投資用物件で入居者が亡くなってしまったらどうする?具体的な流れとケース別の対策・注意点を解説
- 更新:
- 2023/06/19
近年、賃貸物件の室内で入居者が亡くなってしまったというニュースをよく見かけます。超高齢化社会の進行にともなって高齢者の孤独死件数は大幅に増加しており、不動産投資家にとって入居者の死亡リスクは避けられない問題です。
今回は投資用物件で万が一入居者が亡くなってしまった場合の流れや、ケース別の対策や注意点を詳しく解説します。この記事を読んで、万が一の事態への対策をしっかり押さえておきましょう。
- 目次
- 投資用物件で入居者が亡くなってしまうケースはまれではない
- 投資用物件で入居者が亡くなってしまっても賃貸借契約は継続される
- 投資用物件で入居者が亡くなってしまった場合の流れ
- 【ケース別】投資用物件で入居者が亡くなってしまったら?対策と注意点
- まとめ
投資用物件で入居者が亡くなってしまうケースはまれではない
保有している投資用物件の入居者が亡くなってしまうケースは、最近では「まれ」とはいえません。2019年における自宅での死亡者数は18.8万人にのぼり、その多くが「単身で賃貸に住む人」だといわれています。
東京23区だけのデータに絞ると、65歳以上の孤独死者が平成15年 ~ 平成28年で2倍以上になっており、不動産投資家にとっては避けられない問題だと分かるでしょう。
自殺・殺人など突発的なケースもありますが、特に単身の高齢者が入居している場合は自然死・孤独死の可能性があるので注意が必要です。不動産投資をしている方は本記事を読んで、ぜひ万が一の際に対応できるように知識をつけておいてください。
投資用物件で入居者が亡くなってしまっても賃貸借契約は継続される
不動産投資をするうえでまず押さえておきたいのは「入居者が亡くなってしまっても、賃貸借契約は即解約とはならない」という点です。まずはこの賃貸借契約に関連する事柄について、3つのポイントを解説します。
賃貸借契約は相続人へ引き継がれる
入居者が亡くなってしまっても、賃貸借契約は相続人へ引き継がれます。「借主の死亡」は、賃貸借契約の解約要件に該当しません。なおここでいう相続人とは「法定相続人」にあたり、主に下記の人が該当します。
- 配偶者
- 子
- 両親
- 兄弟姉妹
ほとんどのケースで子または両親が相続人となります。通常であれば配偶者が相続人となりますが、ご高齢でワンルームに住んでいる方の場合、配偶者がおらず、単身である場合が多いです。
滞納家賃がある場合は相続人へ請求できる
先述のとおり賃貸借契約は相続人に引き継ぐので、滞納している家賃があった場合はそのまま相続人へ請求できます。また賃貸借契約を引き継いでから解約するまでの期間の家賃も請求可能です。
若干話がややこしくなるのが、相続人が複数人いるケース。つまり、亡くなってしまった入居者に子が複数いた場合です。このケースでは相続人全員が借家権をもった状態、つまり全員と賃貸借契約を結んでいる状態となるので、家賃はどの相続人に請求しても問題はありません。1人に全額を請求しても、人数で均等に割った額を全員に請求してもよいこととなっています。
相続人がいない・全員に相続放棄された場合は相続財産管理制度で対応できる
そもそも相続人がいない身寄りのない入居者だった場合や、相続人となるはずだった人全員に相続放棄をされた場合は、相続人が誰もいなくなってしまいます。相続人がいない場合は「相続財産管理制度」という制度で対応できるのでぜひ押さえておきましょう。
相続財産管理制度は、相続人がいない人の利害関係者(= 家主)が家庭裁判所に対し「相続人の代わりとなる相続財産管理人をたててほしい」と請求できる制度です。請求が認められれば、以降は相続財産管理人と家賃や賃貸借契約に関するやり取りをします。
ただし注意点として、相続財産管理人をたてるために、数十万円の「予納金」を支払うよう家庭裁判所から言われるケースがあります。予納金は亡くなってしまった入居者の相続財産で充当できれば返還されますが、財産がほとんどなかった場合には1円も返ってきません。
なお「相続人となるはずだった人全員の相続放棄」により相続人がいない場合は、民法940条により相続人となるはずだった人と賃貸借契約解約のやり取りが可能です。そもそも相続人がいなかった場合は、亡くなってしまった入居者の相続財産の有無にかかわらず賃貸借契約解約のために制度を利用せざるを得ません。支払った予納金が全額返ってこない可能性もあるので、入居者の相続人の有無は賃貸借契約前に確認しておき、リスクを回避するのがおすすめです。
投資用物件で入居者が亡くなってしまった場合の流れ
