残価設定型住宅ローンで家の持ち方が変わる?4つのメリットや不動産投資への影響を解説!
- 更新:
- 2023/09/07

最近「残価設定型住宅ローン」という新しい住宅ローンが普及し始めています。「月々の支払いを抑えてお得に車に乗れる!」とアピールする、いわゆる「車の残クレ」と似ていますが、詳しく調べると少し違う仕組みだと分かるでしょう。今後は、残価設定型住宅ローンを使った新しい家の持ち方が主流になるかもしれません。
そこで今回は残価設定型住宅ローンの仕組みや概要、4つのメリット・3つのデメリットを詳しく解説します。また「残価設定型住宅ローンの普及で不動産投資の需要がなくなるのでは…?」と不安を感じている方のために、不動産投資への影響も徹底解説。この記事を読んで、これからより広がる残価設定型住宅ローンについてぜひしっかりと知っておきましょう。
残価設定型住宅ローンって何?
そもそも「残価設定型住宅ローン」とはなんなのか、なぜ話題となっているのか順に解説していきます。勘違いしている人も多いですが、残価設定型住宅ローンはすでに浸透している「車の残クレ」とは若干異なる仕組みです。ぜひ違いを押さえておきましょう。
残価設定型住宅ローンの仕組み
残価設定型住宅ローンとは、契約時に「残価(ローン完済月に予想される住宅の価値)」を設定し、住宅価格から残価を差し引いた金額を契約月数で割って返済していく、新しいタイプのローンのことを指します。
住宅価格をまるごと月割りで返済していく通常の住宅ローンと比較し、ローンの完済月にあたる「残価設定月」までの月々の支払負担は大きく減少します。そして一般的な残価設定型住宅ローンでは返済期間が終了するタイミングで、下記5つの選択肢のいずれかを選ぶことが可能です。
- そのまま返済を続ける
- ローンを一括返済して住宅を買い取る
- 住宅を売却してローン残高を0にする
- 残価分の住宅ローンを80歳になるまでの期間で組み直す
- リバースモーゲージ型住宅ローン(※)へ乗り換える
※リバースモーゲージ型住宅ローン:死亡時に担保とした家・土地を処分してローン残債を返済する住宅ローン
つまり残価設定型住宅ローンは返済負担を減らしながら住み続けたり、家を売ってローンを完済したりと自由度が上がります。「一度ローンを組んだらひたすら払い続ける」従来の住宅ローンと比較し、持ち家に住むハードルは下がるといえるでしょう。
残価設定型住宅ローンが使えるのは「認定長期優良住宅」のみ
現時点で残価設定型住宅ローンが使えるのは、基本的に長く・良い状態で住めるような措置などがさまざま施された「長期優良住宅」の認定を受けた住宅のみです。長期優良住宅の認定を受けるためには、下記10の項目について基準をすべて満たす必要があります。
- 劣化対策
- 耐震性
- 省エネルギー性
- 維持管理・更新の容易性
- 可変性
- バリアフリー性
- 居住環境
- 住戸面積
- 維持保全計画
- 災害配慮
詳しくは割愛しますが、各項目とも審査基準が細かく設定されており、認定のためには多額の設備・資材への投資が必要でしょう。なお2022年3月末の時点で、長期優良住宅に認定された新築住宅は全国1,356,319戸。そのうち1,330,333戸を戸建てが占めており、マンションなどの共同住宅はわずか25,986戸です。
参考国土交通省「長期優良住宅の認定状況について(令和4年3月末時点)」
つまり、残価設定型住宅ローンが使えるのはほぼ戸建て住宅。「気になっているマンションに残価設定型住宅ローンで住もう」という使い方はできない可能性が高いでしょう。
2023年3月にメガバンクが初導入し話題に
残価設定型住宅ローンは、2023年3月にメガバンク「三菱UFJ銀行」が初めて導入し話題となりました。
参考PRTIMES『メガバンク初「残価設定型住宅ローン」の取扱いを開始』
もともと残価設定型住宅ローンという仕組み自体は存在しましたが、三菱UFJ銀行が乗り出したことによって知名度が加速。追随するように楽天銀行など大きな金融機関も同様のサービスを導入しており、今後も取り扱う事業者が増えてくるものとみられます。
空き家問題解決や住居移動の活性化を目的に国が開発・推進している
実は残価設定型住宅ローンは事業者が独自に推し進めているわけではなく、国が「空き家問題解決」や「住居移動の活性化」を目的に2020年ごろから開発・推進しています。残価設定型住宅ローンが広く認知・利用されれば、結果として資産価値を維持しやすい「長期優良住宅」が多く建てられるためです。
高齢化などを理由に増え続ける空き家へ対策するには、ひとつの家を持ち続けなければいけない従来の住宅ローンに縛られない仕組み作りが重要。変化する国民のライフスタイルに柔軟に対応するためにも、残価設定型住宅ローンは日本に必要な制度のひとつといえるでしょう。
