土地区画整理事業をわかりやすく解説!事業の効果や事例、不動産投資への影響まで
- 更新:
- 2023/06/19

土地区画整理事業とは、古くからの街を整備して、「碁盤の目」のように整理された街を作ることです。事業により地域が活性化したり、防災性が向上したりと、さまざまな効果が見込めます。
ただし土地区画整理事業の対象となった土地には、制限等がかかるので注意が必要です。そのため所有している土地が対象区域となった場合には、取引や投資活動に影響を及ぼします。この記事では土地区画整理事業の基本から具体的な効果や事例、不動産取引への影響をわかりやすく詳細に解説するので、ぜひ最後まで目を通してみてください。
土地区画整理事業とは
土地区画整理事業とは、狭く複雑な道路が組み合わさり、入り組んでしまった古くからの街を整備することです。道路を広げ、宅地や公共施設を整然とした配置にすることで、まるで「碁盤の目」のようなイメージの街を作ります。一般に土地区画整理事業は都道府県や市町村、国土交通大臣などの官公庁が主体となって施行しますが、手順を踏めば個人・組合等での施工も可能です。
主な土地区画整理事業の目的は「公共施設の整備」と「宅地の利用増進」となっています。上記の小樽市の例を見ると、下記の3つのことが分かるでしょう。
- Aさん~Fさんの宅地がすべて長方形になった
- 道路が広くまっすぐになり、図の下方向に出入りしやすくなった
- 空いたスペースに「公園」と「保留地」が生まれた
A~Fさんの持つ宅地がすべて長方形になったので、境界線がハッキリします。道路が拡張され、今まで行けなかった図の下方向にも通行できるようになりました。また、事業によって余った「保留地」は、施行者が直接購入希望者に販売し、新たな所有者により宅地等として活用されます。これが「宅地の利用増進」の構図です。(ただし、就業人口の増加などを目的として新たな商業施設等を誘致する場合もあります。)また余ったスペースに公園を設置したのが「公共施設の整備」に該当します。
道路の拡張・公園の設置・保留地の発生によりA~Fさんの宅地の面積が減っていますが、事業により土地価格が向上するため、基本的に補償金などはありません。ただし公共施設に使う面積が非常に大きく、宅地が極端に狭まる場合には、差額相当を含んだ金額で宅地を買収してから事業をスタートするのが一般的です。そのため、土地区画整理事業により金銭的・資産的な損をすることは基本的にありません。
土地区画整理事業によって期待できる効果
土地区画整理事業によって、下記5つの効果が期待できます。
- 地域の活性化
- 防災性の向上
- 就業人口増加
- 地域の拠点の創造
- 既存コミュニティを維持した住みよい街の整備
それぞれ詳しく見ていきましょう。
地域の活性化
土地区画整理事業の効果のひとつは、地域の活性化です。特に空き店舗・空地が増えてしまった地方都市において、事業の効果が大きく表れます。具体的には下記のようなことを行います。
- 残っている店舗を幹線道路沿いに集約する
- 空いたスペースに共同住宅を建設して新たに人を呼び込む
- 残りのスペースに駐車場や新たな公共施設などを設置する
引用国土交通省
上記のことを行うと、廃れた商店街のようなイメージはなくなり、人が増え、外からも人が集まるようになります。福祉施設などを設置し、高齢者やその家族も住みやすい街として再開発されるケースが多いです。事業完了後は新たな地方の拠点としての役割を果たすでしょう。
防災性の向上
防災性向上の効果を見込み、土地区画整理事業を行うケースもあります。古くからの街は道路が狭いにもかかわらず、木造のアパートや一戸建て住宅が乱立しがちです。
こうした区域ではひとたび火事が起きれば、延焼して地域一帯が焼け野原となってしまうリスクがあります。また地震により住居の倒壊が発生し、隣接する建物をドミノのように破壊してしまう恐れがあるでしょう。そのため、下記のことを行って防災性を高めます。
- 住宅の間に公園を設置したり道路を広げたりする
- 老朽化した建物から優先して耐震・耐火性の高い建物に建て替える
引用国土交通省
あらゆる方法で住宅同士の隙間を作り、延焼やドミノのような倒壊を防ぎます。また老朽化した建物から優先的に防災性の高いものに切り替え、無駄なく防災対策を行うのがポイント。ただし建物の大規模な建て替えは行政だけでは実現できない場合があるため、地権者(アパートやマンションなどを持っている人や組合)の建て替えタイミングに合わせて施行し、スムーズな事業推進を図るケースが多いです。
