未来の鉄道革命!新幹線の自動運転化がもたらす不動産投資への波及効果
- 更新:
- 2023/06/19
2023年5月に、「JR東日本と西日本が新幹線の自動運転における技術協力の覚書を締結した」というプレスリリースが発表されました。
これまでも、JR東日本は「都市を快適に」「地方を豊かに」、JR西日本は「人と技術の最適な融合」を経営ビジョンの一環として掲げ、それに基づき両社はそれぞれ自動運転に向けて実証実験と技術開発を行ってきました。
鉄道各社にとって、新幹線の自動運転化は「夢」ではなく、「将来発生するであろう問題を解消するための必要かつ重要な課題」です。そのため、今回の技術協力も早期実現化のための手段のひとつでもあるでしょう。
本記事では新幹線の自動運転化の仕組みや実現までの課題、自動運転化によってどのようなメリットがあるのか、そして不動産投資に見込まれる影響などについて解説します。
新幹線の自動運転化とは?
「新幹線って、元々自動運転されているのでは?」と思う方もいるかもしれません。
まずはJR東日本・西日本を始めとする鉄道各社が目指す「自動運転」とはどのようなものなのか、その時期や自動運転開発の背景について見ていきましょう。
自動運転化はいつから?
上の図は新幹線も含めた、鉄道の自動運転の段階を示した表です。GoA(Grade of Automation)+ 0 〜 4の6段階で示され、GoA0が完全手動運転、GoA4が完全無人の自動運転になります。
今回両社が目指す「自動運転」は、営業車はGoA3(運転士以外の乗務員がいる自動運転)、回送列車はGoA4(完全無人運転)です。
現在、ポートライナー(神戸新交通)と東京臨海線ゆりかもめなどはGoA4の運行を、東京ディズニーリゾートを走る舞浜リゾートラインはGoA3の運行を行っています。
しかし現在の新幹線は、指定速度をオーバーした場合の自動減速などは行われていますが、運転士が加速減速や到着時間の調整を行って運転しています。
それでは新幹線の自動運転はいつ頃開始されるのでしょうか?
上の図の通り新幹線の自動運転に対する具体的な実現時期は未定ですが、JR東西は営業車のGoA3、つまり運転士以外の乗務員がいる自動運転について「2030年代」の実現を目指すとしています。
また、新幹線の自動運転化に向けた動きはJR東西だけではありません。JR東海では、「GoA2」レベルの実用化の目標を2028年と定めています。
なぜ新幹線の自動運転化が進められるのか
新幹線の自動運転化が進められている理由は、「少子高齢化による将来的な人員確保の困難」と「鉄道需要の低下」です。
国土交通省の「鉄道における自動運転技術検討会のとりまとめ」の中でも、「運転士や保守作業員等の確保、養成が困難となっており、特に地方鉄道においては、係員不足が深刻な問題」と述べられています。
それに加えて、JR西日本は「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」の配布資料の中で、「コロナ禍により、社会の行動変容が急激に進む中で、鉄道全体の利用は元に戻らないと想定」とまとめています。
そのような状況下で、一般乗務員と比較して育成に時間とコストがかかる運転士を今後確保するのは難しくなることが予想されます。
運転士となりえる世代だけでなく新幹線の利用者数も減少していく将来、重要なインフラである新幹線を始めとする鉄道の運行を維持するためには、運転業務の効率化・省力化が必要です。そのため運転士の確保とコスト削減、両方の課題を解決できる自動運転の導入が求められています。
自動運転システムの仕組みと技術
自動運転システムに欠かせないのが、列車の運転を自動化する「ATO」・列車の制御と安全性確保を行う「ATC」・5Gなどの大容量低遅延な通信技術の3つです。
ATOとは?
ATOはAutomatic Train Operationの略、つまり列車自動「運転」装置です。
日本民営鉄道協会によると、ATOは「運転士はスタートを指示するボタンを押すだけで、その後は列車の力行(りっこう = 加速走行すること)や、惰行(だこう = モーターの電気を切ってそれまでの勢いで走ること)、制動操作、定点停止などを自動的に行う装置」のことです。
ATOはATC信号の受信や線路内に設置されている地上子とのやりとりで列車の位置・速度・信号情報などを把握し、制限速度を超えないように走行する、列車の自動運転を可能にするシステムです。
2021年に行われたJR東日本の実証実験では、「遠隔発車」「自動的な列車の加速・減速」「自動で決められた位置に停車」「緊急時における遠隔での列車停止」の4点について試験を行っており、得た結果から新幹線の自動運転を目指した ATO の開発を進めていくとしています。
ATCとは?
