個人年金保険とは?老後のために知っておきたい仕組みやメリット・デメリットを解説!
- 更新:
- 2023/06/23
「老後は年金があるから大丈夫」と昔は現役世代に安心感を与えていた年金制度ですが、現在は安心とは言い難いと感じるのではないでしょうか。
日本の年金制度において最も大きな改革は、2004(平成16)年に行われた「年金改革」です。この改正では少子高齢化による年金の財源縮小を鑑み、保険料率の段階的引上げや実際の物価や賃金の上昇率より年金支給額の上昇率が低くなるように調整する「マクロ経済スライド」の導入による実質年金支給額の抑制が盛り込まれました。
その後も年金制度改正は続き、2013(平成25)年の改正では年金受給開始年齢が65歳に引き上げられ、今後も支給開始年齢の引き上げは続くと想定されています。
一方で日本人の平均寿命は延び、定年延長などの制度も整備されつつありますが「いつまで働けばいいのか」「定年延長がなかったら、年金支給までどうしたらいいのか」と不安を抱えているのが現役世代の正直なところではないでしょうか。
その不安を解消する一つの選択肢が「個人年金保険」です。本記事では老後の生活資金調達の選択肢として、個人年金保険の仕組みについて解説します。
個人年金保険とは
個人年金保険は、ひとことで言うと「公的年金にプラスして個人で加入する保険」です。
最初に個人年金保険の概要と公的年金との関係について大まかにおさえておきましょう。
個人年金保険の概要
個人年金保険は、老後の生活資金の準備を目的として保険会社が提供する保険の一種です。個人で加入して保険料を支払い、満期になると年金が支払われる仕組みになっています。
個人年金保険では保険料は満期まで保険会社によって株や債券で運用されます。種類によっては運用成績により保険料を上回る金額が支払われる商品もありますが、逆に保険料を下回るリスクもあります。
個人年金保険は、公的年金とは別に契約する私的な年金であるため、年金受給開始年齢や支払期間、受け取り方法など契約内容を自由に設定できるのが特徴です。そのため公的年金でカバーできない期間や金額を補い老後の資金を準備するための、一つの選択肢として考えられます。
年金制度と個人年金保険の位置づけ
個人年金保険の仕組みについて解説するために、まず公的年金の仕組みについて確認しておきましょう。
下の図のように年金は3段階あり、その中で公的年金は1-2階部分にあたります。第1号〜3号の3種類に分類され、国民全員に加入が義務付けられている基礎年金としての「国民年金」が1階部分です。その上に企業で雇用されている人のうち、条件に当てはまる人に加入義務がある「厚生年金」が2階部分としてあります。
この1階・2階部分は「公的年金」であり加入は義務ですが、その更に上に3階部分に「私的年金」として「国民年金基金」、確定給付企業年金制度(DB)や確定拠出年金制度(DC)などの「企業年金」、「個人型確定拠出年金(iDeco)」などがあり、こちらは「私的年金」として加入は任意となっています。
このように国民年金や厚生年金は「国の年金制度に基づいた基礎的な年金」、「企業年金」や「個人型確定拠出年金(iDeco)」は「国の年金制度に基づいた任意の年金」です。
一方個人年金保険は保険会社が運営する私的な「年金タイプの保険」であり、あくまで受け取りが年金式ではあるものの基本的には保険の一種となります。そのため、必要に応じて公的年金や確定拠出年金と併用することが重要です。
個人年金保険を選ぶときのポイント
個人年金保険は各保険会社から様々な商品が出ています。選ぶ際に気を付けたいポイントは次の3つです。
- 自分に合ったプランかどうか
- 保険会社の信頼性
- 商品内容と価格のバランス
まず、自分が老後どのくらいの額が必要で、公的年金や退職金、資産運用などその他の手段でそのうちのどれだけがまかなえるのか試算してみましょう。
その上で残りの必要な額と期間を満たし、かつ保険料を払い続けられるような支払い能力に見合った商品を選定する必要があります。保障内容、保険料、受取開始時期、支払い期間、解約返戻金などの条件について比較するほか、解約する可能性も考えて返戻率(払った保険料に対して解約時にどのくらいお金が戻ってくるか)もチェックしておきましょう。
そして、保険料を払ったのに予定していた年金額を受け取れないといったことがないよう、契約内容や商品のパフォーマンスだけでなく保険会社の経営状況や運用成績なども慎重に検討しましょう。
個人年金保険の種類と仕組み
