたらと思います。
⑤瑕疵担保責任の特約の制限
自ら売主制限(8種制限)の7つ目の制限は「瑕疵担保責任の特約の制限」になります。瑕疵担保責任とは、簡単に言うと「土地建物に何か問題があった際の責任の所在」のことを意味していて、民法にも規定のある法律用語です。
民法では、もし仮に売買契約後に建物に瑕疵(問題)が発覚した場合には、例え売主がその瑕疵について知らなかったとしても、売主の責任になるということが規定されています。
さらに、その瑕疵が原因で契約の目的が果たせないような場合には、瑕疵の発見から1年以内であれば買主は当該契約を解除することができるのです。
この瑕疵担保責任、基本的に弱い立場にある買主を守るための規定である一方、仲介取引(個人対個人の取引形態)の場合には、その責任を無くすことができます。具体的には「瑕疵担保免責」といって、契約時に取り決めをしておくだけで、「例え何か問題があったとしても、それは買主の責任で解決するものとする」と定めることができるのです。
しかし、不動産業者売主の取引の場合には事情が異なります。何か瑕疵のある物件を、無知な買主に対して押し付けるとともに、瑕疵担保責任免責にして、後から売主としての責任を負わないようにしてしまう可能性があります。
そこで宅建業法では、不動産会社の売主取引においては瑕疵担保責任を負わないという取り決めを制限することとしています。これにより、例え不動産業者すら知らなかった瑕疵が発見された場合であっても、引き渡しから2年以内、または買主が問題を発見してから1年以内のどちらかの期限内であれば売主に責任を問うことができるのです。
この瑕疵担保責任が、8種制限の5つ目になります。
⑥手付金等の保全措置
自ら売主制限(8種制限)の6つ目の制限は、「手付金等の保全措置」になります。そもそも手付金とは、契約時に販売代金の一部を支払っておき、買主はその手付金を、売主はその2倍の額を相手方に返すことによって、契約を一方的に解除することができる、という性格を有しています。
そして、宅建業法では不動産会社に対して、手付金の保全措置を実施する必要があると定めているのです。保全措置とは、簡単に言うと「なにかあった際でも手付金が返ってくるように銀行や保険会社と契約すること」を指します。非常に稀なケースではありますが、契約時に手付金を支払ったが、物件の引き渡しまでの間に売主の業者が倒産や夜逃げをしてしまった、ということがあるかもしれません。その時、手付金に保全措置がしっかりとかけられていれば、例え売主の業者がいなかったとしても支払った手付金をしっかりと返還してもらうことができるのです。
なお、この保全措置には例外があり、手付金が一定の額以内であれば保全措置を行う必要がないという規定が存在します。この数値はしっかりと覚えておきましょう。
未完成物件の売買の場合
手付金等の額が販売代金額の5%以下で、かつ1000万円以下の場合
完成物件の場合
手付金等の額が販売代金額の10%以下で、かつ1000万円以下の場合
以上になります。例として、5000万円の新築マンションを契約するとします。5000万円の5%は250万円なので、手付金が250万円以下であれば、手付金の保全措置を行う必要がない、という結果となるのです。
新築と中古物件とで条件が違うため、なかなか覚えにくい数字ではありますが、手付金は不動産売買と決して切り離して考えることのできない仕組みになりますので、保全措置が必要なのかどうかを素早く判断できるように練習しておいてください。
⑦割賦販売契約の解除等の制限
7つ目の制限は、「割賦(かっぷ)販売契約の解除等の制限」です。割賦販売とは、代金の支払いを何回かに分割して行う販売方式をいいます。
内容として、売主である不動産業者は割賦販売にあたっては、買主から分割した金額(賦払金)が支払われない場合であっても、すぐに契約の解除や代金の一括返済を求めることはできず、30日以上の期間を開けて書面で支払いを催告する必要がある、というものです。
たまたま一度だけ支払いが遅れたがために一括返済を迫る、といった問題が起きないようにするための制限になりますので、こちらもある意味当たり前の制限と言えるかもしれません。
⑧所有権留保等の禁止
そして最後の制限が、「所有権留保等の禁止」の規定になります。不動産取引においては、「物件を引き渡してそれで終わり」とはなりません。司法書士等に依頼して、所有権移転登記を行う必要があるのです。
その際、いつまでたっても所有権の移転登記を行わないと、買主の立場からすると「お金を支払ったのに、登記上は自分の物件でない」といったケースがでてくるかもしれません。そこで宅建業法は、販売代金の10分の3を超えて支払いがなされた場合には、売主は所有権移転を留保することはできない、と定めているのです。
例えば、不動産業者が2000万円の物件を売却したとします。その際、買主が10分の3の600万円を超えて代金を支払った場合には、所有権移転登記をすみやかに行う必要がある、ということになります。
まとめ
ここまで、不動産業者売主の取引における宅建業法上の制限である「自ら売主制限(8種制限)」について解説をしてきました。法律用語や定義が非常に複雑なため、なかなか難しそうな印象を持たれた方も多いかもしれませんが、法律上の名称こそ難しいイメージがありますが、実際には当たり前の内容であったりと、理解しやすいのではないかと思います。
根本的な考え方は「いかに個人の買主の権利を守るか」という点に主眼を置いています。
仲介取引に比べ、業者売主取引においては仲介手数料がかからなかったり、提携の金融機関を使えたりといったメリットがある一方で、不動産のスペシャリストである業者と、個人の方との取引ということもあり、両者の間には大きな情報格差が存在することも事実です。
自身の身を守って、より良い不動産投資を行っていくためにも、自ら売主制限(8種制限)については全てを暗唱できるようになるくらい、しっかりと理解しておいてください。