就業人口の増加
土地区画整理事業で街を作り直すことで、就業人口増加の効果が見込めます。古い街には、使っていない土地や、誰も使わない建物が建っているだけの土地が発生しがちです。また集合住宅でも支障がないのに、アパート・貸家を借りて住んでいる人もいるでしょう。下記のことを行って無駄なスペースを排除しつつ、商業施設・公共施設など雇用の促進が見込まれる建物を設置します。
- 戸建希望者の土地・建物を1か所に集約する
- 集合住宅でも良い人がまとめて住めるマンションを建てる
- 道路の間隔を広くし、数を減らす
- 空いたスペースに商業施設や公共施設を設置する
引用国土交通省
土地を有効活用してデッドスペースを無くしつつ、居住者の数は減らしません。それどころか、新築したマンションの空室には居住者増加が見込めます。そして商業施設や公共施設の設置により、雇用が確保された住みやすい街を形成できるでしょう。
地域の拠点の創造
大規模な土地区画整理事業を行って、地域の新たな拠点創造の効果を得るケースもあります。このケースでは下記のような、面積が大きく活用されていない土地を活用します。
- 廃駅と使われなくなった線路
- 臨海部の工場跡地
使われないものの、なかなか活用の余地がなく放置されているスペースを活用するのがポイントです。ただし現存している駅を残したまま、周辺地域と駅をまとめて再開発したケースもあります。「無駄」になってしまっていた土地に住宅・大型商業施設・公共施設などを幅広く設置することで、地域の拠点としての役割を果たしてくれるでしょう。
既存コミュニティを維持した住みよい街の整備
既存のコミュニティを維持したまま、住みよい街の整備を行うために土地区画整理事業を行うケースもあります。狭い空間に無秩序に立ち並んだ戸建・集合住宅とその周辺道路を整備し、公共施設や商業施設を設置し住みやすい街を形成します。
このケースで着目すべきは、「用地買収」という整理方法との違いです。用地買収はすでに個人や法人が所有する土地・建物を買収し、区画の整備や新たな公共事業を行います。この際、所有者に対して立ち退きを要求せざるを得ないため、既存のコミュニティを破壊しかねません。
その点土地区画整理事業では、それぞれが事業を行う区域内に土地を再取得し、従来通りに住宅などを建てられるので、既存のコミュニティの維持が可能です。一般に区域内のどこかに居住エリアを集中させるので、さらなる地域のコミュニティ活性化にも期待できるでしょう。
全国の土地区画整理事業の事例
実際に全国で土地区画整理事業が行われた事例をいくつか紹介します。
大阪府大阪市:うめきた地区
最近もっとも有名な土地区画整理事業の事例は、大阪府大阪市の梅田駅西側にある「うめきた地区」の再開発事業でしょう。2005年からスタートし、完了予定は2027年と非常に長期にわたって行われています。この事業では、下記のように最終的な宅地・公共用地の割合が大幅に転換する予定です。
時期 | 宅地 | 公共用地 |
---|---|---|
事業前 | 85.3%(164,643㎡) | 13.8%(26,759㎡) |
事業後 | 42.1%(81,311㎡) | 52.4%(101,251㎡) |
事業前は宅地が大部分を占めていましたが、事業後は半分以下となるように再編。大型商業ビルや大きな公園などを整備し、関西の発展を牽引する拠点の形成を目的としています。事業は1期・2期と分かれており、2013年に1期はすべて完了しました。2024年の一部区域先行街びらきと、2027年の全体街びらきへ期待が高まっています。
埼玉県さいたま市:北袋町一丁目地区(さいたま新都心公園)
もうひとつ、埼玉県さいたま市の「北袋町一丁目地区」における土地区画整理事業の事例を紹介します。この事例は「さいたま新都心公園」という大型の公園を設置したことで有名です。具体的には、下記3つの課題を解決する目的で行われました。
- 大宮駅周辺に交通ターミナルが集中しすぎていた
- 地区内にオープンスペースがなく、防災性が低かった
- 東側に公園がほとんどなかった
南北に通ずる道路の整備により、交通機能を分散。さいたま新都心公園の設置により、防災性の低さと公園がない問題を解決しました。同時に商業・工業用地域も確保し、地域の活性化や就業人口の増加も実現しています。
土地区画整理事業は不動産取引にも影響する!持っている土地が対象になったら?