個人年金保険は主に「期間」「受取額」「払い込み方式」の3つの視点から分類できます。それぞれの違いを理解し、自分に必要なのがどのタイプかを検討するとよいでしょう。
分類①:期間
一つ目が年金を受け取れる「期間」による分類です。以下の図のように、大きく分けて「終身年金」「有期年金」「確定年金」の3つがあります。また、「終身年金」「有期年金」には一定期間を保証期間として生死に関わらず年金を受け取れる保証期間付きのタイプがあります。
終身年金 | 「生存している間」「ずっと」年金を受け取れる (保証期間付きの場合、保証期間中は生死にかかわらず受け取れる) |
|
有期年金 | 「生存している間」「一定期間」年金を受け取れる (保証期間付きの場合、保証期間中は生死にかかわらず受け取れる) |
|
確定年金 | 「生死に関係なく」「一定期間」年金を受け取れる |
年金の受け取りというと、「もし受け取り期間の途中で死亡した場合、年金が受け取れなくて損にならないか」という心配を持たれるかもしれません。「決められた期間生死に関係なく受け取れる」タイプの個人年金保険であれば、期間中に被保険者が死亡した場合は残りの期間に対応する年金または一時金を受け取れます。
終身年金は年金の不足分をまかなう目的、有期年金や確定年金は退職から公的年金支給開始までの不足する生活費をまかなうのを主な目的として利用します。
分類②:受取額
二つ目の分類が、「年金の受取額が決まっている(定額)か変動するか(変額)」です。
個人年金保険には、定額個人年金保険と変額個人年金保険の2つのタイプがあります。定額個人年金保険では保険会社が保険料を元に投資を行い運用しますが、受取額は契約時に決めた金額から変わりません。
一方、変額個人年金保険においては保険の契約者が運用する投資商品を決め、運用した利益によって将来の年金受取額が決まります。
分類③:支払い方式
三つ目の分類が「保険料の支払いは分割か一括か」です。個人年金保険の支払い方法は月払いや年払いで保険料を支払う「掛金方式」と、一括で払う「一時払い方式」の2種類です。
月払いや年払いと比べ、一時払い方式の方が一般的に保険料の支払い額はトータルで安くなるほか、初期から運用額が多くなるため返戻率が高くなりやすいメリットがありますが、後述する個人年金保険料控除が使えない点を考慮する必要があります。
個人年金保険のメリット・デメリット
個人年金保険には金額面、期間面における公的年金で不足する部分を補えるなどのメリットがある反面、商品選択によってはその目的を果たせないリスクも持ちえます。
個人年金保険のメリット
個人年金保険のメリットは大きく分けて「商品選択の自由度が高い」「支払い能力に合わせて老後資金を準備できる」「節税効果がある」の3つです。
メリット①:年金受給開始日や支払い期間を自由に選択できる
一般的に個人年金保険では、受け取り開始年齢が55歳〜75歳の間、年金の受取期間は5年・10年・15年などで自由に選べるケースが多くなっています。
例えば「会社の定年から年金支給開始までの収入の途切れる期間だけ受け取りたい」という会社員や「公的年金だけでは生活費がこころもとないので高額でなくても生涯受け取って生活の安心が欲しい」といった夫婦などニーズは様々です。個人年金保険では年金受給開始日や年金が支払われる期間を自分で選択できるため、個々の老後のライフプランに合わせた年金の支払いを受けられます。
年金の受取年齢を早くして老後すぐの資産の目減りを防いだり、逆に会社の定年が延長されるなどの場合には支給開始年齢を遅らせて繰り下げ受給にしたりして、個人年金保険の年金額を増額させるのもよいでしょう。
ただし終身年金の場合、長生きを前提としているため想定より早く亡くなってしまうとトータルでは損になる可能性もあり、どの期間の補填を重視するかを考える必要があります。
メリット②:払込期間や支払い額を自由に設定できる
受け取り面だけでなく、支払い期間や支払い額も自由に設定できるのが公的年金と違う個人年金保険のメリットと言えます。
保険会社が運用する個人年金保険は比較的ローリスクであり、その分ローリターンではありますが基本的に支払い額より受取額が多くなります。現在の預金利率と比較すると個人年金保険は貯蓄の代わりとしても有効であり、無理のない範囲の金額を長期的に積み立てることで老後資金をスムーズに準備できるというメリットがあります。
メリット③:節税効果がある
