不動産投資にも影響!カーボンニュートラルに向けた不動産業界の展望を解説
- 更新:
- 2023/07/12
脱炭素社会に向けた取り組みが世界中で行われています。日本も例外ではなく、2020年10月に菅元総理が「2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指す」と臨時国会で言及したことが話題となりました。
不動産業界においても脱炭素社会に向けた取り組みの影響は少なくありません。省エネ・再エネ設備の導入が設計時点で意識され、建築資材や重機も脱炭素化を考慮したものに代わる試みがあります。
さらに、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3要素を考慮した「ESG投資」が金融機関によって要請されており、脱炭素社会に向けて投資マネーの動きにも変化が生じると推測できます。そのため、脱炭素社会に向けた取り組みは不動産投資にも影響を与えると考えられます。
そこでこの記事では、まず「カーボンニュートラルとは何か」といった基礎的な解説から始め、2050年に向けて不動産業界が目指す方向性や具体的な取り組みをご紹介します。脱炭素化を意識した不動産投資の戦略についても解説していますので、今後の日本について知見を深めるためにもぜひご一読ください。
カーボンニュートラルとは
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする取り組みを指します。日本政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指し、温室効果ガス(CO2)の削減と吸収作用の強化に取り組んでいます。
「排出を全体としてゼロにする」というのは、温室効果ガスの排出量から森林などによる吸収量を差し引いた値をゼロにするという意味合いです。
カーボンニュートラルを目指す背景には、2015年のパリ協定で採択された以下の内容があります。
- 2050年までに産業革命前からの平均気温の上昇を2℃未満に抑えること
- 今世紀後半に温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡を達成すること
温室効果ガスの排出量により、地球の平均気温の上昇は2℃未満から5℃まで変化すると想定されています。
出典同上
地球の気候変動をなるべく抑えるために、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を目標に掲げています。
2050年に向け不動産業界が影響を受けるトピック
カーボンニュートラルに向けたアプローチを行うのは、不動産業界も例外ではありません。一般社団法人の不動産協会と日本ビルヂング協会連合会は、「不動産業における脱炭素社会実現に向けた長期ビジョン」において、不動産業界が影響を受ける社会情勢の変化をまとめています。
ここでは本資料をベースとして、4つのトピックに分けて不動産業界への影響要因をご紹介します。
トピックその1 脱炭素社会
気候変動に向け対策を行うことが、SDGsの項目のひとつに挙げられています。SDGsとは、2015年の国連サミットで採択された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のことです。
上記画像と資料から分かるように、気候変動に向けた対策も参画的に取り組まれることが政府主導で推進されています。具体的な対策としては、CO2を排出しない再生可能でクリーンなエネルギーを用いることや、エネルギー自体の省エネ化が挙げられます。
不動産業界としては、都市単位でカーボンニュートラルを実現する構造を創り上げることが目標となります。
トピックその2 自然と調和した社会
廃棄物の削減や生物の多様性の保持も、SDGsに記載された取り組むべき課題となります。
不動産業界としては、資源の3R:Reduce(リデュース)・Reuse(リユース)・Recycle(リサイクル)を意識した資源循環型の都市の実現や、自然の保全による生物多様性に配慮した都市の実現が目標となります。
トピックその3 レジリエントな社会
レジリエントとは、困難な問題や危機的な状況に遭遇してもすぐに立ち直れる状態を指します。気候変動やインフラの老朽化による災害にも対処できるような、防災意識の高いまちづくりがSDGsにおいても求められています。
不動産業界としては、新耐震基準法を遵守した建物の建築や、老朽建築物の解体の推進が取り組みとして挙げられます。
トピックその4 求められる価値の変化
直接の影響は少ないかもしれませんが、ジェンダー平等の実現や働き方の改革、健康と福祉といったテーマが総合的にもたらす価値観の変化は、不動産業界にも変化を与えます。
例えばテレワークの浸透により、オフィスの東京一極集中の解消やリモートでの仕事を前提とした分散型都市が実現すると、都市構造や人口動態の変化をもたらします。
不動産業界としては、新時代に向けた価値観の変化に対応できる都市づくりが取り組みとして挙げられます。
脱炭素社会に向けた不動産業界のアプローチ
脱炭素社会の実現に向け、「不動産業における脱炭素社会実現に向けた長期ビジョン」では設計・企画、施工、運用、解体の4段階でアプローチ内容が記載されています。それぞれについて解説を交えつつ、具体的に見ていきましょう。
設計・企画段階のアプローチ
建物の設計段階では、ZEH・ZEB化といった省エネ設計による一次エネルギーの消費量の削減が効果的とされています。
ZEHは「net Zero Energy House」、ZEBは「net Zero Energy Building」の略で、「年間での一次エネルギー消費量が正味でゼロ又は概ねゼロとなる建築物」と定義されます。具体的には、太陽光発電システムや自動換気制御システムなどを盛り込んだ、建物全体で総合的なエネルギー制御を行う構造体を指します。