ATOに必要な指示を与え、制御を行うのがATCです。ATCはAutomatic Train Contorolの略、つまり列車自動「制御」装置です。
日本民営鉄道協会によると、ATCは「信号の現示に対応した信号電流をレールに流し、列車の車上装置が連続的にこれを受けることで走行速度は信号が示す制限速度以下であるかどうかをチェックし、速度が超過の場合は自動的にブレーキを作動させて制限速度以下に抑える装置」です。
運転室内の信号機にあたる設備に、ATCによって走行できる速度が常に表示されます。この表示により、霧や雨といった視界の悪い状況でも安全に列車を運行できます。
通信技術との連携による運行管理
遠隔操作による新幹線の無人運転を行うために、更なる進化が求められるのが通信技術です。
指令所と新幹線との間では、以下のようなリアルタイムなデータのやり取りに通信技術が活用されており、列車の自動運転における安全性・効率性・利便性を保っています。
- 制御に必要な列車同士の距離や速度
- 乗客の利便性向上のための運行管理や遅延情報
- 車両の状態や異常を迅速に把握するための車両監視・保守管理
完全に指令所からのコントロールによって行われる自動運転では特に、車両を遠隔制御する加減速や停止などの迅速な信号発信と、車両前方の高精細画像を受信するために大容量低遅延な通信が必要となります。
そのために期待されているのが5G通信であり、実際にJR東日本での実証実験ではローカル5Gを使用した活用の可能性が検証されました。
新幹線の自動運転化によるメリット
新幹線の自動運転化への流れは、将来的な運転士不足に備え鉄道事業の安定を維持するという必要に迫られた事情ではありますが、もちろん他のメリットも期待されています。
メリット①:運行コストの削減
自動運転システムの導入により、鉄道会社は運転士の募集・育成にかかるコストが削減できます。
運行コストの削減は鉄道各社の経営安定や運行本数の維持だけでなく、乗客にもメリットがあります。JR西日本は新幹線の自動運転化実現に関するプレスリリースの中で、「新幹線に自動運転を導入することにより、新しい技術と人が協調し、人はその強みを発揮できる仕事に集中することで、安全性と輸送品質の向上をめざす」としています。
限られた人的リソースを保守や車内などのセキュリティ、車内サービスといった業務に振り分けることで、鉄道会社の効率的な運営やサービス向上と乗客の満足度向上の両立が実現できます。
メリット②:運行効率の向上と省エネ化
JR東日本は、プレスリリースの中で、山手線での「省エネ運転」研究について触れています。具体的には、加速時間を短くし、惰行(列車が動力による加速力やブレーキ力がなく、慣性によって走行をしている状態)の時間を長く、そして減速時間を短くすることで省エネにつながる運転方法です。
運転士の成熟度によらない最適な効率の運転が可能になり、省エネにもなる上に定時性や遅延の少なさが確保されるメリットもあります。
新幹線でも自動運転により効率的な運行や燃費の最適化が可能となれば、エネルギーの節約や二酸化炭素の排出削減など、環境に対する負荷の軽減効果もあります。
メリット③:安全性の向上
自動運転システムの導入で、操作ミスや判断ミスによる人的リスクがなくなります。
また、完全自動運転が実現するためには、現在よりもさらに高度な制御システムや監視システムの構築が必要です。そのため、実現する頃には、現在より異常や危険な状況を早期に検知した迅速な対応が可能になるでしょう。
運転士や車掌に充てていた分の人員を保守や車内セキュリティ強化に割ける点もメリットです。昨今鉄道内でのトラブルや事件も耳にするようになっており、運転だけでなく車内の安全性が向上する可能性は大きなメリットではないでしょうか。
新幹線の自動運転化にともなう課題
基本的な自動運転の仕組み自体は完成されており、あとは新幹線でも実際の運用に足るか検討と実証を重ねる段階といえるでしょう。
しかしほかにも検討課題があります。国土交通省が鉄道における自動運転技術検討会のとりまとめのなかで挙げているうち、新幹線にGoA3・GoA4を導入する際の課題について解説します。
課題①:システム上の課題