個人年金保険に加入して保険料を支払っている場合、生命保険料控除に加えて「個人年金保険料控除」が利用でき支払った金額に応じて所得税や住民税が軽減されるため、貯蓄と違い節税効果があるという税制面でのメリットも大きいです。
ただし控除を受けるためには保険契約が以下の全てを満たす必要があり、満たさない場合は一般の生命保険控除のみが適用されます。
- 年金受取人が契約者または配偶者である
- 年金受取人 = 被保険者(保険金の支払い対象)である
- 保険料の払込期間が10年以上
- 確定年金あるいは有期年金の場合は年金受給開始時に被保険者が60歳以上かつ年金受取期間が10年以上である
個人年金保険のデメリット
一方、個人年金保険のデメリットは「中途解約の場合に支払った保険料より返戻金が低くなる可能性があること」と「受け取り時までの運用利回りやインフレなど社会情勢の変化により受取額が減るリスクがあること」の2つです。
デメリット①:解約すると損失が発生する
個人年金保険では長期間支払いを続ける前提のため、もし支払いを継続できなくなり早期に解約した場合には損失が発生する可能性があります。特に一時払いで契約した個人年金保険を解約すると、解約返戻金が大きくなるため一時所得として課税額も増えます。
もし契約時と状況が変わり支払いが続けられない場合、その時点までの解約返戻金を基に受取額が少なくなる代わりに以後保険料を支払わずに契約が続行できる「払済保険」や、解約返戻金を基に同じ受取金額で受取期間を短くする「延長保険」に変更するのもひとつの方法です。
デメリット②:思ったような金額を受け取れない場合がある
途中解約以外にも、個人年金保険では期待していた金額を受け取れないリスクの存在を忘れてはいけません。変額個人年金保険の場合、保険料を運用している以上、利回りは市場金利や商品価格の変動に影響されます。また、外貨建ての商品であれば為替にも影響を受けます。
定額個人年金保険でも、インフレになった場合に実質資産価値が下がるというデメリットがあります。インフレによる実質資産価値の低下は預貯金でも同様ですが、定額受け取りだから安心という訳ではありません。
また、保険会社が経営破綻した場合、生命保険契約者保護機構により保険契約は保護されますが保険料が全額補償されるわけではないため保険会社の安定性も重要です。
個人年金保険は必要?個人年金保険に入るべき人
それでは個人年金保険に入った方がよいのはどのような人でしょうか?以下の3つに当てはまる方は加入を検討してもよいでしょう。
- 自営業者や企業年金に加入できない人
- 国民年金や厚生年金だけでは不十分と考える人
- 収入が高い人
自営業者や、企業年金に加入できない個人経営の事業所に勤めているような場合やパート・アルバイトの場合、国民年金のみで老後の生活をまかなうのは難しいでしょう。その場合は収入があるうちに個人年金保険へ加入して、老後の生活資金を前もって確保しておくのも安心につながります。
特に自営業者の場合、事業所得に課税されるため保険に加入すると安心を得るだけでなく節税にもなります。そのほかにも、収入が高い場合には保険料控除の節税効果が高くなるため加入がおすすめです。
まとめ
公的年金に加えて加入できる個人年金保険は、老後の生活費用を確保するための一つの手段です。
個人年金保険は自分のライフプランに合わせて年金受取日や金額などを自由に選べて公的年金で不足する期間や金額を補えるほかにも税制面でメリットがある一方、デメリットとして中途解約や運用結果、インフレによる資産価値の低下により思ったような金額を受け取れないリスクがあります。メリット・デメリット、契約タイプや保険会社の信頼性を踏まえて自分に合った保険を選択しましょう。
公的年金を基本に、個人年金保険や投資など様々な選択肢を検討・活用しながら資産を形成して長い老後に少しでも不安を感じないように過ごしたいですね。
この記事の執筆: ひらかわまつり
プロフィール:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士資格を有するママさんライター。親族が保有するマンションの管理業務経験を有するなど、理論・実務の両面から不動産分野に高い知見を持つ。また、自身でも日本株・米国株や積立NISAなどを行っていることから、副業や投資系ジャンルの執筆も得意としている。解像度の高い分析力と温かみのある読みやすい文章に定評がある。不動産関連資格以外にも、FP2級、日商簿記検定2級、建築CAD検定3級、TOEIC815点、MOSエキスパートなど多くの専門資格を持つ。
ブログ等:ひらかわまつり