土地区画整理事業は、不動産取引にも影響します。とりわけ影響しやすいのが「持っている土地が土地区画整理事業の対象区域になった」ケースです。詳しく解説します。
持っている土地への影響
持っている土地が土地区画整理事業の対象区域になった場合、下記3つの影響が想定されます。
- 建物を新築・増築・改築できない
- 土地の位置・面積が変わる
- 事業完了後の使途に制限がかかる
それぞれ見ていきましょう。
建物を新築・増築・改築できない
土地区画整理事業の対象区域になった土地は、新築・増築・改築などの建築行為が総じて制限されます。建てたばかりの建物を事業によりすぐに取り壊し、移転することによる損失を防ぐための目的です。
とはいえこれは不当な制限ではなく、あくまで所有者が何も知らずに建築行為を行い、損失を発生させてしまうのを防止する目的だと覚えておきましょう。ただし事業が長期にわたり取り壊しが数年先になる場合などは、市区町村の許可を得れば建築行為ができます。
土地の位置・面積が変わる
土地区画整理事業の完了後は、土地の位置や面積が変わります。所有している土地は、区域内の他の宅地と同じ区画に集約され、面積は縮小してしまうのが一般的です。なお、事業前と事業後の面積の差を「減歩」といいます。
とはいえ土地の位置が変わるのは一般的にデメリットではなく、利便性を高める効果を発揮します。また面積は減るものの、土地の利用価値が上がった分地価が向上するので問題はありません。万が一同価相当となる土地を確保できなかった場合には、差額分の清算金が交付されるので、トータルで損をする可能性もないでしょう。
事業完了後の使途に制限がかかる
土地区画整理事業の対象区域には建築制限がなされると解説しましたが、事業完了後の使途にも制限がかかるケースがあります。主な土地区画整理事業の目的が「公共施設の整備」と「宅地の利用増進」であるため、目的に反する利用は制限されてしまうのです。
とはいえ不動産投資が目的の場合は、マンション・アパートなど「宅地」の用途を目的として購入しているケースがほとんどでしょう。そのため駐車場へ投資するなど一部の場合を除き、不動産投資において制限の影響を受けるケースは滅多にありません。
「仮換地」になったタイミングか事業完了後に売るのがおすすめ
土地区画整理事業の対象区域になった土地を手放したい場合は「仮換地」になったタイミングか、事業が完了したタイミングに売るのがおすすめです。仮換地とは、土地区画整理事業における移転先の土地を指します。
特に土地区画整理事業の対象になってから事業が開始するまでの間は、所有している土地がどこに移転するのか、価値がどう変わるのか分かりません。そのため「安く買って、仮換地や事業完了後のタイミングですぐに高額転売したい」と考える別の投資家に買い叩かれる可能性があり、売却活動をするのはリスキーです。
仮換地となったタイミング以降なら土地の価値を正確に判断でき、相場に見合った価格設定ができます。万が一清算金が発生する場合にはその金額も考慮した売却活動が可能でしょう。ただし仮換地状態の土地は高く売れる可能性がある代わりに、手続きが若干煩雑となります。面倒な手続きを避けたい場合は、事業完了後に売るのがベターでしょう。
まとめ
土地区画整理事業とは、狭く複雑な道路が組み合わさり、入り組んでしまった古くからの街を整備すること。碁盤の目のようなイメージの街を作り、地域の活性化や防災性の向上、就業人口増加などの効果をもたらします。「用地買収」の整理方法とは違い、既存コミュニティの維持も可能です。
持っている土地が土地区画整理事業の対象となった場合、建物の新築・増築・改築などの建築行為が総じて制限され、土地の位置や面積が変動します。また事業完了後の使い方が「宅地」に制限されますが、この点は駐車場などに投資している一部の場合を除き、不動産投資にはほとんど影響しません。
土地区画整理事業の対象となった土地を手放したい場合は「仮換地」になったタイミングか、事業が完了したタイミングに売るのがおすすめ。仮換地になったタイミングがもっとも高く売れる可能性がありますが、手続きが煩雑になるデメリットもあります。当社は土地区画整理事業についても知見がございますので、お悩みの際はぜひ一度ご相談ください。

この記事の執筆: 及川颯
プロフィール:不動産・副業・IT・買取など、幅広いジャンルを得意とする専業Webライター。大谷翔平と同じ岩手県奥州市出身。累計900本以上の執筆実績を誇り、大手クラウドソーシングサイトでは契約金額で個人ライターTOPを記録するなど、著しい活躍を見せる大人気ライター。元IT企業の営業マンという経歴から来るユーザー目線の執筆力と、綿密なリサーチ力に定評がある。保有資格はMOS Specialist、ビジネス英語検定など。
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