残価設定型住宅ローンの4つのメリット
残価設定型住宅ローンの利用には、下記4つのメリットがあります。
- 月々のローン返済負担が減る
- 資産価値が下がっても売却時にローンが残らない
- 「収入が下がったら売却」の選択肢が生まれる
- 住み替え・移住が容易になる
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
メリット①:月々のローン返済負担が減る
残価設定型住宅ローンでは通常の住宅ローンと異なり、契約開始時に設定した「残価(ローン完済月に予想される住宅の価値)」を住宅価格から差し引いた金額を月割りで支払っていく仕組みです。月々のローン支払い負担が軽減されるため、より多くの資金を普段の生活に回せます。家を持つことへのハードルも大きく下がるでしょう。
メリット②:資産価値が下がっても売却時にローンが残らない
残価設定型住宅ローンでは、万が一住んでいる家がボロボロになって資産価値が下がったとしても、売却時にローンは残りません。ローンの完済月に相当する「残価設定月」以降は、残価での買取が保証されています。
従来の住宅ローンの場合、もし住宅の状態が悪くなってしまえば「住宅の売却価格 < ローンの支払い残高」となり、売却しても残額の一括返済が必要です。「もう住まないけど家のローンの支払いだけが残っている」という事態も回避できるでしょう。
メリット③:「収入が下がったら売却」の選択肢が生まれる
残価設定型住宅ローンを利用すれば「万が一将来的に収入が下がったら売却する」という選択肢が生まれます。残価設定月以降もそのまま返済を続け、どうしても支払いが困難になったら好きなタイミングで売却が可能です。
従来の住宅ローンでは「住宅の売却価格 < ローンの支払い残高」となるケースがほとんどのため、多くの自己資金がないと簡単には売却できませんでした。これからはどうしても一時的に収入が減る転職なども検討しやすくなるかもしれません。
メリット④:住み替え・移住が容易になる
残価設定型住宅ローンを活用すれば、住み替えや移住が容易になるでしょう。残価設定月以降は残価で住宅を売却してローン残高を相殺できるので、また新しく別のローンを組んだり、賃貸に切り替えたりできます。
たとえば「子供が巣立ったから狭い家に住み替えたい」「支店勤務だったけど、キャリアアップで本社へ転勤したい」といったシーンにも柔軟に対応可能。人生における拠点の選択肢がより豊富になり、さまざまなライフプランに合致した計画を立てられるでしょう。
残価設定型住宅ローンの3つのデメリット
残価設定型住宅ローンには、下記3つのデメリットもあります。
- 期間延長時の支払総額は通常のローンよりも高くなる
- ローンの完済後もお金が必要になる
- 金利の負担が大きい
「月々の返済額が安い」といったメリットのみを見て契約すると、実は損をしてしまうケースも。しっかりデメリットも押さえておきましょう。
デメリット①:期間延長時の支払総額は通常のローンよりも高くなる
残価設定月以降も期間延長して住み続けた場合、支払総額は通常の住宅ローンよりも高くなってしまいます。これは期間が長くなる分、金利を支払う期間も増えてしまうためです。「一生この家に住み続けるつもり」なら、普通の住宅ローンを契約したほうがお得になるケースもあるでしょう。
デメリット②:ローンの完済後もお金が必要になる
残価設定型住宅ローンは完済後に複数の選択肢があると解説しましたが、いずれを選んでも住む場所を確保するのにはお金を用意しなければいけません。残価相当の金額を支払って家を買い取っても、新しい住宅ローンを組みなおしても、売却して賃貸住まいに切り替えても自己資金が必要です。
月々の負担こそ軽減されるものの、将来的にかかる費用を見据えておかないと、住む場所の確保すらできないリスクが降りかかります。残価設定型住宅ローンを使うなら、ある程度住んだタイミングでその後のライフプランを固めて、資金に困らないような計画を立てましょう。
デメリット③:金利の負担が大きい
残価設定型住宅ローンの多くは通常よりも高い金利が設定されており、結果的に負担が大きくなっています。たとえば三菱UFJ銀行が提供する残価設定型住宅ローンの場合、通常の住宅ローンの借入金利に年0.2%を上乗せした金利が適用されると記載があります。
参考三菱UFJ銀行『「残価設定型住宅ローン」の取扱い開始について』
たとえば3,000万円を返済期間20年間で借入した場合、金利が0.2%上がると月々の返済額はおよそ3,000円も増加します。ほぼ同条件の賃貸物件を契約したほうが、負担を抑えてお得に住めるケースもあるでしょう。
残価設定型住宅ローンの普及は不動産投資に影響する?
