日銀のイールドカーブコントロール(YCC)とは?その目的や不動産投資への影響を解説します!
- 更新:
- 2023/06/19
2023年4月25日、日本銀行の植田和夫総裁より「イールドカーブコントロール」による金融緩和は、継続することが適当である旨の発言がありました。イールドカーブコントロール(YCC)とは、日銀による国債買い入れにより、日銀が求める金利水準を人為的に保つ金融緩和政策です。2016年から今日まで、ゼロ金利の保持のために使われています。
本来は、金利が低いと借入がしやすくなることから、市場に貨幣が流通し景気や物価が上昇します。現在は、物価が上昇する一方で景気の上昇はそれほど見込めていません。
本記事では、イールドカーブコントロール(YCC)とは何か、なぜ日銀はYCCを導入したかについて解説します。さらに、YCCの問題点や不動産投資に与える影響もわかりやすく解説。YCCの狙いや目的、不動産投資へ与える影響を知りたい方は、ぜひ最後までご一読ください。
- 目次
- イールドカーブコントロール(YCC)とは
- YCCを導入した3つの目的
- YCCの具体的手法
- YCCの問題点
- YCCはどうなる?今後の見通し
- イールドカーブコントロール(YCC)による不動産投資への影響
- まとめ
イールドカーブコントロール(YCC)とは
イールドカーブコントロールとは、金利の上昇を抑えるための政策です。頭文字を取って「YCC」とも呼ばれています。
YCCは、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が1942年 〜 1951年に実施して以来の施策です。日本では「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の一環として、2016年9月21日より導入されました。
日本におけるYCCでは、日銀の買入により市場の国債数を調整し、市場の国債供給量を減らしていきます。供給量を減らすことで、0%を基準とする金利水準を保つ仕組みです。
2022年12月、YCCによる長期金利の変動幅が±0.25%から±0.5%までへと拡大されました。2023年6月現在も、長期金利は0%を基準に±0.5%までとなるよう調整されています。
YCCを導入した3つの目的
日銀は、なぜYCCを導入して金利の調整を行うことにしたのでしょうか。YCCを導入した目的は、主に以下の3点です。
- 貨幣流通量の増加
- 適正なイールドカーブの形成
- 物価と賃金双方の安定的上昇
それぞれ詳しく解説します。
目的①:貨幣流通量の増加による経済活動の活性化
国債の金利が下がると、企業や消費者が借入する際の利率も下がります。借入の利率が下がると、借入額が増加します。借入額の増加により、日本全体の貨幣量も増加。増加した貨幣を市場に流通させて景気回復を図ることが、YCCの目的です。
国債の金利は、借入利率だけでなく預貯金の預入利率とも連動しています。国債の金利が下がることにより、預入利率も下落。そうなると、金融機関への預入を控え、手持ちの貨幣を使う傾向へと経済は動きます。
長期金利を一定の低い利率に抑えることで市場の貨幣量を増やし、経済活動を活性化させる。これが、YCCの主要な目的です。
目的②:適正なイールドカーブの形成
イールドカーブとは、債券の金利と償還までの期間の関係が示されたグラフ上の曲線です。YCCが適正に働くと、イールドカーブは下記グラフのような右肩上がりのなめらかな曲線となります。
2019年1月、日銀の一部当座預金に対し、-0.1%の金利とする「マイナス金利政策」が導入されました。日銀の当座預金を利用すると、残高に対し0.1%分の手数料を徴収する政策です。マイナス金利政策により、企業は当座預金を避け、長期国債を購入するようになりました。国債は、購入額が増えると利回りが低下します。利回りの低下により、償還期限が長いほど右肩上がりになるイールドカーブも、フラット化してしまいます。
利回りの低下により、長期国債の運用益は減少。長期国債の運用益を利用する金融機関や保険会社は、顧客へ渡す利息を減らします。利息が減ることで、金融・保険商品の買い控えが発生。利回りの低下によるイールドカーブのフラット化は、市場に流通する貨幣数の減少を招く一因となってしまったのです。
日銀は、YCCを導入しイールドカーブの形状を戻そうと試みます。「マイナス金利政策」とYCCの併用で右肩上がりのイールドカーブを作り、国債の利率を保ちつつ貨幣の流通量を増加させることが狙いです。
目的③:物価と賃金双方の安定的上昇
日銀は、年間で2%物価上昇しつつ賃金も上昇する経済状態を目標として「量的・質的金融緩和」を実施しています。
現在の物価上昇は、円安や人材不足など外的要因によるものです。そのため、賃金は上昇せず、物価のみが上昇しています。この状態を打破し、物価・賃金ともに上昇する状態を作る政策のひとつがYCCなのです。
YCCの具体的手法