投資用物件で入居者が亡くなってしまった場合は、警察による鑑識などを終えたのち、下記の流れで手続きを進めます。
- 相続人に残置物の処分と原状回復を行ってもらう
- 相続人との賃貸借契約の解約手続きを行う
- 新しい入居者の募集をスタートする
それぞれ詳しく見ていきましょう。
相続人に残置物の処分と原状回復を行ってもらう
入居者が亡くなってしまったら、まずは相続人の主導で残置物の処分(= 遺品整理)や原状回復(= 特殊清掃)を行ってもらいます。相続人の主導で原状回復を行うのは、ご遺体の状況が良くなく、清掃に手間が掛かることが予想される場合です。残置物の処分も自分で行うとトラブルの原因となるので、相続人主導で行ってもらいましょう。
相続人に早くからお金の話をするのは抵抗があるかもしれませんが、原状回復が必要な部屋を放置すると、時間の経過とともに室内の状況が悪化していくので注意が必要です。ただし、相続人と亡くなってしまった入居者との関係が悪かった場合など、原状回復の費用負担を拒否されるケースもあります。
とはいえ長引くほど室内の状況は悪化する一方なので、費用負担を拒否されてしまった場合でも早期の原状回復を検討しましょう。拒否される可能性を少しでも下げるため「できれば協力をお願いしたい」と下手に出て交渉するのが大切です。
相続人との賃貸借契約の解約手続きを行う
残置物の処分や原状回復が終わったら、賃貸借契約の解約手続きを行います。この時点ですでに相続人と契約を結んでいる形となっているので、相続人に「賃貸借契約解約申込書」を書いてもらえば問題ありません。
ただし注意点として、相続人が複数人いる場合は全員と賃貸借契約解約の手続きを行う必要があります。家賃の請求は誰か一人に請求すれば問題ないのに対し、賃貸借契約については1人とだけやり取りをしても解約したことにならないので、必ず押さえておきましょう。
新しい入居者の募集をスタートする
賃貸借契約解約の手続きが滞りなく終わったら、新しい入居者の募集をスタートできます。ただし、募集時には「告知」が必要となるので、いつも通りとはいきません。
告知とは、今回の場合「心理的瑕疵(= 入居者の死亡)」があったと買主に伝えること。多くの人は「人が亡くなった部屋に住むのに抵抗がある」と考えるので、事前にその旨をしっかりと伝える必要があります。ただし死因によっては告知が不要なので、詳しく見ていきましょう。
孤独死・自然死の場合は告知不要
厚生労働省が公開する「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」によれば、入居者の死因が孤独死・自然死だった場合には告知が不要です。普通に募集ができるので、多くのケースで従来と同じ条件でも入居者が集まります。
ただし発見が遅れて腐敗が進んでいた場合や、白骨化していた場合は告知が必要です。告知が必要な場合は入居者が集まりづらくなるので、家賃の引き下げなどを検討する必要があるでしょう。
他殺・自殺・事故の場合は告知が必要
他殺や自殺、事故だった場合には告知が必要となります。世間的にはいわゆる「事故物件」という扱いになってしまうので、なかなか次の入居者が見つからないケースも少なくありません。
後半でも触れますが、殺人だった場合はマンション・アパートの住民全員が退去してしまい、根本的な対策をとらないとまったく次の入居者が集まらない可能性も。ローンの負担だけが膨れ上がらないうちに募集をやめて、早期の売却を検討するのもひとつの手段です。
場合によっては原状回復費用や損害賠償を請求する
ガイドラインによると「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧する」費用については、相続人に請求できます。難しく書いてありますが、つまり相続人に請求できるのは主に下記の費用です。
- 原状回復費用のうち、遺体を原因とした部屋の損傷修復にかかった部分
- 入居者が亡くなってしまってから賃貸借契約解約までの家賃
- 残置物の処分・配送費用
原状回復は一般的な退去時にも行うので、あくまで入居者の遺体が原因で発生した損傷の修復費用のみを請求できます。詳細な線引きは難しいので、特殊清掃業者の明細などをもとに相続人と協議しましょう。また、下記のような損害賠償を請求できるケースもあります。
- 事故物件化により得られなくなった家賃収入
- 家賃収入の減額分(本来の家賃との差額)
なお過去の裁判所の判例によると、損害賠償を請求できる期間は入居者が亡くなってしまってから最大で3年までです。損害賠償を請求できるかはケースにより異なるので、一度不動産や相続に強い弁護士に相談しましょう。