自動運転において主なシステム上の課題となるのが、線路上への立ち入り防止や落石・倒木といった障害物の回避です。現在GoA4運行であるポートライナーやゆりかもめ、GoA3運行である舞浜リゾートラインが自動運転化されているのは、線路が完全独立していて「人の立ち入り」が基本的に不可能だからともいえます。
この対応策の一つとして考えられているのが、ホーム上からの立ち入りや障害物を防ぐ、スクリーンタイプのスライド式ホームドアです。
課題②:非常時の対応に関する課題
ほかにも、運転士が不在ということで最も心配なのが、脱線・衝突・車内火災などの非常時・異常時における安全性や運転・避難への対応でしょう。
これらの課題への対応として、ATC・ATOの精度向上のほか、以下のようなシステムの導入が検討されています。
- 指令と客室間の通話機能
- 客室内の監視機能
- 車内の火災検知機能(煙検知、熱検知、赤外線等)
- 車内の非常停止装置
- 衝撃検知・吸収構造
- 支障物排除機能
また非常時に手動運転のみが可能である場合、運転士を派遣し次駅まで運転して乗客避難を行う対応が想定されています。
課題③:社会の受容性に対する課題
残る課題は、我々乗客側の問題です。時速300㎞にもなる新幹線で「運転士が不在」というと、どうしても不安や抵抗感があるのではないでしょうか。
しかしすでにゆりかもめのように無人運転している電車もあるほか、山手線が自動運転を初めているように、自動運転は少しづつ我々の生活に入り込んでいます。
また、現状新幹線の場合営業車はGoA3想定のため、運転士ではなくても乗務員が有事の際には対応できると考えられます。
新幹線の自動運転化によって見込まれる不動産投資への影響
新幹線の自動運転化によって、将来的に都市と地方のあり方と、それに伴い不動産市場の需要が変化する可能性があります。
影響①:交通アクセスの向上による地価変動
まず考えられるのが、交通アクセスの向上による不動産需要が高いエリアの変化です。
自動運転化によって運転効率が上がれば、本数の増加あるいは所要時間短縮により、出張や旅行の利便性が向上するでしょう。
交通の利便性は、その地域の魅力や需要を高める重要な要素です。そのため、現在あまり開発が進んでいない新幹線停車駅周辺エリアに新たな住居の需要が増え、都市部の新幹線停車駅周辺エリアの地価が上昇する可能性があります。
影響②:地方活性化による賃貸需要の増加
もう一つ考えられるのが、地方活性化に伴う賃貸需要の増加です。
自動運転により新幹線の交通アクセスが向上することで魅力のあるエリアができ、新たな不動産投資の機会が生まれる可能性があります。例えば、新幹線駅周辺に物流拠点ができたり、地方の観光地や温泉地などの観光施設や宿泊施設の需要が高まる結果、雇用が生まれ賃貸需要も増えるかもしれません。
自動運転による新幹線の進化は地域の活性化につながる可能性があります。その結果、都市部への一極集中化が緩和され、都心の郊外より地方のターミナル都市の方が地価が上がる可能性も出てきます。
まとめ
今回のJR東日本・西日本両社の技術協力により、相互直通運用を行う北陸新幹線における、自動運転の実現が一気に近付くことが期待されます。
来たる少子高齢化とそれに伴うインフラ維持という課題に対応するため、現在自動運転化は電車だけでなく自動車や航空分野でも進んでいます。
これからはますます、「人でなければできないものを人が、それ以外は技術の力で動かす社会」となっていくでしょう。
そして将来的には、総合的な自動交通ネットワークの構築で今よりももっと快適でシームレスな移動ができるようになるでしょう。JR東日本がめざすような「快適な都市と豊かな地方」が実現し、新たな不動産投資のチャンスが広がることが期待されます。
この記事の執筆: ひらかわまつり
プロフィール:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士資格を有するママさんライター。親族が保有するマンションの管理業務経験を有するなど、理論・実務の両面から不動産分野に高い知見を持つ。また、自身でも日本株・米国株や積立NISAなどを行っていることから、副業や投資系ジャンルの執筆も得意としている。解像度の高い分析力と温かみのある読みやすい文章に定評がある。不動産関連資格以外にも、FP2級、日商簿記検定2級、建築CAD検定3級、TOEIC815点、MOSエキスパートなど多くの専門資格を持つ。
ブログ等:ひらかわまつり