また、建物自体の寿命を伸ばす設計や、既存施設や緑地の再利用も省エネ・省資源に関わる重要な取り組みとなります。
施工段階のアプローチ
施工段階では建築素材や重機の脱炭素化が挙げられます。また、建築の際に発生した廃棄物の分別や、掘削残土の再利用も環境に配慮したアプローチとなります。
環境への負荷が少ない建築素材として、ECMコンクリートが挙げられます。ECMコンクリートは従来のコンクリートに比べて約6~7割のCO2の削減が可能で、海水や酸への耐久性が優れているため、杭や基礎、地盤部分に適しています。
運用段階のアプローチ
建物の運用段階では、設計・企画段階で想定していたZEH・ZEBを始めとする設備が正しく機能しているかを検証・確認します。この企画・設計から運用までを一貫した検証プロセスを「コミッショニング」と呼び、建築物および設備の最適な運転に寄与します。
また、建築物の省エネ運用を可視化する方法にHEMS・BEMSの活用があります。
HEMSは「Home Energy Management System」の略で、家庭のエネルギー消費量の可視化・CO2削減のための機器制御・再生可能エネルギーや蓄電器の制御を行う監理システムのことです。BEMSはその商業ビル向けの監理システムを指します。
エネルギー消費量の削減に向け、経済産業省が中小規模ビルにおけるBEMS導入の助成金制度を設けるなど、政府主導での省エネ運用の促進が注目されています。
似た言葉としてFEMS、CEMSがあり、FEMSは工場用の監理システム、CEMSは先述の3つを総括した地域全体のエネルギー監理システムを指します。
コミッショニングやHEMS・BEMSの導入により、建築物の適切な運用が促されます。
解体段階のアプローチ
解体段階では施工段階と同様、重機の脱炭素化が求められます。また、建設素材をリサイクルすることで廃棄物を抑制します。
設計・企画段階に書いたように、既存施設の再利用も省エネ・省資源に繋がるため、建築物の解体自体が行われないに越したことはありません。しかし、老朽化による景観・治安の悪化や倒壊・延焼のリスクを加味し、解体を余儀なくされる建物も増えています。
建築物の解体には費用が掛かりますが、自治体の助成金制度を活用することで出費を抑えることが可能です。例えば世田谷区では、東京都の不燃化特区制度を活用し、「延焼による市街地の焼失率がほぼゼロになると言われる不燃領域率70%の達成」を目指して助成金制度を設けています。老朽化の進んだ建築物の建て替えや除却費用の助成に加え、固定資産税や都市計画税の減免といった税金面での補助も受けられます。
また、再利用の目処が立っていない空き家には不動産投資を行う余地もあります。下記の記事では社会問題となっている空き家対策について解説しているので、併せてご覧ください。
参考不動産の空き家が社会問題に!? 空き家対策が必要な理由から不動産投資への有用性まで解説!
脱炭素化による不動産投資への影響
脱炭素化に向けての世の中の変化や不動産業界のアプローチについてご紹介してきました。投資家の皆さんにとっては、脱炭素化が不動産投資にどのように影響するかについて興味があるのではないでしょうか。
不動産オーナーへの大きな影響としては、まず入居付けの際の広告に新たな訴求軸が加わったことが挙げられます。
例えば、先述したZEHのようなエネルギー制御設計やHEMSのようなエネルギー監理システムは、電気代等の生活インフラコストの抑制を売りにすることができます。
また、近頃はアクセス集中によりインターネット回線に遅延が生じることがしばしば問題となっています。そこで、テレワークに滞りなく臨めるインターネット回線を常設することで、リモートワーカーの入居付けを促せます。防災設備を売りにすることでレジリエントな生活を望む入居者を獲得するなど、SDGsや脱炭素社会に適応した広告戦略を取ることが可能です。
具体的なアプローチとしては、まず自身の所有する物件がSDGsのどの項目に訴求できる強みがあるか、また物件にどの強みを持たせるかを策定します。その上で、想定する入居者の年齢層や家族構成などを明確にし、SDGsへの参画意識をもつ入居者の心を掴む広告を作成します。
さらに、物件購入の前段階でも脱炭素・SDGsの要素を活用できます。投資する物件を探す際、脱炭素化やSDGsへの取り組み具合をエリア選定の判断材料とするのも有効です。
例えば東京都郊外の中でも緑地が多く存在する地域は、温室効果ガスの吸収量の面からカーボンニュートラルへの取り組みが盛んに行われることが想定できます。具体的には、「東京緑地計画」の名残のある地域が一例となります。
東京緑地計画とは、第二次世界大戦前の日本における、現東京23区に該当するエリアの周辺をグリーンベルト(緑地の帯)で囲う構想のことです。
東京緑地計画は、戦後の農地改革による緑地の縮小などを理由に頓挫しました。しかし、その後1968年の都市計画法に基づく都市開発を経て、東京緑地計画の一部が23区内外に名残として残っています。例えば世田谷区の砧公園、葛飾区の水元公園、小金井市の小金井公園などが挙げられます。
こうした地域は、2050年のカーボンニュートラルに向けて、CO2の吸収を促す緑地と共存した都市として注目される可能性が大いにあります。特に中長期的な不動産投資を検討している人は、脱炭素化に貢献するであろう都市を物件購入のエリアに組み込むことも一考の余地があるでしょう。
まとめ
今回の記事では、カーボンニュートラルについての解説、脱炭素化への取り組みが不動産業界に与える影響、そして不動産投資家が取れる戦略についてご紹介しました。
2050年というと先のことに思えますが、金融機関によるESG投資の要請などに誘発される形で、近いうちに脱炭素化に向けた動きが官民双方で可視化されると思われます。一歩先を見据えた投資戦略を立てるためにも、今のうちから脱炭素化のトピックにアンテナを張っておくとよいでしょう。
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