結論からいうと残価設定型住宅ローンの普及は、一般的なワンルームマンションへの不動産投資にはほとんど影響しないものとみられます。しかし戸建て投資には大きなマイナスの影響を与える可能性があるので注意が必要です。詳しく理由を見ていきましょう。
一戸建ての長期優良住宅は年々大きく増加中
記事内の『残価設定型住宅ローンが使えるのは「認定長期優良住宅」のみ』でも軽く触れましたが、残価設定型住宅ローンの対象となる「長期優良住宅」の認定を受けている物件はほとんどが一戸建てです。マンション等の共同住宅が年間数百戸 ~ 4,000戸程度しか認定されていない中、戸建て物件は毎年10万件以上のペースで増加しています。
参考国土交通省「長期優良住宅の認定状況について(令和4年3月末時点)」
つまり戸建て投資のライバルに、残価設定型住宅ローンを使える住宅が徐々に加わってくる可能性が高いということ。「戸建てなら賃貸に住むより、残価設定型住宅ローンを使ったほうがお得なのでは?」と戸建て賃貸住まいを敬遠する層が増えていくと予想されます。これからの戸建て投資は慎重に検討したほうが良いでしょう。
マンション・アパートはコストが高すぎてなかなか増加しない
マンションやアパートは、残価設定型住宅ローンの対象となる長期優良住宅認定を受けた物件がなかなか増えません。これは長期優良住宅の認定基準が厳しく、認定されるためにかかった費用を回収できないリスクが高いからとみられています。
住む人の目線から見ても、残価設定型住宅ローンをマンション・アパートの1室に適用した場合、賃貸で住むのと費用はあまり変わらない可能性が高いです。なんらかの大規模な補助金が始まらない限り、長期優良住宅認定を受けたマンション・アパートはなかなか増えないでしょう。
マンションのターゲット層は長く同じ家に住まない人がほとんど
不動産投資のメイン物件であるマンションのターゲット層は、単身者や転勤族です。そもそも10年以上のような長いスパンで住み続ける人が少ないため、この層が残価設定型住宅ローンでマンションの一室を購入するとは考えづらいでしょう。
そのため残価設定型住宅ローンが普及したからといって、マンションの賃貸需要はほとんど変わらないと予想できます。これからも安定した家賃収入が得られる可能性の高い「ワンルームマンション投資」に興味のある方は、ぜひ当サイトに無料会員登録して、非公開の物件情報や不動産投資の基本を学べる電子書籍をチェックしてみてください。
まとめ
残価設定型住宅ローンとは、契約時に「残価(ローン完済月に予想される住宅の価値)」を設定し、住宅価格から残価を差し引いた金額を契約月数で割って返済していく新しいローンのことを指します。月々の返済負担が軽減され、負担を残さずに住み替えや売却などを選択できるのが大きなメリットです。
それに対して金利負担が大きくなったり、総支払額が大きくなったりするのは残価設定型住宅ローンのデメリット。また完済後に住む場所を確保するにはどの選択肢をとっても自己資金が必要になるので、しっかりと将来のライフプランを練りながら利用する必要があります。
残価設定型住宅ローンの普及により、戸建て投資は賃貸需要減の影響を受ける可能性が高いです。しかしマンションの場合は、ターゲット層が長く同じ部屋に住まない「単身者」や「転勤族」であることから、なかなか残価設定型住宅ローンが普及しないものとみられます。これからもマンションの賃貸需要はほとんど変わらないでしょう。
老後資金の形成や節税のために不動産投資を検討している方には、残価設定型住宅ローンの普及の影響をほとんど受けない「ワンルームマンション」への投資がおすすめです。当社ではワンルームマンションをはじめとした数多くの物件を取り扱っています。予算等の希望にしっかり合致したご提案をいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

この記事の執筆: 及川颯
プロフィール:不動産・副業・IT・買取など、幅広いジャンルを得意とする専業Webライター。大谷翔平と同じ岩手県奥州市出身。累計900本以上の執筆実績を誇り、大手クラウドソーシングサイトでは契約金額で個人ライターTOPを記録するなど、著しい活躍を見せる大人気ライター。元IT企業の営業マンという経歴から来るユーザー目線の執筆力と、綿密なリサーチ力に定評がある。保有資格はMOS Specialist、ビジネス英語検定など。
ブログ等:はやてのブログ