イールドカーブコントロール(YCC)では、日銀による買い入れで市場に出回る長期国債の数を調整し、長期金利を一定に保ちます。ここからは、YCCの具体的方法となる、日銀による長期国債買入について詳しく解説します。
買入方法
YCCによる長期国債の買入方法は、次の3種類です。
買入方法 | 内容 |
---|---|
買いオペ | 通常の国債買い入れ |
臨時買いオペ | 臨時の国債買い入れ |
指値オペ | 利回りを指定し、合意した金融機関から無制限に国債を買い入れ |
YCCでは、長期国債の他、ETF(上場投資信託)やJ-REIT(不動産投資信託)の買い入れも行います。
買入量
日銀の発表によると、長期国債の買入は「10年国債の金利が、現状程度で推移していく程度」とされています。具体的には、日銀の国債保有残高が年間約80兆円増加するよう買入れを実施。買入対象は「幅広い銘柄」とし、銘柄を指定せずに買入が行われています。
参考日本銀行「金融緩和強化のための新しい枠組み:「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」」
買入期間
日銀は、物価上昇率が2%を維持するまでYCCを継続する方向です。そのため、YCCによる買入の継続期間は、特に決まっていません。
物価上昇率は、生鮮食品を除いた消費者物価指数を基準にしています。生鮮食品を除いた消費者物価指数の上昇率が安定的に2%を超えるまで、YCCは継続されるでしょう。
YCCの問題点
イールドカーブコントロール(YCC)は、日銀が国債を買い入れることで低金利を保つ金融緩和政策です。人為的な金利の操作により現在浮上している問題点は、次の2点です。
- 金利の歪み
- 本来の狙いが達成できていない
問題点①:金利の歪み
本来、金利は市場での取引によって決まるものです。しかし、YCCにより人為的に金利を決めることで、金利の歪みが発生しています。
適正なイールドカーブを描いていた場合、償還期限が長くなるほど金利は上昇します。YCCによる長期国債買入の結果、10年国債の金利が下落。本来は10年国債を下回る9年国債の方が高金利となる金利の歪みも生じました。
下記のグラフは、財務省が発表している直近12ヵ月の9年国債と10年国債の金利推移です。9年国債が10年国債の金利を上回った月があることが、お分かりいただけるでしょう。
YCCにより適正に金利を保つはずが、長期国債が短期国債の金利を下回る歪みが生じてしまうことが、YCCの問題点と言えます。
問題点②:本来の狙いが達成できていない
日銀は「物価が安定して上昇していない」「賃金の上昇を伴っていない」として、YCCにより金利上昇を抑えています。本来ならば、金利を下げると市場へ貨幣が流通し経済が活性化します。しかし、今日の経済活動は、低金利でありながらそれほど活性化していないと言えるでしょう。
経済が活性化しないと、物価や賃金の上昇は見込めません。本来見込んでいた、市場への貨幣流通による経済の活性化が達成できていない点も、YCCの問題点と言えるでしょう。
YCCはどうなる?今後の見通し
大きな問題が浮上しているイールドカーブコントロール(YCC)は、今後どうなっていくのでしょうか。植田総裁の発言に沿って、今後の見通しを解説します。
YCCは当面継続
YCCは、黒田東彦前総裁時代に導入された施策です。植田現総裁は、4月25日に出席した衆議院の財務金融委員会で「イールドカーブコントロールを利用して金融緩和を続けることが適当だという認識を示しました。さらに、5月19日の内外情勢調査会でも「イールドカーブ・コントロールのもとで、大規模な金融緩和を継続していく方針」と述べ、随所でYCCを継続する意向を示しています。
参考日本銀行「【講演】金融政策の基本的な考え方と経済・物価情勢の今後の展望 内外情勢調査会における講演」
物価上昇率と賃金上昇によるYCC見直しの可能性
金融緩和政策は、1年から1年半のスパンで見直しが行われています。前回の見直しは、2022年12月でした。次の見直しは2023年12月 〜 2024年6月となる見込みです。
植田総裁は、物価上昇率は「持続的・安定的2%の達成にはまだ届いていない」としている一方で、物価上昇率の上昇は認めています。見直し時点で物価上昇率が上がっている場合は、YCCの緩和が検討されるかもしれません。
2023年6月7日、第8回経済財政諮問会議にて「骨太の方針」こと「経済財政運営と改革の基本方針 2023(仮称)」の原案が公表されました。方針内では「三位一体の労働市場改革による構造的賃上げの実現」が第一に提唱されています。方針通りに賃金が上昇した場合、物価上昇率の状況次第では、YCCの緩和が浮上する可能性も出てきました。
参考内閣府「経済財政運営と改革の基本方針 2023(仮称)(原案)」
植田総裁はインタビューにて、YCCの修正について、対象を10年金利から5年金利へと短期化することについても「可能性のひとつ」と述べました。YCCは、緩和だけでなく規制方向に修正される可能性もあります。
YCC撤廃の可能性は?