【ケース別】投資用物件で入居者が亡くなってしまったら?対策と注意点
実際に投資用物件で入居者が亡くなってしまった場合の対策や注意点をケース別に解説します。読み流してある程度要点を押さえておくのはもちろん、実際に入居者が亡くなってしまった場合には読み返して参考にしてください。
ケース①:孤独死・自然死
死因が孤独死・自然死で、遺体の腐敗などが起きていなければ、入居者へ告知する義務はありません。ただし告知をせずとも、あまりに大きな騒ぎになってしまうと、まったく新しい入居者が集まらないという事態になりかねないため注意が必要です。できる限り早急かつ穏便に対処し、焦らず相続人と冷静な交渉を行ってください。
また特殊清掃は大きな噂やトラブルになるのを避けるため、事情を考慮して繊細な対応をしてくれる業者に依頼するのがおすすめです。「守秘義務厳守」「普段着対応」のような業者が良いでしょう。
ケース②:自殺・事故
自殺・事故の場合には次の入居者に対して、部屋内で人が亡くなってしまったという告知が必要です。告知の期間は「3年」と定められていますが、入居者が亡くなってしまってから初回の契約者に限ります。2回目以降、つまり「次の次の入居者」に対しては告知の必要はありません。
また相続人に対して、原状回復費用や事故物件化で減った家賃収入をおよそ3年分まで請求できます。ただし具体的なケースごとに請求額は異なるので、相続人との協議で解決しない場合は弁護士に相談しましょう。なお相続放棄された場合でも、連帯保証人がいれば同様の請求ができます。
賃貸については先述のとおり告知期間が3年間と定められていますが、売買については無期限で告知が必要です。告知を隠すと民法566条により「契約不適合責任」を追及され、契約の解除や売買金額の減額、損害賠償請求などのトラブルになります。ほとんどのケースで相場よりも売買金額は下がってしまいますが、告知は必ず行いましょう。
ケース③:殺人
殺人の場合も、自殺・事故の場合と同様に次の入居者に対して告知が必要です。原状回復費用や事故物件化で減った家賃収入についても、自殺・事故の場合と同様に相続人へ請求できます。また、売買の際の告知義務も同様に無期限です。殺人の場合は自殺・事故よりも次の入居者が集まりづらいため、基本的には大幅に家賃を下げて対策するほかないでしょう。
もし所有しているのが一棟マンション・アパートの場合は、殺人があった部屋以外の入居者も退去してしまい、しばらく新しい入居者が見つからないケースもあります。その場合は、下記のような対策の検討が必要です。
- 外壁の塗り替え
- 全面的なリフォーム
- 物件名の変更
「もともとの物件のイメージがなくなる」ほど、全面的なリフォームや外壁の塗り替えを行いましょう。物件名もまったく違うものに変えるのがポイントです。ただし大きな費用をかけて対策しても新しい入居者が集まらなければ、早期の売却を検討したほうが良い場合もあります。
まとめ
投資用物件で入居者が亡くなってしまっても賃貸借契約は継続されるので、基本的には相続人とやり取りする必要があります。まずは相続人の主導で原状回復や残置物の処分を行ってもらいましょう。賃貸借契約の解約や滞納家賃についても相続人とやり取りしてください。原状回復費用などの金銭関係についてはトラブルが起こりやすいので「できれば協力をお願いしたい」と下手に出て交渉するのが大切です。
また死因によって、その後とるべき対策が変わってきます。告知が不要な孤独死・自然死の場合は、周囲に部屋内で亡くなってしまったという情報が漏れないよう対策が重要。自殺・事故の場合は家賃を下げるのが一般的です。殺人の場合は大幅に家賃を下げ、それでもダメなら大幅なリフォームや早期の売却などを検討しましょう。
万が一の死亡があった場合の流れや対策を押さえておくのも重要ですが、そもそも入居者の死亡リスクの低い物件を選ぶのも大切です。当社ではさまざまなデータからリスクの低い物件をご紹介できるので、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
この記事の執筆: 及川颯
プロフィール:不動産・副業・IT・買取など、幅広いジャンルを得意とする専業Webライター。大谷翔平と同じ岩手県奥州市出身。累計900本以上の執筆実績を誇り、大手クラウドソーシングサイトでは契約金額で個人ライターTOPを記録するなど、著しい活躍を見せる大人気ライター。元IT企業の営業マンという経歴から来るユーザー目線の執筆力と、綿密なリサーチ力に定評がある。保有資格はMOS Specialist、ビジネス英語検定など。
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