4月に植田総裁が就任した際は、YCC撤廃の期待もありました。しかし、植田総裁がYCC継続の意向を示したことから、緩和はあっても撤廃は当面なさそうです。
植田総裁は、「金融引き締めが遅くなりインフレ率が2%を超えるリスクより、拙速な金融緩和の終了により2%の物価安定目標を実現できなくなるリスクの方が大きい」旨の談話を残しています。慎重に粘り強く金融緩和を続け、確実に物価安定目標を達成したい植田総裁の意向からも、金融緩和政策の中心となっているYCCの撤廃は当面ないと考えられます。
イールドカーブコントロール(YCC)による不動産投資への影響
イールドカーブコントロール(YCC)は、不動産投資にも影響を与えます。不動産投資ローンを利用して物件を購入することが多いからです。
YCCは不動産投資にも多大な影響を与えます。YCCが不動産投資にどう影響を与えるのか、順を追って解説します。
YCCは金利に影響を与える
前述のとおり、YCCにより国債買入れが行われると市場金利も連動して変動します。市場金利が変わることで借入利率も変動するため、借入にも影響が出るのです。
金利変動は、不動産投資ローンにも影響を及ぼします。金利が上昇すると、借入期間の長さに応じて将来の返済額が増加。不動産投資のように長期のローンであるほど、金利が上がることで返済額も増加します。
不動産投資ローンへの影響
不動産投資ローンは、固定金利と変動金利の2種類。固定金利は長期金利の影響を、変動金利は短期金利の影響をそれぞれ受けます。ここからは、金利変動で受ける影響を、変動金利と固定金利に分けて解説します。
変動金利への影響
変動金利は、短期金利により決まります。そのため、変動金利は長期金利を操作するYCCの影響をあまり受けません。現在の短期金利はマイナスです。そこから金利が急激に引き上げられることはないと考えられます。とはいえ、YCCの対象が10年国債から5年国債に広げられたときは、影響が及ぶ可能性も否めません。
固定金利への影響
植田総裁も認めているように、近年は物価上昇率の高まりが見られています。日銀が「2%の物価上昇が達成された」と認めたときには、金融緩和が縮小され固定金利が上昇するかもしれません。そのときは、固定金利を採用する不動産投資ローンへも影響があることが懸念されます。
参考【2023年最新版】不動産投資ローンの金利はどのくらい?相場を比較
不動産投資ローンへの影響を最小限に抑えるには?
現在、不動産投資ローンでは変動金利が9割です。そのため、不動産投資ローンは、長期金利を操作するYCCの影響を直接的には受けづらいと考えられます。
とはいえ、固定金利の上昇に伴い、変動金利も上昇する可能性は否めません。YCCの展開によっては、今後不動産投資ローンの利率が上昇する可能性は十二分にあります。金利上昇対策として、次のような準備をしておくことも大切です。
- 金利が上がってもいいように、余剰資金を持っておく
- 金利上昇を想定したうえで利回りを計算し、物件を購入する
- 必要に応じてローンの借り換えを検討する
参考【2023年最新版】何%が目安?不動産投資における利回りを徹底解説!
まとめ
イールドカーブコントロール(YCC)は、我々の生活にも影響を与える政策です。車や家の購入などでローンの借入をする場合、早ければ今年中に影響が出る可能性があります。今後の物価・賃金の動向や日銀の動きを注視していきましょう。
不動産投資では、必要経費を減らすことで収益性を上げていく必要があります。YCCの見直しにより利上げが想定される場合「ローンの返済額が増えるから、今不動産を購入すべきではないのでは?」と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
当社では、中立的な投資家目線での無料相談を実施しています。不動産投資市場だけでなく、YCCの動向といった経済の動きを見てのアドバイスが可能です。不動産投資にあたってYCCの状況が気になるときは、ぜひ当社の無料相談を活用していただければ幸いです。
この記事の執筆: 堀乃けいか
プロフィール:法律・ビジネスジャンルを得意とする元教員ライター。現役作家noteの構成・原案の担当や、長野県木曽おんたけ観光局認定「#キソリポーター」として現地の魅力を発信するなど、その活躍は多岐に亘る。大学および大学院で法律や経営学を専攻した経験(経済学部経営法学科出身)から、根拠に基づいた正確性の高いライティングと、ユーザーのニーズに的確に応えるきめ細やかさを強みとしている。保有資格は日商簿記検定2級、日商ワープロ検定(日本語文書処理技能検定)1級、FP2級など。
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